【2009年11月21日/2022年11月追記】中央線古書展で岡崎武志氏(?)をお見かけする

【2009年11月21日】
『煙草巡礼』を読みながら高円寺の西部古書会館へ。今日は中央線古書展。
まずガレージ会場から『新聞』土屋清(アテネ文庫)100円を手にとる。室内会場へ入ると、帳場の脇に今回の目録が積んであったので1冊もらう。すると「そこの紙に住所と名前を書いておけば次回の目録を発送しますよ」と当番の人に声をかけられた。せっかくだから登録してみた。

小酒井不木全集の端本が3冊並んでいて、価格はいずれも手ごろな1000円だった。今のところ全巻を揃えるという気構えはないし、3冊いっぺんに買うと財布が苦しいし、それでも1冊くらいは欲しいから、「文学随筆及書簡」の第12巻を選んでみる。
その少し横には朝日文化手帖の大下おおした宇陀児うだる『誰にも言えない』があってこれも面白そう。けれど値札が貼っていない。ひょっとして目録掲載品なのかもしれないと思い、さっきもらった目録をめくってみると251番に『誰にも言えない』が載っていた。うひゃあ6000円の値が記してある。帳場に訊かないでよかった。目録品とは別の1冊が並んでいると考えられなくもないけれど、6000円が目安だとすれば、それ以上の深入りはせずにそっと棚に戻す。

背も表紙も小口も、表面はすべて汚れて黒ずんだ1冊を引き抜くと、谷脇素文(たにわきそぶん)の川柳漫画『いのちの洗濯』だ。500円だ。外函なし、よれよれにくたびれた本ではあるのだが、これはきっと、おまえにはおまえの身の丈にあった古本がある、という古本の神様のお告げなのだろう。
それから別の棚では川柳漫画全集第5巻『案山子は踊る』を見つける。600円。

戸川秋骨『楽天地獄』(現代ユウモア全集)300円、コルビュジエ『建築をめざして』(鹿島出版会)500円などを加えて会計に向かうと、お客さんのなかに、ハテ、口髭のあの方は、もしかすると岡崎武志氏ではないだろうか。ちくま文庫で見た著者紹介の写真とよく似ている。古書展の会場でお見かけしているのだから、たぶんそうなのだろう。古本の名人は、どのような本をどのように選択されているのか、斜めうしろにぴったり張りついて拝見したかった……。

高円寺ガード下、都丸支店の店頭棚で鱒書房の「ニュースマン・シリーズ」を2冊。『特ダネ選手』戸川幸夫と『夕刊小僧』辻本芳雄、各500円。もう一声安く、300円だとうれしいところだけれど、『特ダネ選手』の装幀と挿絵が鈴木信太郎ということもあって、見かけたときに買うことにする。『夕刊小僧』は勢いで。

荻窪、ささま書店。昨日、炭鉱展を見たばかりということもあり、『ズリ山が語る地域誌』岩間英夫(崙書房ふるさと文庫)を買う。副題は「常磐南部炭田の盛衰」、315円。
ムナーリ『ナンセンスの機械』が、ビニールにくるまれて、棚の側面に恭しく飾ってある。12600円。このあいだは、まんだらけでも見かけたのだが、あのときより3000円ほど高価なのは、帯が備わっているからだろうか。いずれにしても1万円前後が相場なのかもしれない。ため息だ。
あ、向こうからまたしても、口髭のあの方は……。

2009年11月21日 今日の1冊
*中央線古書展/西部古書会館
『いのちの洗濯』谷脇素文(大日本雄弁会講談社/昭和5)500円

谷脇素文「いのちの洗濯」表紙

【2022年11月追記】
中央線古書展とその後のささま書店でお見かけした方は、たぶん岡崎武志氏だったのだろうと思います。
『古本でお散歩』『古本極楽ガイド』『古本生活読本』(以上、ちくま文庫)、『気まぐれ古書店紀行』『気まぐれ古本さんぽ』(以上、工作舎)など、その著書は多数ですが、いずれも古本世界の基本図書です。
それらの本を読み耽ることによって、広大な(そして愉快な、へんてこりんな)古書の世界への扉が開いたと言っても過言ではありません。
ご本人は迷惑がるでしょうけれども、ひそかに「師」と呼んで私淑している次第であります。
以後たびたび、即売展の会場で、古本屋さんの店先で、岡崎氏の姿をお見かけしています。声をおかけしたことはありません(心の中では「愛読者です」と申しておりますが)。
いつも古本のある所でお見かけしていましたし、それが当然でありましたから、いちど、中央線の電車に乗り合わせたときは変な具合にびっくりしました。

川柳漫画集『臍茶問答』の購入をきっかけに、一時期「川柳漫画」の本を探していました。
「川柳漫画」とは、川柳一句に漫画(挿絵)を添えた素朴な形式ですが、大衆から親しまれ、昭和初期には一種の流行にまでなったそうです。
その創始者が漫画家の谷脇素文。著書『川柳漫画うき世さまざま』(大日本雄弁会講談社/昭和2年)刊行の後、昭和5年から6年にかけて、平凡社から『川柳漫画全集』(全10巻)が出版されたことによって、その人気はいよいよ高まります。
流行に伴い、多くの漫画家が川柳漫画を手掛けるなかにあっても、「素文マンガ」として飛び抜けた評判を得ていたようです。
川柳の普及にも貢献した素文でしたが、しかしその絵柄が先生方のお気に召さなかったのか、川柳界からは冷遇を受けたということでもあります。
〔*参照『川柳総合事典』尾藤三柳編(雄山閣出版/平成8)〕

『いのちの洗濯』の発見は私なりに会心の一事でしたが、ただ川柳漫画に関しては、どうやらにわか仕込みの興味だったようで、ほどなくして、あっけなくほとぼりは冷めてしまいました。
この日は川柳漫画全集の『案山子は踊る』を一緒に買っていますが、そのうち川柳漫画全集を即売展で見かけても、横目でちらりと見て素通りする始末。
全10巻のうちの3、4冊を手に入れたきり購入は途絶えました。
ちょっと手をつけてすぐ飽きる。古本探しの好ましくない例です。