【2010年6月11日】
神保町。八木書店の店頭で『加藤介春全詩集』が目にとまる。
知らない詩人の全詩集。さて、どうしよう。
序文を立ち読みしてみる……「明治四十一年三月に相馬御風、野口雨情、加藤介春、三木露風、人見東明の五人で早稲田詩社を結び」……と、雨情や露風など知っている名前が出てくるのだが、これで何が判るわけでもなく、判明するのは早稲田詩社さえ知らないという我が身の無知ぶりだけだ。
売価800円だから、あれこれ悩まずにその場で買ってしまえばよいのだろうけれど、今日はこの本との縁を占ってみようという気になって、元に戻した。
東京古書会館では新興展。
和本やら巻物やらの逸品が壮観に陳列されていた。普段は入口にしかないガラスケースが会場内にも置かれ、その横には商談用の机まで用意されていた。小銭の散歩者に出番はなさそうだ。
数少ない一般書の棚から大屋幸世『蒐書日記』第1巻と第2巻を見つけるが、たしかこの日記は全4巻だったはず。3巻4巻とうまく出くわすことがあるのかどうか、そのうち4冊揃を見つけてまとめて買ったほうが結局は早道で、なおかつ安上がりに済むのじゃなかろうか。しかしこの本はずっと読んでみたいと思っていたので、後のことは考えず買うことにする。各冊700円。
古書店街に戻り、三茶書房の店頭100円台で中島健蔵『読書』(アサヒ相談室)。アサヒ相談室の中ではいちばん気になっていた書目を発見する。
神保町古書モールでは暉峻康隆『随筆とかく浮世は』(自由新書)250円。
三省堂古書館でジョン・W・キャンベル『影が行く』(ハヤカワ・SF・シリーズ)880円。何で仕込んだ知識だったのか『影が行く』はもっと値の張る本だと思い込んでいたのだが、そうでもないみたいだ。何か別の本と混線して覚えていたのかもしれない。
羊頭書房ではウィリアム・テンの短編集に迷い(1巻=500円、2巻=700円)、そういえばこのあいだ、中山書店の跡地に新しく開店した古本屋の店頭で第2巻を見かけた覚えがある。とりあえずここでは保留にする。
文省堂書店、小宮山書店、田村書店、均一棚をうろうろ。白山通りへ足を延ばすと、路地をひとつ入った先に〈古本〉の看板が見えた。ブック・ダイバー。古書店地図には載っていないお店だ。小さな店内ながら濃密な本棚空間が広がっており、あまとりあ社の新書判『誰も知らない夜に』を見つけるも、735円という微妙な価格に迷う。525円なら迷わず買うのだが、と、わずか200円のせめぎ合いにあっさり負けて、何も買わずに出てきてしまう。
ふたたび靖国通り沿いを@ワンダーまで進んで、引き返す。
さて、今朝方の八木書店に舞い戻ると『加藤介春全詩集』売れ残っている。戻しておいた場所からちょっと位置が動いているのは、あのあと誰かが手にとったのだろう。その誰かは買わなかった。
縁というのは少々大袈裟なようでもあるが、とにかく今日はこの詩集と縁があったのだと思うことにして、購入する。
ミロンガでひと休みして、後半はすずらん通り。
急階段を昇って、うたたね文庫。いつも今日こそはと思って3階までの階段を昇るのだが、心理学が中心ということもあって、いつも冷やかすばかりで終わってしまうのは済みません。御主人の息子さんなのだろう、ランドセルを背負った少年が、専門書に囲まれてガリガリ君ソーダ味を舐めていた。
旧中山書店の現在は……magnifという屋号だった。店頭に『ウィリアム・テン短編集2』まだあった。300円。初めて店内まで入り会計をする。洋書の店ではないかと思っていたら、そうではなくて、日本の雑誌が中心だった。
羊頭書房を再訪して『ウィリアム・テン短編集1』を買う。1と2をここで買っていたら1200円だったところを、2冊800円で揃ったのだからまあまあだろう。ずいぶんややこしい買い方をしているじゃないかと、思うことは思う。買った途端に、2冊500円なんていう出物を見てしまうのではないか、とも思う。
本日3回目の田村書店店頭。夕方5時を過ぎているからか、いつもの混雑もなく、ゆっくり見られた。朝方は山と積まれていた哲学書はほとんど無くなっている。平台の隅っこに埋もれていた『ブランマンク』里見勝蔵(日動画廊出版部)600円を購入する。
最後は小宮山書店の店内に入り、階段の絵本箱の中から『裸の眼』サム・コービン(文藝春秋新社)という外国の漫画集。1000円。
2010年6月11日 今日の1冊
*八木書店/神保町
『加藤介春全詩集』原田種夫・山田牙城編(学燈社/1969)800円
【2023年1月追記】
東京古書会館の「新興展」は年2回、6月と12月に9店舗が参加しての開催です。
和本の出品量は、数ある即売展の中でも随一と言えます。
博物館に展示されてもおかしくないような古典籍の逸品が陳列されます。
値札を見れば恐れおののきますが、もちろん手にとって見ることができます。
指先で、実際に和紙の柔らかさを感じられるのは、博物館では味わえない体験です。
立ち読みをすると言っても、崩し字が読み取れない身としては何も読めはしないのですが、挿し絵の入った絵草紙や彩色鮮やかな図譜など目にすれば、しばし陶然となります。
江戸時代を立ち読みする。贅沢な愉しみです。
参加9店舗のうち、五十嵐書店と鳥海書房が洋本を出品します。
洋本とは、洋装本とも言いますが、洋式の製本法による書物のことを指し、つまり現在の普通の本です。和本(和装本)に対しての用語です。
やはり和本よりは洋本のほうが買いやすいということのようであり、新興展の会場では洋本の棚にお客さんが集まります。
白山通りから横丁へ入った先の「ブック・ダイバー」は2015年に店舗を閉店し、2016年からはインターネット販売へ移行しています。
古書組合には加盟していない古本屋さんでしたので、神田古書店連盟発行の古書店地図にも載っておりませんでした。
まったく存在を知らないままで行き当たりましたから「ここにも古本屋があった!」と感動しました。
すずらん通りの「magnif(マグニフ)」も古書組合には加盟していません。
ブック・ダイバーと同じく古書店地図への掲載はありませんが、すずらん通りの中程に、黄色く塗った入口の桟がくっきりと目立ちますから、地図を見なくても自然と見つかるでしょう。
ファッション雑誌を中心とした古本屋さんです。現在も営業しています。
magnif の場所にはもともと「中山書店」の店舗がありました。
何の仕切りもなく一般書と新刊特価のエロホンとが混在するという独特の店内風景でした。
いつ訪れても、エロの棚がたいへん繁盛していました。もはや隔世の感です。
2008年8月に中山書店は閉店。
その店舗跡に、外観と内装とをがらりと一新してmagnif が開店しました。