【2011年12月5日/2023年6月追記】阿佐ヶ谷歩き

【2011年12月5日】
今日は久しぶりに阿佐ヶ谷を巡ってみようと思う。
その前にまずは高円寺へ行き、都丸支店の店頭棚から、上野理恵『ロシア・アヴァンギャルドから見た日本美術』(東洋書店ユーラシア・ブックレット/2006)100円。
その小冊子を右手にぶらぶらさせながら、長仙寺の脇の、いつか通い慣れてすっかり足裏に馴染んだ坂をくだる。ネルケンで珈琲。
東洋書店のユーラシア・ブックレットは2000年から刊行が始まったようだが、ついさっきまで存在を知らなかったし、古本屋の店頭でこうして出くわさなければ、ずっと縁がないままに終わっただろう。
巻末の既刊案内を見ると『ロシア・ファンタスチカ(SF)の旅』『ロシア・アニメ』『ほろ酔い加減のロシア』『ドストエフスキー・カフェ』など、面白そうな書目がちらほら。今度はこちらから、それら新しく知った本との縁をさがすことになる。
古本屋の棚は安々と、(100円で)、未知の世界と私とを連絡してくれる。

上野理恵「ロシア・アヴァンギャルドから見た日本美術」表紙
『ロシア・アヴァンギャルドから見た日本美術』上野理恵
(東洋書店=ユーラシア・ブックレット/2006)

お昼をまわったところで阿佐ヶ谷へ。
北口アーケードの千章堂書店。
古本まつりや即売展では御馴染みのお店だが、店舗を訪れるのは初めてとなる。
正確に言うと、以前にいちど探訪を試みている。そのときは北口アーケードが見つけられずに探訪を断念したのだが、今日改めて駅を降りれば、どうして見つからなかったのかそちらのほうが不思議なほどに、アーケードは駅の真向かいだった。
千章堂書店、入口の平台に『酒の書物』が並んでいたりして、冒頭からオッと前のめりになるも、何も発見できずに店内を一周、つんのめったまま外へ出てしまう。
続く今井書店(こちらは以前に探訪済み)も発見なし。
コンコ堂を目指してさらに北へ進む途中に貸本のネオ書房。三鷹にも同名の貸本屋があるが、系列店なのかもしれない。ガラス戸越しに店内をちらりと一瞥して直進、ほどなく古書コンコ堂。
今年の6月に開業したばかりなのだが、品揃えは種々の分野に及んでいて、量も質も見応えがあった。
ゆったりと書架を配列してあって、ちょっとささま書店を思わせるような、ここは散歩のできる古本屋だ。
何も買わずに散歩ばかりされたんじゃあ店主は上がったりなんだろうけれど、結構、若い人が2人、3人と、次々に入ってくる。
林二九太ユーモア小説選集第三輯『僕の自叙伝』(昭星社/昭和22)発見する、500円。
『この駅弁が旨い!』小林しのぶ(角川oneテーマ21/2006)300円と合わせて購入する。

林二九太「僕の自叙伝」表紙
『僕の自叙伝』林二九太(昭星社/昭和22)

もう一軒、バス通りを渡った向こうの銀星舎も初めての探訪。
店内の面積は狭い。狭いが精選。何か買いたい。買えなかった。
ああ、いつのまにか西日は傾き始めて、風が少し冷たくなった。
これで阿佐ヶ谷は切り上げて、最後はささま書店を巡回するのだが買物ナシ。
この季節、何も買わないで古本屋を出るときには、風はひときわ冷たく身に沁みる……、けれどコンコ堂で林二九太を見つけたから今日は吉日。

【2023年6月追記】この日訪れた阿佐ヶ谷の古本屋さん
阿佐ヶ谷駅周辺は昔から古本屋が多い一帯ですが、近年は少しずつ店舗数が減っているようです。
過去のお店を含めて、消長をすべて辿ろうとすると収拾がつかなくなりますので、この日に訪れた古本屋さんのみを簡単に述べてみます。
  ◇
北口駅前アーケードの「千章堂書店」は現在も営業しています。
昭和の面影が濃厚な商店街です。
阿佐ヶ谷のほかにもう一軒、荒川区に「千章堂書店尾久店」があるようなのですが、私は未訪です。
尾久店のほうは店舗営業を行なっているのかどうか、詳しいことが分かりません。
即売展は、過去のメモを見ると、西部古書会館の「BOOK & A」に尾久支店の名義で参加しています。
最近では、同じく西部会館で昨年8月に始まった「ヴィンテージ・ブック・ラボ」に参加されています。
古本まつりでは、八王子や所沢、新橋など各所で見かけたような覚えがあるのですが……、きちんと把握できておらず、定かではありません。お赦しください。
兎にも角にも、アーケードの懐かしい書店風景は一見の価値ありです。もちろんただ一見するばかりでなく、何か本を買うことが理想であります。
  ◇
アーケードを抜けて左に曲がった先にあった「今井書店」はその後閉店となりました。
わずか2回ほどの探訪に終わり、印象はだいぶ薄れてしまっています。
こじんまりとした店内にひととおりの分野が揃う、典型的な町の古本屋さんだったと記憶しています。
閉店の時期は不詳です。
  ◇
貸本屋の「ネオ書房」は2019年3月に閉店となりましたが、その5か月後の8月、店舗と屋号をそのまま引き継いで、古本屋として新規開業しました。
新たな店主は、評論家、脚本家の切通理作氏。この快事は記憶に新しいところです。
  ◇
ネオ書房の少し先、「古書コンコ堂」は現在も営業。
即売展や古本まつりには参加せず、店売り一筋です。
開業から12年が経ち、今や中央線沿線の名店のひとつに数えらるでしょう。
  ◇
コンコ堂からさらに北へ。欅並木の中杉通りに「銀星舎」。
現在も営業しています。
小さい店内ですが、選び抜かれた良質の古本がみっちりと濃縮しています。
  ◇
一時期に比べると古本屋の数は減少しているとはいえ、2011年に訪れた5店舗のうち4店が、12年後の今なお営業を続けています。
移り変わりが激しい昨今の世にあって、大いなる健闘ぶりです。
やはり阿佐ヶ谷は、古本がしっかり根付いた町なのでしょう。
いずれまた、新しい古本屋が登場して、愉快な話題を振りまいてくれるかもしれません。