【2012年7月14日/2024年3月追記】『酔っぱらい健康法』から岡崎武志一人古本市へ

【2012年7月14日】
高円寺9時15分着。
西部古書会館へ行くと、意外にも既に門は開いていて、先陣の5、6人がガレージの廉価本を物色している。
いつもなら、この時間はまだ開門していなくて、向かいの駐車場で朝の一服をふかしたりなどするのだけれど、古本の準備が整っているのであれば、そうもしていられない。
次々と到着する常連諸氏も、「今日はどうしたの?」などと思わず声に出しながら、前つんのめりに平台を覗きこんでいる。
古書愛好会展、ガレージにて『三代の辞書』――国語辞書百年小史――という、三省堂発行の小冊子を見つける。『明解国語辞典』の編纂者でもある山田忠雄氏が執筆を担当。昭和42年刊、100円。
室内では、健康法あれこれや家庭医学の新書判が丸々ひとつの棚を埋め尽くしていたりして、これだけ勢揃いすると〈健康〉は奇妙な圧力をかけて身に迫った。
及び腰にたじろいでいると、唯一、三橋一夫『酔っぱらい健康法』(学芸書林=ボア・ブックス/昭和50)が、やさしい光を投げかける。100円。この健康棚は三暁堂の提供だった。

三橋一夫「酔っぱらい健康法」表紙
『酔っぱらい健康法』三橋一夫
(学芸書林=ボア・ブックス/昭和50)

購入2冊で西部会館をあとにして、ネルケンでひと休み。
『酔っぱらい健康法』冒頭を読む。今まで、三橋一夫の著書を読んだことはないのだけれど、ふしぎ小説の作者だけあるということなのか、ユーモアに支えられた文章が軽快だ。
《酒をのむことは、大してケッコーなことでもないが、大して悪いことでもない》
とか、ちょっとノートに書き写しておきたくなるような名言がさっそく登場する。

今日からの三連休、国立に新しく出来た画廊にて、岡崎武志氏が蔵書を放出しての古本市を開催するそうで愉しみなのだが、その前に……。
日盛りの炎暑ならば、吉祥寺で途中下車して、いせやで瓶ビール。
右手に焼鳥の串、左手に『酔っぱらい健康法』、善き哉。

国立。駅前から横丁に入ってすぐ、古本市の会場となるギャラリービブリオの外見は、ごく普通の木造民家。
民家のように玄関を入り、民家のように履物を脱ぐ。
部屋に上がると青畳の涼しい匂い。畳の上の古本市とはずいぶん風雅だ。
古書会館にポスターが掲示されたわけではないから(ささま書店にはチラシが置いてあった)、午後1時の開場に合わせて、即売展のご常連が大挙して詰めかけるとか、さすがにそれはないだろうと思ってはいたけれども、たまたまそうだったとしても、5人の先客のうち4人までが女性という、即売展会場では有り得ないような、尋常ならざる男女比率は、国立という土地柄なのか、それともやはり岡崎氏の人徳でありましょうか。
小さな本棚と段ボール箱が部屋を囲むように配置され、それらは一目で見渡せるような分量なので、せっつかれるような気忙しさはない。ちくま文庫と中公文庫の一群が、主人役のような風格で並んでいる。
端から順にのんびり眺めておよそ半時間。
『外人さん』戸塚文子(ポケット文春/昭和39)200円。
『ブレヒト愛の詩集』ベルトルト・ブレヒト(晶文社/昭和59)300円。
『ブックデザイン』粟屋充(美術出版社/昭和46)300円。
3冊を選ぶ。いずれも価格は低廉でうれしい。
会場のギャラリービブリオは、2か月後の9月からの林静一展で正式に幕を開けるようだが、画廊の名前からして書物に縁のある展示が多いのかもしれず、定期的な古本市が開かれるのだとしたら愉快だろう。

ブックオフ国立駅南口店に寄り、『岩佐なを銅版画蔵書票集』岩佐なを(美術出版社/2007)1550円、ライトノベルの105円均一棚では『食卓にビールを6』小林めぐみ(富士見ミステリー文庫/2007)を発見し全6巻が揃った。

「岡崎武志一人古本市」チラシ
《岡崎武志一人古本市》チラシ

【2024年3月追記】ギャラリービブリオの古本市
国立市の民家画廊「ギャラリービブリオ」での古本市は、その後も何回か開催されました。

=2012年=
7月14日~16日=岡崎武志一人古本市(上述の古本市)
8月18日=くにたちコショコショ市
10月20日・21日=岡崎武志・古本泡山2人古本市
(10月13日~21日=岡崎武志原画展〈上京する文学〉同時開催)
=2013年=
1月26日・27日=岡崎武志と仲間たち新春古本市

半年のあいだに4回の開催ですから、かなりの頻度です。
中心となる岡崎武志氏が古本エッセイの達人でありますことは、ここに申すまでもないでしょう。
ちくま文庫版の『古本極楽ガイド』(2003年刊)、『古本生活読本』(2005)、『古本病のかかり方』(2007)など、私も繰り返し愛読し、古本の愉しさ、奥深さ、オソロシサ(?)を教わりました。
その先達が、自らの蔵書を放出しての古本市。胸が躍ります。
一人古本市で幕を開けたあとは、定期市のような勢いでの開催が続きましたが、2013年1月以降は行なわれていないようです。
当時、オープンしたばかりの画廊の名は広く知れ渡ってはいなかったのでしょうし、客寄せと言っては失礼ですが、宣伝活動の一環として、岡崎氏が一肌脱いだということだったのかもしれません。
ギャラリービブリオは現在も営業しています。国立駅南口から徒歩2分の住宅街。
様々な展覧会のほか、コンサートも開かれているようです。
玄関を開けて、靴を脱いで、畳の上での古本市は、まったく愉快な古本体験でした。
いつかまた、古本市が開かれる日があれば、ぜひともお邪魔したいと思います。
日記には書いていませんが、その日私はビーチサンダルを履いて出掛けてしまい、会場の畳の上でふと足の裏を見たらマックロケで、顔面から火が噴き出しそうになりました。しかし、知らぬふりをして、そのまま部屋を歩きまわりました。反省しています。
こんど古本市が開かれるときがあるとしたら、特に夏場は、粗相のないよう履物には気をつけます。
なお、岡崎武志氏の過去の古本エッセイを再編集し、さらに新稿や書籍未収録原稿を加えた集大成『古本大全』が、2024年1月、ちくま文庫から刊行されました。
(参照*〈GALLERY BIBLIO(ギャラリービブリオ)〉ホームページ)

〈関連日記〉
ひそかに古本の師と仰ぐ岡崎武志氏につきましては下記もご参照ください。
【2009年11月21日/2022年11月追記】中央線古書展で岡崎武志氏(?)をお見かけする