【2009年11月27日/2022年11月追記】五反田遊古会で新書判を漁る

【2009年11月27日】
南部古書会館、五反田遊古会。
1階会場で、まずは「野口米次郎ブックレット」が眼にとまる。6、7冊並んでいて、版元はこのあいだ買った『表象抒情詩』と同じ第一書房。巻末の広告によると、このブックレットは野口米次郎の定本全集になるとのことだ。そこにあった数冊のなかでいちばん数字の大きな第23編の広告にも「以下続刊」とあり、全何編だったのかは判らない。ほとんどが裸本のなかで、かろうじてカバーの残っている第19編『真日本主義』を試しに買ってみる、200円。先日の中央線展、ささま書店に続いて、また口髭のあの方(たぶん岡崎武志氏)を見かける。渋沢秀雄『随筆やたら漬』(河出新書)200円、ユグナン『荒れた海辺の日記』(筑摩書房)500円などを加えて1階では5冊

2階へ上がると、松川二郎『名物をたづねて』の姉妹篇『民謡をたづねて』があった。函付で1500円。函も本体もほとんど傷みがなくて、なるほどきれいな本にはきれいな本ならではの魅力がある。さらには近藤飴ン坊『川柳をたづねて』という本も見かけた。名物、民謡、川柳と、これら『……をたづねて』にはいずれも「趣味の旅」という角書きがあり、一連の読み物として発行されたようだ。しかし、民謡も川柳も、たずねなくてもよいかなと思い、せっかく見つけたのだったが、どちらも購入は見送る。
粋筆、お色気、エロのあれこれをずらりと集めた棚があってときめいたが、価格の設定はやや高め。『今晩はホン屋です』、副題「大日本Yホン物語」が2500円。『乳房の美学』が1500円。魅惑の新書判だが、あるいはそのうち、数百円でひょっこり見つかるかもしれない、見つかることを祈りつつ今日は見送る。

新幹線が開通する前の時刻表(昭和34年3月号)があって、100円。かなり使い込まれた1冊で、背表紙には補修の跡もある。小型版だから、旅行か出張か、鞄の片隅にお供してあちらこちらの町々を経巡ってきた1冊なのかもしれない。昔の時刻表は簡単に手の出せない古書価がついていることが多いのだが、ここまでくたびれているとそうでもないのかもしれない。どうやら私の手許には、安くてくたびれた本が打ち寄せられるようになっているみたいである。
ひとつの書台の下を見ると、床の上にたくさんの新書判が無雑作に並んでいるじゃないか。横山泰三、小野佐世男、玉川一郎など、ざっと見てみると、どれも200円から500円のあいだ、うれしさのあまり頭が混乱してしまった。
『粋は異なもの』岩佐東一郎(美和書院)300円
『河童漫筆』火野葦平(旅窓新書)300円
『泰三戯筆』横山泰三(四季新書)500円
『女・ところどころ』小野佐世男(文陽社)500円
『女体検診』竹村文祥(コバルト新書)200円
『随筆女百話』武野藤介(ハッピー新書)200円
『シャレ紳士録』玉川一郎(潮文社新書)200円
『ほるもん博士随筆』寺田文次郎(妙義出版)300円
『漫画集団Ⅰ』漫画集団(四季新書)500円
『女の地図』組坂松史(あまとりあ社)300円
軽い目眩のうちに拾い集める。

南部会館のあとは神保町へ。一誠堂書店の店頭100円均一に、ついさっき500円で買ったばかりの『女・ところどころ』が……。ううん、古本の神様はそんなに甘くはない。
古書モールで見つけた徳川夢声『お茶漬哲学』(文藝春秋新社)500円には、小口に〈新刊貸本・たから書房〉の印が捺してあった。人から人へ本が巡るということは、頭で考えればしごくもっともなことなのだが、それがどのように巡り巡ってここに辿り着くのか、実際に自分の手の中に収まってみると、やっぱり不思議だ。小宮山書店のガレージセールではまたまた口髭のあの方を。
西部古書会館、ささま書店、南部古書会館、小宮山書店。他人の空似ということもないとは言えないけれど、もうあの方は岡崎氏であると断定してしまおう。

2009年11月27日 今日の1冊
*五反田遊古会/南部古書会館
『女・ところどころ』小野佐世男(文陽社)500円

小野佐世男「女・ところどころ」表紙

【2022年11月追記】
粋筆、漫筆、戯筆。それら昔の新書判を200円、300円くらいの安価で拾い集める。何とも言えない愉悦です。
この日も南部古書会館と小宮山書店で岡崎武志氏をお見かけしていますが、昔の新書判、特に昭和30年代に刊行された新書判の魅力については、岡崎氏の古本エッセイに教わったのでした。
岡崎氏のほかにも、横田順彌氏や北原尚彦氏や、紀田順一郎氏、青木正美氏、山下武氏……、じつに数多くの古本エッセイがあります。
それらの本を読んでは、その中で取り上げられている本に一目惚れをして、自分でも探してみたくなるわけです。
早い話が、先達の道をなぞるというのか、ただ真似をしているということにもなりかねませんけれど、入門者にとって、やはり先達の歩いた足取りは、この上ない道しるべとなります。
名人の文章によって鮮やかに紹介されると、その文章のほうが実際の本よりも面白いということが多々あります。