【2011年5月13日】
東京古書会館、愛書会。
とんぼ書林の棚と、その向かいの千年堂書店の棚に、それぞれ十返肇の新書判。
『文壇風物誌』と『五十人の作家』、まずは2冊を確保する。
さらに千年堂では雑誌『漫画劇場』昭和38年8月号(普通社)を手にとると、表紙に「口絵・顔のないアイツ・やなせたかし」とあったので購入してみる。315円。
いつも見目うるわしい書架を提供してくれるのはアカシヤ書店。良質の書物を揃えているからなのだろうけれど、ほとんど全冊にパラフィン紙が巻いてあるので、遠目にはなおのこと端整なのである。
いざ近づくと、そのパラフィン紙のために背表紙の文字がよく判読できず、いつもそれなりに難儀なのである。
そのアカシヤ書店の棚に眼玉をくっつけていると、南達彦『ユーモア警句と随筆・紳士手帖』という魅力的な小冊が現われた。ときめいて裏表紙をめくるが3000円。鄭重に嘆息しつつ元に戻す。
2冊の十返肇と『漫画劇場』とで大勢は決したのだが、会計直前になって『五十人の作家』は持っているような気がしてきたので返却した(持っていなかった)。
十返肇は『文壇風物誌』(三笠新書)150円のみ購入。
今日も賑やかな田村書店の店頭では『長谷川如是閑評論集』(岩波文庫)200円と、100円段ボール箱の中から幻冬舎アウトロー文庫版の『家畜人ヤプー』沼正三、全5巻を引っ張り出す。
ヤプーはいつかどこかで買おうと思っていたから、5冊500円なら頃合だ。
田村書店名物(?)の無料箱の中には、仙台・熊谷書店の古びた包装紙が紛れ込んでいたので頂戴する。イチョウの葉っぱを散りばめた素朴なデザイン。「古本専門店」と記してある。それを貰ってどうするというような紙切れに、私はよろこぶ。
神保町古書モールを一巡りして、ミロンガで珈琲。
さっき買った『漫画劇場』を取り出して、さっそく、やなせたかし「顔のないアイツ」を読む。
読むと言っても〈パントマイム・ミュージカル〉とあるように、一切セリフのない無言劇である。
色刷りの7ページ。これはちょっと好い買物をした。
小宮山書店の店内2階は震災後から改装中。
店頭伝いに西へと歩き、ブンケン・ロック・サイドにて『ネコの育児書』(主婦と生活社タウンブックス)105円。
著者が乾信一郎だから買うことにしたのだが、栞の代わりにはさんであった小田急ロマンスカーの古い特急券がなかなかのオマケとなった。ボール紙の硬券で「第1あしがら号、新宿→新原町田」と印刷してある。新原町田! だからと言ってこの切符をどうするのか、どうもしない、ただ面白がるだけ。
日本特価書籍で引き返し、久しぶりに白山通り沿いの古本屋を覗いて歩く。
東西堂書店、神田書房にも、きちんと立ち寄る。
新日本書籍では『内藤ルネ展』図録が4200円。早稲田の穴八幡で買いそびれた1冊だが、4000円は苦しい。この図録はもうしばらく尾を引きそうである。
【2023年3月追記】乾信一郎
乾信一郎【いぬい・しんいちろう、1906(明治39)-2000(平成12)】
編集者、小説家、翻訳家と、多方面で活躍しています。
ユーモア小説を数多く執筆したほか、探偵小説や動物小説の作品があります。
翻訳はミステリーが中心で、マッカレー、クイーン、クリスティーなどこちらも数多く携わりました。
動物エッセイの著作も数冊あり、『ネコの育児書』はその1冊です。
編集者としては、1930年に博文館に入社し、1935年に『講談雑誌』編集長、続く1937年からは1年という短い期間でしたが『新青年』の編集長を務めました。
編集者時代を回顧した自伝『「新青年」の頃』(早川書房)が1991年に刊行されています。