【2012年4月27日】
東京古書会館、下町書友会。
事前の目録で注目したのは『喰合せの話』昭和17年刊、1050円。よほど注文しようかと思ったのだが、ぐずぐずして遣り過ごした。
会場に入って、まずは、その出品先である文泉堂書店の棚へ赴く。
ところがそこはほとんどを洋書が占めており、わずかに寄せ集めた和書の背にもそれらしい文字は見当たらない。注文が入ってすでに売約済みなのだとしたら、喰い合わせに喰いつく物好きは私だけではなかったということなのか。
それとも反対に、店主にも見放されて会場には並べていなくて、倉庫で置いてけぼりを喰らっているのだろうか……。
もしここにあるとすれば、床に積み上げた本の中に紛れているか、あるいは本と本の隙間に埋もれているか、いずれにしてもこの状況なら誰かが通りすがりに手を出すとも思えず、ひとまずは他店の棚を見て歩く。
金木書店の棚から『パリの切手市』玉井勝美(駸々堂ユニコンカラー双書/昭和53)100円を手にとり、早足で会場を一巡したあとは、ふたたび文泉堂。
棚の末端に積み重ねられて、ブックエンドの代役を務めている7、8冊の小型本を見分すると、あ、あった。『喰合せの話』及川正知(私刊/昭和17)1050円。これで気分は寛いだ。
もういちどゆっくりと一巡、寺島珠雄詩集『わがテロル考』(VAN書房/昭和51)300円、追加する。
ミロンガにて『喰合せの話』をめくる。
文庫判で130ページ。地味な造本だ。
一見するとカバー欠の裸本なのだが、奥付を見ると個人刊の非売品ということが判り、必要以上の装飾は元から無かったのかもしれない。
喰い合わせの項目は五十音順にかなり網羅されており、たとえば「蜆と蕎麦…毛が抜ける」の場合、「蜆」からも「蕎麦」からも引くことができて親切だ。
「喰合せに関する文献」という一文も興味深く、医学刊行会『喰合いろは図解』などはさっそく気になるところ。
五反田に移って南部古書会館。五反田アートブックバザール。
買物ナシの雲行きなるも、最後になって横田順彌『探書記』(本の雑誌社/1992)400円、購入する。
山手線の中で拾い読みをすると、どうもどこを読んでも見覚えがある。そう云えばのちに改題して文庫本になっていたのだったか、以前にその文庫本を読んで、元版の『探書記』は買わなくてもよい、と、思ったことを(今頃になって)思い出した。
しかしその文庫本の書名がまるきり思い出せない。読んだことは間違いなく読んだはずだが、いったい何を読んだのか。
記憶の迷走にくすぶりながら高円寺。
都丸書店本店の店頭棚から高田義一郎随筆集『ホルモン気質』(岡倉書房/昭和11)300円。珍しく本店の店頭から収穫を得て、記憶の小規模なもやもやは吹っ飛ぶ。
支店の店頭棚には『時計の科学』宮里良保(火星社/昭和23)が放出されていて500円。今迄ずっと店内の棚に収まっていた1冊で、たしか700円か900円だった。ほんの数百円の差と言っても、その200円が浮けば四文屋の梅割りが一杯飲める。400円なら二杯飲める。こういう計算は素早い。
【2023年11月追記】
喰い合わせにつきましては以下の日記をご参照ください。
〈関連日記〉
喰い合わせ
→【2011年9月23日/2023年5月追記】紙魚之会と五反田遊古会
いったいどれほどの類書があるのかは見当もつかず、積極的に探しているわけではありませんけれど、見かければつい買いたくなる「喰い合わせ」です。
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南部古書会館の「五反田アートブックバザール」は2016年4月の第16回で終了しています。
どうしても思い出せなかった『探書記』文庫版の書名は『古本探偵の冒険』です。
1998年、学陽文庫から刊行されました。
文庫化にあたって、増補改訂が施されています。
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高円寺ガード下の「都丸書店」――
「支店」は、2014年より「藍書店」と改名。2018年11月に荻窪へ移転して営業を続けていましたが、今年(2023年)2月に閉店となりました。
「本店」は2020年12月に閉店しています。
2023年9月現在ですが、本店の店舗跡はシャッターを鎖したまま残っていました。軒の上には裏返しにした看板もまだそのままで、かろうじて古本屋の面影を偲ぶことができます。
支店(藍書店)の跡地は、作業員の詰所として利用していました。
いつかまた、ガード下に古本が戻ってこないかと、秘かに期待しているのですが……。