【2010年3月19日】
南部古書会館、五反田遊古会。
南部会館を訪れるのはまだ5回目だけれど、五反田はいつも晴れている。
雨が降れば雨に濡れないように、1階のガレージ会場は出品量が抑えられるのだろうから、五反田の晴天はうれしい。
今日の最初の1冊も、まずはその路上にはみ出した平台から、『川路柳虹集』、戦前の新潮文庫を。
2階に上がってさっそく、『旅の春秋』戸塚文子(河出新書)200円、『ビルの谷間』同じく戸塚文子(こちらは旅窓新書)300円、『痴談』神保朋世300円、『おつまみ風流譚』白藤六郎500円、『おピンクな夜』松村喜彦200円(以上3冊、あまとりあ社)、『新聞記者千夜一夜』高村暢児(河出新書)300円、新書判が手元に集まる。
現代ユウモア全集の1冊、池部鈞(いけべひとし)『凸凹放送局』が函付きで1000円。現代ユウモア全集は、全24巻のうち、いつのまにか半分以上が集まった。まだ5冊ほどは現物に接していないけれど、たぶん第18巻の夢声・時彦・緑波集『漫談レヴィウ』が最後の砦になるのではないかな。
その他諸々、遊古会では15冊。
五反田をあとにして次は神保町。移動の地下鉄の車中では、さっき南部会館でもらった『サンシャインシティ大古本まつり』の目録をめくる。谷中安規(たになかやすのり)展の図録が3500円で出品されており、仰天する。
東京古書会館、愛書会。
会場に入り、甘露書房の棚に直行すると、表紙をこちらに向けて上から下までずらりと並んでいる中に、岩佐東一郎詩集『二十四時』(湯川弘文社新詩叢書)は売れずに残っていた。
目録掲載品の1冊で、昨日、愛書会目録を眺めていて、この本の存在を知ったばかりなんだけれど、こうして対面してみると、もうずっと前から待ち合わせをしていたかのようになぜだか懐かしい。
事前注文が入らなかったことに感謝し、価格3500円は大いに頑張ることにして、手元に寄せる。
岩佐東一郎の書物随筆集『書痴半代記』は、一昨日、残りのページを惜しみつつ読み終えたのだが、そのなかに登場していた矢野目源一や徳川夢声の本がこのあと立て続けに見つかったことも、書物には書物の旧交があるということなのかもしれない。『めかいち軟派ばなし』矢野目源一(美和書院)500円、『悲観楽観』徳川夢声(文藝春秋新社)500円。
向こうの棚で口論が始まっている。
「なんだよ!」
「そっちが悪いんだろう」
狭い通路だから、肩がぶつかったり、つい押しのけたりすることもあるだろうし、勢いによっては声を荒げる事態にもなるのだろう。どきどきしながら、聞き耳を立てていたのだが、しかし、
「おまえみたいな礼儀知らずが日本を駄目にしたんだよ」
「駄目にしたのはそっちだろう、どれだけ税金払っているんだよこの野郎!」
あんまり急激に飛躍するので、うっかり噴き出しそうになった。
愛書会のあとは古書店街の店頭棚をぶらぶら。
田村書店で『〈ふたり〉のおくりもの』レイモン・ペイネ(みすず書房)100円と、『幸福をめぐる断想』串田孫一(三笠新書)200円。
明倫館書店で『暗号と推理小説』永田順行(現代教養文庫)100円。
昼間は汗ばむほどの陽気だったが、夕方になると風が冷たい。
朝から飲まず食わずで歩きまわると、本の詰まった鞄の重量で、さすがにふらつく。けれど岩佐東一郎は言っている。
「ぼくはものを持つたり背負つたりするのは生まれつき大嫌いなくせに、本の場合は例外であつて、いくら重くて手がしびれそうになつても平気。小僧か番頭さんのように、大荷物を背負つても、本ならばちつとも恥ずかしいとは思わず、むしろ誇らしい気持ちであつた。」
(岩佐東一郎『書痴半代記』ウェッジ文庫/2009)
2010年3月19日 今日の1冊
*愛書会/東京古書会館
『二十四時』岩佐東一郎(湯川弘文社新詩叢書/昭和18年)3500円
【2022年12月追記】
「谷中安規展の図録」とあるのは、2003年に渋谷の松濤美術館で開催された美術展の図録『谷中安規の夢』です。
会期の後半に松濤美術館へ行ったところ、すでに図録は完売でがっかりしました。
以来、探しまわってみたのですが、たまに見かけても、7000円、8000円、ときには1万円を超える古書価が付いていたりもして、がっかりに輪をかけます。
そんなふうでしたから3500円というのはびっくり仰天の大特価でした。
翌日、サンシャインシティ古本まつりに駆けつけて必死に探してみましたが見つかるはずもなく、結局、この数か月後に、意を決してというのか、諦念してというべきか、8400円を奮発して購入しました。
現在の古書価は5000円前後といったところでしょうか。
当時からはいくぶん落ち着いてきたようですが、20年経った今でも、人気の図録です。
岩佐東一郎【いわさとういちろう、1905-1974】は堀口大学や日夏耿之介に師事した詩人であり、偉大な書痴です。
詩集、随筆集と、著書は多数。
また風流人でもあり、『粋は異なもの』(美和書院)や『ちんちん電車』(あまとりあ社)といった粋筆の書があります。
さて、詩集『二十四時』3500円。少々頑張りすぎたのかもしれません。気長に探せばもう少し安く手に入ったようでもありまして、後々、どこの即売展だったか、300円で放出されているのを発見してしまったときは全身の力が抜けました。
しかし、その本と、いつ、どこで、巡り合うのかは、これはもう運命ですから、金額の高低とは懸け離れたところで、運命に従うよりほかはありません。
出品元の「甘露書房」は詩歌句集を専門分野のひとつとして扱うお店です。3500円という値段は、専門店としての正当な評価だったのでしょう。
『書痴半代記』のウェッジ文庫版は現在でも新刊で買えます。
古本世界の基本図書です。必読です!