【2010年10月8日】
東京古書会館、城南展。
背表紙の破れかかった本にすうっと吸い寄せられると、松川二郎『不思議をたづねて』だった。夏の京王百貨店古書市で見かけた1冊とは違って函付ではないし、美麗でもないけれど、京王では5000円の値が付いていた本が今日は400円だ。各人それぞれ、分際に見合った本が与えられるということなのだろう。うれしく購入したが、正直に言うと、京王での美本の残像がちらちらとよみがえって少しまごついた。
『石川善助作品集Ⅰ』は、1980年、駒込書房刊。以前に『亜寒帯』という復刻版の詩集を買ってみたことがあって、石川善助の名は何となく覚えていたのだが、いつもながら日頃の不勉強は都合よく忘れておいて、こんな本も出版されていたのだな、と感銘する。
この『Ⅰ』は散文篇で、続刊の『Ⅱ』は詩集『亜寒帯』を含めた全詩篇とのこと。いつか是非『Ⅱ』とも出くわしたい。
ふんふんふん、と、どこからともなく軽快な鼻唄が聞こえてくると、それは岡崎武志氏なのであった。
辻征夫、松尾邦之助、石黒敬七を付け加えて計5冊。
購入メモ
*城南展/東京古書会館
『不思議をたづねて』松川二郎(博文館)400円
『石川善助作品集Ⅰ』散文篇(駒込書房)1000円
『続・辻征夫詩集』(思潮社現代詩文庫)200円
『巴里横丁』松尾邦之助(鱒書房)500円
『三色眼鏡』石黒敬七(岡倉書房)800円
古書店街は、巌松堂図書で『言霊と他界』川村湊(講談社学術文庫)150円、神田古書センターで『見たり聞いたりためしたり』サトウ・ハチロー(ロマンス社)520円。
そのまま進んで西端の松雲堂書店。このお店は漢詩や漢文が専門なので、たまに通ると言ってもいつも素通りなのだが、店先に置かれた紙箱の中に「こつう豆本」が数冊入っていた。豆本については、そう言えば「ぷやら新書」は、あれも豆本の仲間なんだろうかと、その程度に無知なのだが、こつう豆本は日本古書通信社の刊行で、発行人は八木福次郎氏。書物に関するあれこれの豆本だったはず。
それならと、箱を漁ってみると、第103巻『私の古本人生』という1冊が面白そうだ。手のひらの中でページをめくると、滑らかな上質紙の感触が指先に心地よい。巻末の著者略歴を見ると、藤井正氏は藤井書店の店主。吉祥寺にお店を構えるまで、まずは大分にて藤井書房として開業したのだそうだ。へえ、そうだったのか。以前、藤井書店の店頭で『吉四六話』を見かけたときには、東京では珍しいと思ったのだったが、大分に縁のある古本屋なら、むしろ当然だったのかもしれない。
『私の古本人生』を片手に、代金を払おうとして店内に入ると、物騒というのか鷹揚というのか、店番不在で人影がない。しかしそこは古本屋であるから、堆く積まれた本こそが番兵であるということなのかしらん。本の眼が一斉にこちらを凝視する気配がする。和本であれば、なおさらに迫力がある。
帳場の奥に向かって声をかけると、あらまあ、という感じで二人の御婦人が現われて、二人がかりで豆本を包んでくださった。『私の古本人生』藤井正(こつう豆本)800円。
九段下から東西線に乗って高田馬場へ。
BIGBOXの古書感謝市。練馬区立美術館『池袋モンパルナス展』図録を発見する。
10年前、この展覧会は見に行っているのだが、美術館を訪れた当日、すでに図録は完売で、ずいぶん切ない思いをしたのだった。時間は掛かったが、手に入った。
出久根達郎、庄司浅水、カラーブックスと合わせて購入する。
*BIGBOX古書感謝市/高田馬場
『池袋モンパルナス展』図録(練馬区立美術館)800円
『古本夜話』出久根達郎(ちくま文庫)200円
『京王帝都』合葉博治/池田光雅(カラーブックス)150円
『書物の国の散歩道』庄司浅水(現代教養文庫)250円
【2023年1月追記】
東京古書会館の「城南展」は年3回(2022年は2月・6月・10月)。
2023年はひと月早い1月末の開催です。
昨年までは目録発行がありましたが、2022年10月号で休刊となり、2023年は会場販売のみ行ないます。
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石川善助【いしかわ・ぜんすけ、1901(明治34年)-1932(昭和7年)】は詩人。
仙台に生まれました。31歳にして夭逝しています。
花巻の宮沢賢治との交流もあったそうです。
没後、遺稿集として詩集『亜寒帯』(原尚進堂/昭和11年)、随筆集『鴉射亭随筆』(桜井絵葉書店/昭和8年)が出版されました。鴉射亭は「あしゃてい」と読みます。
いずれも滅多に出現することのない稀覯書です。
『亜寒帯』は1970年に名著刊行会より復刻版が刊行されており、こちらは即売展で時折見かけます。
『鴉射亭随筆』も1995年に今野印刷刊行の復刻版があり、またそのほか1972年の『石川善助童謡集どろぼはったぎ』(おてんとさんの会)がありますが、この2冊はまだ見かけたことがありません。
駒込書房の作品集ですが、残念ながら『Ⅱ全詩篇』は未刊に終わったようです。
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「こつう豆本」は日本古書通信社が発行する豆本です。
当初は「古通豆本」と表記していました。
第1巻は発行者の八木福次郎氏が自ら著わした『小型本雑話』、1970年の刊行です。
2002年の第141巻、深井人詩『大洋丸の航海』が最終巻でしょうか?
全部で100冊以上があることは間違いないのですが、たくさんありすぎて、全貌がつかめきれません。
版元が日本古書通信社だけあって、古本との相性は良好です。
即売展や古本まつりではよく見かけます。
たいていは、小さな箱の中に何冊かがまとめて入っています。
『露店の古本屋』高橋邦太郎、『明治の貸本屋』沓掛伊左吉、『古書展覚え書』太田臨一郎、『古本覚え書』森銑三、『本・その周辺』串田孫一、『古本屋と作家』岩森亀一、など興味深い書目が多々。
並装と特装の2種類がありますが、並装ならば500円以下でも手に入ります。
ポケットに入るほどの可愛らしい本ですし、電車の中や喫茶店やあるいは酒場で、ちょっとした読書に好適です。
『私の古本人生』はオススメの1冊です。
藤井書店および『私の古本人生』につきましては、下記の「追記欄」をご参照ください。
→【2010年6月26日/2023年1月追記】西部古書会館の好書会から吉祥寺
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「松雲堂書店」は靖国通り沿いに並ぶ古書店の西端に位置します。
神保町から見れば端ですが、九段下から行けば古書店街の入口です。
漢籍や和本が専門ですから、門外漢が冷やかしに行くようなお店ではないのですが、たまに、専門外の本が店先に出されることがあります。
そういう所こそ、案外と面白い本が埋もれているかもしれません。
何があるかは行ってみてからのオタノシミです。
松雲堂書店は、東京古書会館の「書窓展」に参加しています。毎回、専門分野の古典籍を取り揃えます。