【2012年1月27日】
東京古書会館の趣味展。
扶桑書房で500円以下の廉価本を8冊。なかでも林二九太の喜劇集『大東京は曇り後晴れ』が、裸本ながら300円で愉快な収穫だった。
―購入メモ―
*扶桑書房の棚から
『婦人科医のうきよ随筆』岡島寛一(風間書房/昭和30)300円
『女弟子』山田順子(あまとりあ社/昭和30)500円
『赤い腕章』檀上完爾(鉄道図書刊行会/昭和42)400円
『日本郵便印入門』上・中・下 天野安治(日本郵趣協会/昭和43・44)3冊500円
『日本切手の紙と糊』中崎真司(日本郵趣協会/昭和44)300円
『大東京は曇り後晴れ』林二九太(昭森社/昭和11)300円
その他、訪書堂書店の棚には竹村猛児が3冊ほど並んでいていずれも200円。
『物言わぬ聴診器』(大元社/昭和16)、『脈』(大元社/昭和17)、『診察室の屑籠』(大元社/昭和17)、拾い集める。
さて、目録注文の結果だが、帳場にて注文した旨を告げると、対応してくださった係の御婦人が目録注文品の保管棚へ探しにゆくのだが、なかなか戻ってこない。こりゃあ2冊とも駄目かな。
あ、『富貴の人』を片手に戻ってこられた。鍋井克之『富貴の人』(小山書店/昭和17)1500円。
残念ながらハンマースホイはハズレだった。やっぱり注文が重複したようで、そしてこの結果は、一昨日の鎌倉藝林荘でうっすら予感したとおりなのであった。
古書店街。
悠久堂書店の店頭で『手軽でおいしいかん詰料理集』岡松喜與子(雄鶏社実用叢書/昭和30)200円。
ミロンガで一休みしながら『大東京は…』をめくってみると、その中の「内地の客」はプラトン社の脚本募集に当選した作品で、林二九太の初めての喜劇なんだそうである。
それから、あまとりあ社の新書判の書目をメモした手控えを取り出して、さっき買った『女弟子』に購入済みの丸印をつける。
村岡藤里『地獄の野良犬ども』? そんな書目も記してあるのだが、それはさっき、三省堂店頭の新春古書市で見かけたのではなかったか。あの本は、あまとりあ社の新書判だったのか。手に取りもせず、背表紙だけで素通りしてしまったのだが、やっぱり無精はいけませぬ。舞い戻って、『地獄の野良犬ども』(あまとりあ社/昭和35)購入する、800円。
ふたたび店頭棚を辿りながら、途中、本と街の案内所で次週和洋会の目録を入手する。
続いては銀座松屋を訪れて、銀座古書の市。
えびな書店の棚から『ぐりとぐらのなかまたち』山脇百合子絵本原画展(NHK東北プランニング/2007)500円。
五十嵐書店では長谷川春子『東亞あれこれ』と横井弘三『島の写生紀行』が、いずれも函欠でいずれも3000円。どちらか1冊ならば長谷川春子か……どちらも滅多に見かける本ではなさそうだし、もし他に何もなければ両方とも奮発するか……千々に乱れながら棚を移動。
呂古書房、豆本を陳列したショーケースの上に黒ずんだ本が10冊ほど並んでいる。磯部甲陽堂の漫画双紙が5冊もある。うひゃあ。
前川千帆『漫画風流』、漫画会同人『漫画展覧会』『恋と算盤』、この3冊は1万円を超えておりどうしようもない。清水勘一『焼酎と塩鮭とバナナ』(大正10)3500円、この値段なら何とかなる。服部亮英『化の皮』5000円、ぎりぎりだが、ちょっと苦しい。漫画双紙のほかにも近藤浩一路『漫画道中記』が函欠で4800円とか、いずれも小さな本なのだがこの一群、戦前漫画の絶景だった。
さらに歩を進めて、かげろう文庫の棚では平井房人『家庭報国思ひつき夫人』(朝日新聞社/昭和13)2100円。さらにさらに日月堂では鈴木信太郎随筆集『お祭りの太鼓』(朝日新聞社/昭和24)2000円、と何やら痺れるような展開に、当初の候補だった長谷川春子と横井弘三は押し出される恰好になった。
帰りの車中で和洋会の目録を眺めると、ここにも漫画双紙が出品されている。細木原青起『娘ざかり』2500円、注文してみるか。
【2023年8月追記】林二九太/磯部甲陽堂の漫画双紙
林二九太【はやし・にくた、1896(明治29)-没年不詳】。
本名は、表記は同じ二九太ですが「ふくた」と読みます。銀座の生まれ。
劇作家として出発し、戦前から昭和30年代にかけては、多くのユーモア小説を執筆しています。
すでに忘れ去られた作家の一人になるのでしょうが、古本世界においては、方々を歩きまわればそのうちどこかで目にするはずの、割合にお馴染みの作家です。
名前そのものがどことなくユーモラスですから親しみが湧きますし、書目によっては高値が付くようですけれど、『新婚回覧板』とか『人生停留所』とか『へのへのもへじ』とか、1000円前後でユーモア作品集を見つけた日は、軽く弾みがつきます。
躍りあがるほどではない。軽く弾む、というところが、これがなかなかの効能です。
参考
*『日本近代文学大事典』第3巻(講談社/1977)
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磯部甲陽堂の漫画双紙は、大正7年から10年にかけて、12冊が刊行されています。
1近藤浩一路『嫁さがし』
2清水勘一『焼酎と塩鮭とバナナ』
3山田みのる『酒の虫』
4池部鈞『僕の学生時代』
5漫画会同人『恋と算盤』
6細木原青起『娘ざかり』
7在田稠『頓智杢太郎』
8前川千帆『漫画風流』
9服部亮英『化の皮』
10三上知治『七いろ唐辛』
11漫画会同人『漫画展覧会』
12岡本一平『可笑味』
以上、国会図書館でインターネット公開されている『可笑味』の巻末に載っている既刊案内を書き写しました。
なお、『化の皮』などの巻末では、小川治平『ずんべら物語』という気になる題名の1冊が、近刊として予告されていますが、これは未刊に終わったと思われます。
国会図書館には第11巻『漫画展覧会』の蔵書が無いようです。その他の11冊は、すべてインターネットで公開しています。
その『漫画展覧会』を、銀座古書の市では見かけたわけですが、たしかに見かけたはずだと思うのですけれど、今となっては確証がありません。
漫画と言っても、この時代の漫画は現在のようなコマ割りではなく、1枚の滑稽画に軽妙な文章を添えるというスタイルの、漫画漫文です。
1世紀前の漫画となれば、古臭いところがあるのは否めませんし、腹を抱えて笑うほどではありませんけれど、じんわりと染み込んでくるような、渋茶のような味わいがあります。
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〈関連日記〉
銀座古書の市については下記ご参照ください。2020年を最後に開催されていません。
→【2011年1月28日/2023年3月追記】趣味展から銀座古書の市へ行ってまた神保町