【2010年5月25日/2022年12月追記】新橋古本まつりから早稲田大学の青空古本掘出し市

【2010年5月25日】
新橋古本まつり。
SL広場はカッと日が照りつけて、それぞれのテントでは古本を並べる作業に忙しい。開催は昨日からなのだが、昨日はずっと雨降りだったから、品出しできなかった本が多いのだろう。
「こんなに天気が良いと仕事する気にならないよ」と、テントの中からぼやきが聞こえる。古書会館の即売展でよくお見かけするご主人だ。即売展の会場でも、しばしばこのご主人のぼやきを耳にした覚えがある。雨降りだった昨日は、たぶん「良い」と「悪い」を入れ替えて、そっくり同じ台詞を、「こんなに天気が悪いと仕事する気にならないよ」と、ぼやいておられたのではないかと。

前回(3月)の新橋古本まつりでは、SL広場にみぞれが降り出して凍える思いをしたのだったが、今日は暑い。ビルの温度計は早くも30℃を表示している。
準備の整ったテントから歩き始めて、値札との一喜一憂はいつものとおり。同じ店舗で前回も見かけた本が出品されていると、在庫処分で値下げしているのではないかと期待せずにはいられないが、値札も前回のままだ。こうやって棚から本を抜き出してはまた元に戻し、同じ動作を延々と繰り返すうちに月日はどんどん流れる。
正午になると、広場の主役C11-292号機がポーと汽笛を鳴らした。どういう仕組みになっているのかは知らないが、しかし汽笛を鳴らすだけ鳴らして出発しないのは、尾形亀之助の言う「さびしい人生興奮」の一種と言えるのかどうか。
『お白粉で書いた巴里通信』J・バルビテルラン(緑園書房)200円、『切手の秘密』北上健(東潮新書)300円、『たべもの』多田鉄之助(ダヴィッド社)210円、『カラーABC』稲村耕雄(カラーブックス)100円、『鉄道百年こぼれ話』青木繁(交通協力会)200円、『首』山崎方代歌集(短歌新聞社現代歌人叢書)200円。安いところを買い集める。

銀座線から東西線に乗り継いで早稲田に移動。早稲田大学構内で開かれている青空古本掘出し市へ。
そこに古本があれば大学に行く。もし古本市さえあるならば、病院でも警察署でも、今の私は尻っぽをふって出向くだろう。
『未知のふるさと』若杉慧(六月社)100円、『冗談十年』三木鶏郎(駿河台書房)500円、『猿から貰った柿の種』北村小松(原始社)600円。3冊購入。
並んだ古書を震わすほどに、どこからか応援団の大太鼓が鳴り響いていたことが、なるほど大学らしい情趣であった。

馬場下町の交差点から高田馬場駅まで、道路沿いの古本屋をハシゴする。以前、古書現世を訪れたことはあるけれど、早稲田の古書店街を歩くのは、実質、初めてだ。
立石書店、江原書店、谷書房、喜楽書房、飯島書店、二朗書房、いこい書房、三幸書房、浅川書店、さとし書房、岸書店、古書現世、文省堂書店、三楽書房、平野書店。計15店軒を歩いて、購入零冊。低調なり。
低調なのは無論、古本屋ではなく私の眼だ。最初は店頭均一棚だけに専念するつもりが、初めてのお店は店内も覗いてみたい。たくさんのお店があると思うと、一軒一軒、そんなに時間を掛けてはいられない。上滑りしてしまった。
やはり学生街ということなのか、学術書や参考書や、文芸書にしてもかっちりとした書物が棚を占めていたように見受けられたけれども、それはそう思い込むから余計にそう見えるという悪循環だったのだろう。

2010年5月25日 今日の1冊
*青空古本掘出し市/早稲田大学
『猿から貰った柿の種』北村小松戯曲集(原始社/昭和2)600円

北村小松「猿から貰った柿の種」表紙

【2022年12月追記】
「新橋古本まつり」につきましては以下の日記もご参照ください。
【2010年3月29日/2022年12月追記】新橋SL広場の古本市、初探訪
「新橋古本市」なのか「新橋古本まつり」なのか、告知とポスターとで表記が異なっていたりして、じつは正式な名称を知らないのですが。

早稲田大学の「青空古本掘出し市」は、早稲田古書店街のお店が集まって開催する古本市です。
その後「早稲田青空古本祭」と名を変えて、毎年5月と11月に行なわれていましたが、新型コロナウイルスの影響により2020年以降は開催されていません。
一時期は大学そのものが閉鎖されるような事態に陥りましたから、どうしようもないところではありました。しかし、そろそろどうでしょう。早稲田大学10号館の前、大隈重信像の背中が見える一角に古本市の戻ってくる日が待たれます。
大学構内の古本市を見終わって、大学の門を出るときに、ちょっと頭がよくなったような気がするのはもちろん気のせいです。
早稲田周辺ではそのほか、馬場下町交差点に面した穴八幡や、高田馬場駅前のBIGBOXでも古本市がありましたが、いずれも終了して現在は行なわれていません。

この日訪れた早稲田古書店街の15軒のうち「谷書房」「喜楽書房」「いこい書房」「岸書店」はすでに閉店しています。
「立石書店」は練馬へ移転して事務所営業に。店舗販売はありませんが、東京古書会館の書窓展やぐろりや会など即売展に参加されています。
「文省堂書店」と「平野書店」も現在は事務所営業のみのようです。店舗販売はありません。文省堂書店は新宿サブナードの古本浪漫洲に参加しています。
そのほかのお店は現在も営業。「二朗書房」は東京古書会館の趣味展に参加。「さとし書房」は西部古書会館の中央線古書展に参加しています。

早稲田古書店街も移り変わりが多くあり、なかなか消息をつかみきれません。
古本屋の閉店は寂しいかぎりですが、一方で、2017年秋には古本と新刊のブックカフェ「NENOi」が早稲田通り沿いに開店。2018年には早稲田大学北門の近く、グランド坂に「古書ソオダ水」が開店。
消え去るばかりではありません。