【2011年8月11日】
東急東横店8階催物場、渋谷大古本市。
教養文庫の牧逸馬は2100円の高値が付いていたり、新書判で登場するのはやっぱり『はだか随筆』だったり、通叢書の花園歌子『芸妓通』6000円……、最初の1冊に当たらぬまま、上を見て下に屈んでまた立って、1時間ほど経った頃に『汽車土瓶』という小冊子。駅売りのお茶の土瓶を集めた展覧会の図録で、1995年に栃木県馬頭町の窯業史博物館で行なわれている。そんな展覧会もあったのだなと言うような、ちょっと面白い図録を見つけた。525円。
それからまたしばらくして、松川二郎『珍味を求めて舌が旅をする』(日本評論社)。
この愉快な題名の本は松川二郎の著作の中でも気になっていた1冊だ。
現物に接するのは初めてだが、装幀と口絵を水島爾保布が担当している。
函付で3150円……。微妙な値段ではあって、そのうち南部古書会館あたりで1500円、と思わぬでもないが、そのときはそのときだと覚悟を決めて、巡り合った今日の日に買っておこう。出品は宮益坂の中村書店、詩集を専門に扱うこの老舗古書店はまだ訪れたことがない。
鱒書房ニュースマン・シリーズの『聞助捕物帖』桜田門夫、500円。
徳川夢声『雁のあとさき』(四季社)525円。
寺山修司『田園に死す・草迷宮』(フィルムアート社)525円。
ぽつぽつと拾い集めて、最後は大阪から参加の古書あじあ號の段ボール箱をがそごそやって、荒木伊兵衛書店刊の雑誌『古本屋』第2号(昭和2年7月)800円を追加。
時計を見たら午後2時45分。10時から、およそ5時間も会場をさまよっていた。
井の頭線が渋谷口のトンネルを出ると外は雨が降っている。夕立のようだ。
これからいせやに行こうと思うのだが、いせやに行こうとすると、このあいだも夕立だったな。と、思っていたら、どうやらすでに一雨去ったあとの名残の雨だったらしく、吉祥寺へ着くころには晴れ間がのぞく。
いせや公園店で瓶ビールと焼鳥(シロ、レバ、ネギ)と、ウーロンハイ。
ホロホロに出来上がったあとは久しぶりによみた屋をまわって、それから古本センターへ。
帳場には新顔のアルバイトの女性がやや緊張の面持ちで腰掛けていて、老主人からレジスターの講習を受けていた。
【2023年4月追記】窯業史博物館の『汽車土瓶』
『汽車土瓶』は窯業史博物館の第1回企画展の図録として刊行されています。
館長の大川清氏は歴史考古学者、窯業史研究家。栃木県馬頭町(現那珂川町)に日本窯業史研究所を開設、さらに同研究所内に窯業史博物館を開館しました。
1995年3月に国士舘大学の教授を退官されたのち、同館で初めての企画展として開かれたのが汽車土瓶展です(1995年4月4日~11月5日開催)。
研究の傍ら、汽車土瓶の蒐集にも務められたとのことで、企画展ではそれらの蒐集品が展示されたようです。
図録『汽車土瓶』はA5判、約50ページの小冊子ですが、各種土瓶のカラー写真が多数掲載され、また年代別に、製造法や産地についての簡潔ながら専門的な解説が添えてあります。
執筆者の明記はありませんが、図録の総編集は大川氏が担当したと、目次の例言にあります。
大川清氏は2003年にお亡くなりになりました。
逝去後、博物館は閉館になったのではないかとも思われるのですが、きちんと調べ切れていません。
窯業史博物館の所在地(那珂川町小砂3112)を地図で調べると、日本窯業史研究所は現存するようなのですが、博物館の表示はありません。
なお『汽車土瓶』表紙に描かれた立売りの図はジョルジュ・ビゴーのスケッチです。
参考
*奥野中彦「大川清先生の古稀をお祝い申上げる」/『国士舘史学』第3号(国士舘大学史学会/平成7年3月)
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〈関連日記〉
松川二郎
→【2011年6月3日/2023年3月追記】城南展