【2012年6月15日/2024年2月追記】倹約と散財を往ったり来たり

【2012年6月15日】
東京古書会館、ぐろりや会。
藝林荘の棚から現代ユーモア文学全集第3巻『徳川夢声集』(駿河台書房/昭和29)と『懺悔録』と、夢声翁の著書を2冊。どちらも525円。
それから30分ほど経って、先週の新興展の謎の古本美女をふたたびお見かけする。今日は『世界陶器全集』を吟味検討されているようだった。と、そのとき猛烈な便意が急襲。よほど動顚したのか、なぜだか『懺悔録』を元の棚に戻してから『徳川夢声集』のみ急いで会計を済ませ、雪隠に駆け込む。渋り腹ではあったが事無きを得る。
改めて会場に入り直し、藝林荘に赴くと『懺悔録』無くなっていた。
迷いに迷ったのは球陽書房の棚、『山之口獏全集第四巻』。
4月に南部会館の散歩展で第一巻、5月に同じく南部会館の遊古会で第二巻、そして今日6月、南部会館ではないものの、まさに全四巻のうち最後に残った第四巻の端本が出現した。4500円は適正な価格だろう。第一巻2000円、第二巻が500円、ずいぶん昔に買っておいた第三巻はたしか3、4000円だったと記憶するから、全部を合計しても1万円ちょっと。四巻揃いを購入すれば、もっと、もしかしたら2万円くらいの値がつくかもしれないから、その半値で揃うのだとしたら上出来だ。
しかし、今は4500円がチト苦しい。
出来ればその代金を他の古本にまわしたい。来週は書窓展、五反田展、好書会と、即売展3か所同時開催もあるから、余力は残しておきたい。
山之口獏全集を、もしどうしても読みたければ、図書館に行けばいつでも読める……古本の神様に言い訳をしつつ、『ただいま休診』久住清一(芸文新書/昭和39)210円を購入して静かに退散。

ミロンガで一休みしていると、ひょっとして『徳川夢声集』はもう持っているのじゃないかと思えてきた。買うのは『懺悔録』のほうだったのかもしれない。
何やらちぐはぐだ。こんな日は鉾先を転じて、エラホン、エリホン、エルホン、エレホン、エロホン、ラリルレロー。何の鉾なんだ。
それで湘南堂書店のエロ棚に潜りこむとこれと云うこれはなく、まわりこんで、背中合わせの非エロの棚で『カッフェー夜話』林田亀太郎(北村書店/大正3/再版)という書物にぶつかった。函付2500円、買ってみよう。

林田亀太郎「カッフェー夜話」表紙
『カッフェー夜話』林田亀太郎
(北村書店/大正3)

古書店街を日本特価書籍まで往復して、アムールショップをひとまわり。
最後に大雲堂書店に行くと近藤日出造『恐妻会』(朋文社/昭和30)1500円。新書判で、即売展なら500円で見つかりそうでもある。大雲堂書店は割合に入り易いお店なのでときどき店内(1階)の棚を眺めるけれど、いつも冷やかすばかりで何も買っていなかったから、たまには買い物をしないといけないようでもある。こうして『山之口獏全集第四巻』の倹約は、その日のうちにカッフェーと恐妻とに変身した。

近藤日出造「恐妻会」表紙
『恐妻会』近藤日出造(朋文社/昭和30)

帰りの電車の中で『カッフェー夜話』を開いてみる。
カッフェーそのものについての蘊蓄ではなく、カッフェーで交わすような雑談あれこれ、と云った内容だ。やや期待と異なる。
著者の林田亀太郎先生は、衆議院書記官長従四位勲三等なのだとか。
しかし雲梯なる号を持ち、また粋翰長と綽名されるあたり、結構な風流人でもあったらしい。
国内にとどまらず、「倫敦の女」「巴里の女」「露西亜美人」と、世界諸国の美人を大真面目に論じていたりもして、まあこれはこれでよかったか。
家に戻り確認したところ『徳川夢声集』まだ持っていなかった。ちょっと上がってはすぐ下がり、落っこちそうになってまたぎりぎり粘る。低空をさまよいながら、どうにかこうにか次の古本へと。

【2024年2月追記】取置き
日記の冒頭、尾籠な記述でありますことはお赦しください。
古書会館の即売展には、取置きという仕組があります。
会計前の本を帳場に預けておくことができます。
両手に抱えきれなくなったときなど、取置きをお願いすれば、また手ぶらになって本を探せます。
預ける際には、他の誰かと間違えないよう名前を伝えるのですが、顔を見せただけで「ああ、○○さん」と通じるような、いつも大量購入のご常連も見かけます。
会計を済ませていない本を、会場の外のトイレに持ち込むことは出来ません。本を探している途中で用を足したくなったときなど、積極的に利用するとよいでしょう。もちろん1冊でも預かってもらえます。折角見つけた本を手放さずに済みます。
一旦会計を終えるという手もありますが、やや煩瑣ですし、お腹がごろごろしたり、急を要する場合は特に、取置きを頼むのがいちばん迅速です。
いくら古本のためとはいえ、何が何でも我慢するというのはあまり推奨できません。
出すものを出し切って、すっきりとした気分で古本に集中したいものです。

ここからは私自身の反省になりますが、ぐろりや会の会場で、いかにも間違った行動に走っています。
当時、取置きの仕組があることは知っていたはずですから、『徳川夢声集』と『懺悔録』を帳場に預けてからトイレに行けば、何の問題もなかったわけです。
会計をするならするで、2冊一緒に買えばよい。なぜ『懺悔録』を棚に戻してしまったのか、今もって不可解ですが、あまり自分を責めると憂鬱になりますから、それだけ動揺していたのだから仕方ないと、同情の余地は残しておくことにします。
『懺悔録』を棚に戻そうとしている自分に、「落ち着いて!」と声を掛けたいところですが、なにぶん急務でしたから何を言っても聞こえないかもしれません。