【2012年5月12日/2023年12月追記】『あんパン小僧』から始まって『エキサイト赤外線写真術』で終わる

【2012年5月12日】
西部古書会館、杉並書友会。
コクテイル書房の棚に伊馬春部いまはるべ『あんパン小僧』(宝文館=少年少女ユーモア文庫/昭和28)750円。
その棚からくるりと振り返って竹岡書店。佐々木味津三みつぞう『へそのない男』(資文堂書店=現代ユーモア叢書/昭和3)800円。
序盤に現われた2冊のユーモアで気分は五月晴れだ。
あとは悠々と、青空を泳ぐ鯉幟こいのぼりのように健やかに……とは参らず、床に並べた雑本にへばりついては『恋人たちのインスタント写真術』橘高永子(浜書房=ダイナミックカメラレポート/昭和58)200円にちょっかいを出す。
啓明書店の棚から『日本近代漫画の誕生』清水勲(山川出版社=日本史リブレット/2001)300円を加えて、計4冊。

伊馬春部「あんパン小僧」表紙
『あんパン小僧』伊馬春部
(宝文館=少年少女ユーモア文庫/昭和28)
佐々木味津三「へそのない男」表紙
『へそのない男』佐々木味津三
(資文堂書店=現代ユーモア叢書/昭和3)

喫茶ネルケンにて『へそのない男』を見分する。
資文堂書店の現代ユーモア叢書というのは初めて目にする叢書だったが、巻末を見ると第四篇まで刊行されていて『へそのない男』はその第一篇。
以下、藤本斥夫『抒笑襲来』、山中峯太郎/山中ミユキ『円満読本』、三宅彰『虱の放浪』と続く。
山中峯太郎はあの山中峯太郎なのか、ミユキさんはそうすると奥様なのか、藤本斥夫や三宅彰はまったく知らない作家であるし、どのようなユーモアが展開されているのか、気になる叢書である。
名曲喫茶には場違いなんだけれども、『恋人たちのインスタント写真術』こっそりひらく。
著者の橘高永子氏は夫婦交際誌『ブラックキャッツ』副編集長なのだそうだが、浜書房といえば『ドキュメント通勤電車』の版元で、巻末広告にはその案内も載っている。また新書判の案内では木村佳子『女の子のルンルン写真術』が、遙かなる昭和の徒花あだばなか。見つからなくても構わぬが、見つかったらうきうきと買ってしまうのだろう。

荻窪、ささま書店。
漫画の棚で清水勲『〔日本〕漫画の事典』(三省堂=SUN LEXICA/1985)420円。これは即売展に通い始めたころに見かけたことがあって、何となく買わなかった1冊。今買わなくても、すぐまた見つかるだろうと油断したのだが、以来、なかなか見かけなかった。高円寺から荻窪へ、清水勲氏の著作が連絡する。
その他、鉄道グラフのRMライブラリーがたくさん並んでいた中から『魚梁瀬やなせ森林鉄道』桝本成行(ネコ・パブリッシング=RMライブラリー/2001)と『茨城交通水浜線』中川浩一(同/2004)の2冊。各630円。
さらに『おもいでの都電』林順信/諸河久(保育社=カラーブックス/昭和61)315円を加えて購入。

吉祥寺、古本センターにて『広告写真術』松野志気雄(東京朝日新聞発行所=アサヒカメラ叢書/昭和9)500円と、『エキサイト赤外線写真術』石垣章(二見書房=サラ・ブックス/昭和56)400円。
さっきはインスタント、今度は赤外線。あればやっぱり手が伸びる。
今日は写真術によく当たる一日だ。

松野志気雄「広告写真術」表紙
『広告写真術』松野志気雄
(東京朝日新聞発行所=アサヒカメラ叢書/昭和9)

【2023年12月追記】宝文館少年少女ユーモア文庫など
宝文館の「少年少女ユーモア文庫」は、1953年(昭和28)から1955年(昭和30)にかけて刊行されました。
国会図書館には27冊の蔵書がありますが、これですべてなのかどうかは判りません。
三橋一夫『タヌキの秘密』、北町一郎『にんじんクラブ』、サトウハチロー『とんとんクラブ』、鹿島孝二『かみなりクラブ』、宮崎博史『サンドイッチさん』、紅ユリ子『なでしこ横丁』、穂積純太郎『桃栗さん』、源氏鶏太『わんぱく行進曲』、伊馬春部『コケコッコ百貨店』等々。
題名だけでも愉しめるような作品が揃っています。
こういう本を1冊でも買物すれば、穏やかな色合いで古本生活は縁どられるのでしょうけれど、残念なことに少年少女ユーモア文庫、古本で見かける機会が非常に少ないです。
ようやく見つけたと思ったら結構な値段が付いていたりして、そう易々と入手に至らないのは歯痒いところです。
仕方ありません。
いつか均一棚の端っこにひっそり紛れ込んでいることを夢見つつ、『私は豆記者』、『うっかり行進曲』、『チコトン通信』、『ガブダブ物語』……、題名だけを眺めては妄想をふくらませます。
  ◇
資文堂書店「現代ユーモア叢書」は1928年(昭和3)から1929年(昭和4)にかけて刊行されたようです。
第一篇『へそのない男』佐々木味津三
第二篇『抒笑襲来』藤本斥夫
第三篇『虱の放浪』三宅彰
第四篇『円満御家庭』山中峯太郎/山中ミユキ
第五篇『夢声半代記』徳川夢声
第六篇『陽気な喇叭卒』畑耕一
以上、国会図書館蔵書および「日本の古本屋」販売検索より判明した書目を書き出してみましたが、これで全冊なのかどうか、詳細は不明です。
第四篇、日記の文中では『円満読本』と記していますが、正しくは『円満御家庭』です。
山中峯太郎はあの山中峯太郎、『敵中横断三百里』や『亜細亜の曙』の作者で、共著者のミユキさんはやはり奥様のようです。
また国会図書館の書誌情報では第三篇の題名(別タイトル)を『風の放浪』と記してます。
「風」は、「しらみ」の誤記ではないかと思われるのですが、現物を見たわけではありませんので判然としません。
  ◇
『エキサイト赤外線写真術』は二見書房サラ・ブックス「恋びとたち」のシリーズ第5巻として刊行されました。
「恋びとたち」は1980年(昭和55)から1982年(昭和57)にかけての全8巻と、各巻からの特別編集版が3冊あります。
すでに刊行から半世紀近くが経とうとしていますから、時代の風俗資料と見定めてそれなりの売価を付ける古本屋さんもありますし、反対に、過ぎ去った雑本の束として捨て値で放出するお店もあります。
『恋びとたち』『ビニール本の恋びとたち2』『ズームアップ写真術』『プライベート写真術』……。
後発の『恋人たちのインスタント写真術』には便乗の気配も漂いますが、いずれも歴然とした評価などはどこ吹く風といった趣きで、時には高く時には安く、その価値を曖昧にまといながら、それでもしぶとく古本世界をくぐり抜ける、遊撃部隊のような一群です。