【2010年1月29日】
神保町古書店街。〈今日の店頭〉は明倫館書店から、吉岡修一郎『数学茶話』『数のシーズン』(学生社新書)各300円、数学随筆を2冊。田村書店の100円段ボール箱に首を突っこみ、小宮山書店のガレージをうろうろ。村山書店店頭から『内地雑居後之日本』横山源之助、岩波文庫200円。
三茶書房では『書道と画道』津田青楓(市民文庫)300円。三茶書房は店頭の文庫本を1冊買っただけでもカバーをかけてくれる。「そのままで」、と断わろうとするよりも早く、帳場の御主人は鮮やかに折目正しく包んでくださるので、何も言わずに見とれてしまった。
東京古書会館、趣味展。
会場に入ってすぐ左手の棚、「未来劇場」と銘打たれた小冊子の戯曲集がたくさん並んでいる。裏表紙には氏名欄があって、どれを見ても大久保某さんのゴム印が捺してあった。どれも1冊100円だったので、かげぼうし、デタラメ党、閻魔、と題名の字面に惹かれた3冊を抜き出す。
今日の未来劇場(未来社)各100円
『かげぼうし幻想』内木文英
『デタラメ党正直派』山本雪夫
『閻魔の眼玉』岩野泡鳴
同じ棚の上段に目をやると、通叢書の『古今いかもの通』が表紙をこちら向きにして置いてある。表紙に巻かれた浅草御蔵前書房の帯紙の、紫色の罫線が凛々しい。金2,500円。値段も凛々しい。
そのままさらに先へと進んで、正木不如丘『詭弁勘弁』(春陽堂)800円を手にとったとき、ふと何者かが耳もとでささやいたのだ「いかものだぞ」そうか、いかもの、か……。
買うつもりで手に持っていたハヤカワライブラリーの『土俵』と『けもの紳士の昼と夜』を元の棚に戻して、よしそれでは、いかものを買ってしまえ。
この値段の水準で溜息したり発奮したり、ずいぶんはかない懐具合だが、それはそれとして、私なりにこうして思い切ると、古本世界を少しだけ遠くまで眺望できたようで、さっぱりする。
そのあとの田中比左良『女性美建立』は中央美術社「漫画六家撰」の1冊。函はなく、相当に虫喰いがあり、その虫が喰った穴をセロテープで塞いである。廃棄寸前の本に見えないこともないのだが、しかし300円だものなあ。愉快だ。
2010年1月29日 今日の1冊
*趣味展/東京古書会館
『古今いかもの通』河原萬吉(四六書院=通叢書/昭和5)2500円
【2022年11月追記】
2500円で「発奮」とはずいぶん大げさな、と思います。
「0」の数が1つか2つ足りないようです。
しかし日頃から、100円200円と、廉価本の周囲をうろつく身にとって、2500円という金額はそれなりの思い切りが必要になります。
「通叢書(つうそうしょ)」は、昭和5年から6年にかけて、四六書院が続々と刊行したシリーズです。全部でどれくらいあるのか、正確な巻数を把握していないのですが、40巻以上は刊行されているはずです(国会図書館の蔵書では47巻)。
『映画通』『果物通』『銀座通』など、1冊につき1つのテーマで、各冊とも、その道の専門家あるいは達人と呼べるような著者が執筆しています。
それぞれ200ページに満たない小冊ながら、叢書名のとおり「この1冊であなたも通人になれる」といったような実用百科です。
即売展に出品されることも割合に多く、何度か即売展の会場へ行くうちには自然と目にとまる機会が訪れると思います。常連のお客さんにとってはお馴染みの叢書と言えるでしょう。書目や状態を問わなければ、1000円以下で買えることも少なくありません。
『古今いかもの通』の著者、河原萬吉は『古書通』という1冊も担当しています。
その他にも『鰻通』『煙草通』『西洋料理通』『天麩羅通』『酒通』『犬通』……面白そうな書目がたくさんあります。
しかし、『カフエ通』酒井真人、『芸妓通』花園歌子、『探偵小説通』松本泰、『上方色町通』食満南北、『喫茶とケーキ通』門倉国輝、といったあたりになると、結構な古書価となるようで、おいそれとは手を出せません。