【2010年3月12日】
神保町駅、10時着。
田村書店の店頭はまだ準備中につき、ちらっと覗き見して古書会館へ。城南展。
まず1階受付で今回の目録と、次週の五反田遊古会の目録をもらう。
開場早々の混雑に揉まれてじたばたするのはいつものことだが、書棚の本よりも人様の抱えた本に目移りしてしまうのは、まったく困った性分だ。
「わたくしはわたくしの杯でいただきます」
鷗外の小説の中で、娘は毅然と宣言していたではないか。
おまえはおまえの古本をいただけ、なんぞと、せめておのれを叱責しながら『ねずみの生活』『ギリシアの神々』『郵便切手』、100円の岩波写真文庫を拾い集める。
それから、高田義一郎はたしか、ユウモア文学全集の著者の一人だったはず。見覚えのある名前を、それまで知らなかった別の書物に見出す瞬間は愉しい。
書名も『人体名所遊覧記』(霞ヶ関書房)と愉快。値段も300円なら爽なり。
昨年末、酔った勢いで友人に進呈した(押し付けた)、『あまとりあ事典』を改めて買い直す。400円。
古書会館の次は三省堂書店の8階催事場に上昇して、春の古書市。
今回が第1回ということで、ときおり正面玄関で行なっている店頭古書市の拡大版というところだろうか。
隣接する三省堂古書館もそうだけれど、最近の三省堂は積極的に古書にも取り組んでいるようだ。
珍奇な造語が題名の『随筆ざっくあんどばらん』仁戸田六三郎(日本文芸社)300円と、『艶笑綺談集』丸木砂土(東邦出版)525円、2冊購入。
小宮山書店ガレージセールで『ボードレールの世界』福永武彦(講談社文芸文庫)100円。
田村書店の店頭を改めて覗いて、『大須賀乙宇俳論集』(講談社学術文庫)400円と、『盲目の詩人エロシェンコ』高杉一郎(新潮社一時間文庫)300円。
西へ進んで@ワンダー。
2階へ上がり、先月から10冊、1冊、4冊、2冊と買い続けてきた新書判も、めぼしいところの回収は一段落したようなので、今日は文庫本の棚の、戦前の古い文庫が並ぶあたりをごそごそやる。
そうしたら棚の隅っこに誠文堂十銭文庫があった。
『ユーモア性典』が1575円、『最新撞球術』が1890円。両方は買えないけれど、ここは『ユーモア性典』で迷いはない。
ひらひらに薄っぺらな小冊子、かわいらしい十銭文庫の1冊をやっと掌中に収めることができた。
先日、まんだらけのショーケースに、この十銭文庫『モダン隠語事典』が陳列されていたのだが、価格6300円では眺めるだけが精一杯。しかし現物の大きさや装幀などを見知っていたことが効き目になって、今日の発見につながってくれたのかもしれない。
ブンケン・ロック・サイドの店頭で『大阪と堺』三浦周行、105円の岩波文庫を買い、それからふたたび三省堂書店へ行って、今度は新刊の2階文庫売場で『書痴半代記』岩佐東一郎(ウェッジ文庫)700円を買う。
2010年3月12日 今日の1冊
*@ワンダー/神保町
『ユーモア性典』菱刈実雄(誠文堂十銭文庫/昭和7)1575円
【2022年12月追記】
東京古書会館の「城南展」は年3回。2022年は2月6月10月に開催されました。
目録発行は2022年10月を最後に休止となっています。
三省堂書店8階催事場での古書市はこのときが初開催。
以後、時には正面玄関先と、時期によって会場を交互に変えながらずっと継続されてきましたが、本店ビル建て替えを前にして、2022年2月に「最後の古書市」が行なわれ、三省堂の古書市は幕を閉じました。
誠文堂十銭文庫は昭和5年から7年ごろにかけて刊行されました。
100ページ前後の小さな本です。
全部で何巻くらいあるのかはよく判りません。
試みに、ある1冊(『建築の様式』岸田日出刀)の巻末に載った案内を見てみますと「第一期刊行書目」として30冊、「第二期刊行書目」として実に63冊、合わせて93冊の書目が列記されています。
それらがすべて実際に刊行されたのか、あるいは「第三期」があったのか(たぶん無かったようですが)、そのあたりも判然としません。
国会図書館では、シリーズ名が「誠文堂十銭文庫」ではなく「誠文堂文庫」や「Seibundo’s 10 sen library」で登録されている書目もあるのですが、全巻は揃っていないようです。
このかわいらしい十銭文庫、毎回毎回というわけではないとしても、即売展では折に触れて見かけます。
本体の丈は現在の文庫本と同じですが、幅が若干せばまっています。縦長の、すらっとした印象を与えます。
とにかく薄い本ですので、棚に挿してあると背表紙の文字を判読するのも一苦労。
棚ではなく、絵葉書やチラシと一緒に箱の中に投げ込まれていることもあります。
書目を問わなければ、1000円以下で買えるでしょう。
『尖端を行くレヴユー』川口松太郎、『探偵科学の話』高田義一郎、『モダン隠語辞典』宮本光玄、『東京盛り場風景』酒井真人、『京阪神盛り場風景』岸本水府、『上海どん底風景』古川一郎、『東京食べある記』『京阪食べある記』松崎天民、『全国名物食べある記』松川二郎……ああ! 面白そうな書目を書き写しているだけで興奮しますが、以上の書目は古書価も素晴らしいようですから、どうにも手が届きません。
唯一、『東京食べある記』のみ、その後の即売展で入手しました。表紙が外れていて、本体と別々に袋の中に入っていました。その難ありのおかげで手ごろな値段で買えたわけです。
珍書の筆頭は、壹岐はる子『エロ・エロ東京娘百景』でしょうか。目玉の飛び出る値段が付くようです。