【2012年7月13日/2024年3月追記】鈴木商店の『家庭料理の栞』など

【2012年7月13日】
東京古書会館での即売展は3週間ぶりの開催。
9時半に会館に到着して、まずは荷捌場の灰皿で一服。
今日はどんな古本と出くわすだろう。分け入る直前のこのひととき、そんな物質があるのかどうかは知らないが、コショホルモンが体内を駆け巡る。何度訪れても、いつも必ず分泌されては、陶然と駆け巡るのだ。
10時、愛書会。
今回は波多野巌松堂から。特価品を気前よく提供してくれるお店で、雑本派の味方。
取りついてすぐ、京阪神叢書の北尾鐐之助りょうのすけを2冊。『武庫川物語』(宝書房=京阪神叢書/昭和23)、『宇治川紀行』(同/昭和24)、各200円。栞のように本体からはみ出した値札に「200」の数字が見えるので、裏表紙をめくって値段を確認する手間が省ける。
『文壇今昔物語』――副題、ゴシップ書いて30年――武野藤介(東京ライフ社=東京選書/昭和32)「300」と、豆冊子『家庭料理の栞』秋穂益実(鈴木商店/大正13)「100」。

武野藤介「文壇今昔物語」表紙
『文壇今昔物語』武野藤介
(東京ライフ社=東京選書/昭和32)

ザッと見終わったところで、他の棚を早足で一巡。
アカシヤ書店で手にとった『古書の楽しみ』坂本一敏(国鉄厚生事業協会=弥生叢書/昭和58)300円には、見返しに著者の署名があり、また〈K・SAKAMOTO〉と記された蔵書票も貼ってあった。ひょっとして著者自身の架蔵本だったのだろうか。
波多野巌松堂に戻って『動物切手図鑑』哺乳類篇Ⅰ・Ⅱ/功力欣三(ニュー・サイエンス社=グリーンブックス/昭和57・58)、各100円を追加。さっきは見えていなかった。
ふたたびの千年堂書店では『夢声の動物記』徳川夢声(ちくま文庫/1996)420円。こちらもさっきは見えていなかった。
一瞥で見届けられないのだからまだまだ甘茶なり。会計の際、次回の目録を申し込む。

古書店街、田村書店の店頭で『鎌倉通信』横山隆一(高知新聞社/1995)800円。カバー欠のようだけれど、こだわらずに買っておく。題名は鎌倉でも、発行は高知新聞社。
ミロンガで珈琲。
『家庭料理の栞』をめくってみると、やけに味の素を贔屓にしているし、裏表紙の中央には、エプロン姿の御婦人に〈味の素〉の文字。ずばり商標が配置されている。非売品の冊子であるということは、発行所の鈴木商店とは、味の素を発案した会社なのかしらん。

秋穂益実「家庭料理の栞」表紙
『家庭料理の栞』秋穂益実
(鈴木商店/大正13)

日本特価書籍まで往復し、アムールショップ、古書モール、古書かんたんむと進む。
久しぶりにBOOK DASH(ブック・ダッシュ)をうろうろしていると、店内に流れるラジオから3時の時報が聞こえる。ガード下の読書席が開店する時間である。それではこのあたりで切り上げて、高円寺へと移動して、ガード下四文屋。『古書の楽しみ』読みながら、焼酎と浅漬け。

【2024年3月追記】味の素
即売展会場で大量に分泌されるコショホルモンは「フルホニン」と呼ばれます(うそ)。
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『家庭料理の栞』を発行した「鈴木商店」は、現在の「味の素株式会社」の前身です。
『わが社のマーク100選――その由来面白事典』真鍋博編(ロングセラーズ/1977)によりますと、創業者は鈴木三郎助。『家庭料理の栞』の発行人と同一です。
味の素の誕生は明治41年(1908年)、一般家庭への販売は翌明治42年に始まりました。
商品名を付けるにあたって、だしの元、鰹の元、味の王、味の元など、いくつかの候補の中から「味の元」が採用されましたが、舞踊などの家元を連想させることを避けて、元ではなく素の字を用い「味の素」になったそうです。
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東京古書会館の荷捌場はその後全面禁煙となり、灰皿は撤去されました。
以下ご参照ください。