【2011年4月15日/2023年3月追記】本の散歩展からフリーダム展

【2011年4月15日】
南部古書会館、本の散歩展。
駿河台書房版の現代ユーモア文学全集『石黒敬七集』、あまとりあ社の新書判『女の地図』、鱒書房『夕刊小僧』など、目につくのはどれも持っている本ばかり。
もし『石黒敬七集』ではなく『北町一郎集』だったら……、『女の地図』ではなく『女の裏窓』だったら……。
こちらの期待を絶妙にくすぐりながら、そこでオシマイ。いくら目を凝らしても見えそうで見えないチラリズム。
『石炭』(岩波写真文庫)200円、『電力』(岩波写真文庫)200円、『嘘つき男・舞台は夢』コルネイユ(岩波文庫)200円、岩波の安い本をおとなしく選んでいると、そのうちひょっこりと徳川夢声が現われた。初めて目にする随筆集だったから、こちらは期せずして見えてしまったというような眼福か? 『うすけぼう譚』徳川夢声(東宝書店)200円。
南川潤の小説『生活の設計』(淡海堂出版部)100円を追加して1階は5冊。

徳川夢声「うすけぼう譚」表紙
『うすけぼう譚』徳川夢声(東宝書店/1948)

2階では松川二郎の『民謡をたづねて』『新民謡をたづねて』2冊揃が、元の値段の半分ほどに値下げされていて1500円。
一応は確保しておいて、他に何もなければ買うつもりでいたのだが、池部鈞『すぐ出来る漫画の描き方』(崇文堂出版部)2000円が登場したので、民謡をたづねるのはまたの機会に。
『エドワルトの夢』ウィルヘルム・ブッシュ(月刊ペン社妖精文庫)1000円、『ロッパ食談』古川緑波(東京創元社)1050円と合わせて3冊購入。

池部鈞「すぐ出来る漫画の描き方」表紙
『すぐ出来る漫画の描き方』池部鈞
(崇文堂出版部/昭和6)

地下鉄の車中、会場でもらった今回の散歩展目録(通巻39号)をめくる。
巻頭には、天誠書林の和久田誠男氏が、今年の元日に亡くなられた田村治芳氏への追悼文を寄せている。
今まで、と言っても私はまだ3回しか散歩展に行っていないが、その散歩展目録の巻頭は、七痴庵こと田村治芳氏の愉快な前口上が恒例だった。
今回は口上が無くなって追悼文となったわけだが、和久田氏の文章は、田村氏が披露してくれた愉快精神を泣き笑いのように引き継ぎつつ、静かでまっすぐな哀惜に満ちていた。
今日の散歩展でのいちばんの収穫は、この目録だったのかもしれない。

神保町。
田村書店で『踊る地平線』上下、谷譲次(岩波文庫)2冊400円。
三茶書房で『石上露子集』(中公文庫)300円。
店頭棚での小発見の連発に足取りも軽く、東京古書会館のフリーダム展へ。
しかし先週のぐろりや会に続いて、またしても何も見つけられず。
足取りはいつしか緩慢になり……あくび。
2周目は文庫本に的を絞って、かろうじて『チャペックのこいぬとこねこは愉快な仲間』ヨゼフ・チャペック(河出文庫)100円也。

フリーダム展の次は高円寺へ。
今週は西部会館の即売展は開催がないから、来週の好書会まで高円寺はオアズケでもよかったのだが、今日はネルケンで珈琲を飲みたくなった。
ネルケンで寛いだあとは都丸支店へ行き、外壁の棚から『食虫植物』小宮定志/清水清(ニュー・サイエンス社)100円、そしてやっぱり、その先のガード下四文屋の焼酎梅割りが恋しくなった。
帰宅後、岩波写真文庫『電力』は2冊目であることが判明。

【2023年3月追記】本の散歩展目録の追悼文
『本の散歩展』目録(通巻39号)の巻頭に、田村治芳氏を追悼する文章「嗚呼!! なないろさん」が掲載されました。
田村氏は「なないろ文庫ふしぎ堂」の店主でしたので、知友の人たちからは「なないろさん」もしくは「ななちゃん」と呼ばれていたそうです。
追悼文を寄稿した天誠書林店主、和久井誠男氏は、翌2012年2月にお亡くなりになりました。
和久田氏逝去後の、2012年4月の『本の散歩展』目録(通巻41号)巻頭には、「嗚呼!! 天誠さん」と、和久田氏が一年前に用いた題名を受け継いで、古書りぶる・りべろ店主の川口秀彦氏が追悼文を寄せています。
また、それに続く目録の1ページ目では、月の輪書林が追悼小特集を組んで、和久田氏にちなむ雑誌や資料を出品していました。
古本屋さん同士の、親交の深さを窺い知ることができます。
古書即売展の販売目録は、会期が終われば用済みということになりますが、時折こうして、書目と価格を列記した冊子の向こうに、店主さんたちのお人柄や、知らないはずの風貌さえも、立ち現われてくるように思えるときがあります。
用が済んだからと言って、処分するわけにはいきません。

〈関連日記〉
田村治芳氏につきましては下記ご参照ください。
【2011年1月5日/2023年3月追記】古本初詣