【2012年8月10日/2024年5月追記】城北展から渋谷大古本市

【2012年8月10日】
東京古書会館、城北展。
古本ねこやの棚に岩佐東一郎の随筆集が2冊並んでいて、くりくりは入手済みだからよいとして、何と言っても風船なのだが、5000円くらいなら奮発する決意で外函から本体を取り出し、裏表紙をめくると3000円のヤッホーだ。
『風船蟲』岩佐東一郎(青潮社/昭和25/青園荘特頒本)、天恵を有難く頂戴する。
ついでに確認すると『くりくり坊主』も同額の3000円だった。
ねこやからはもう1冊、『レンズの眼』ラングドン・ジョーンズ(サンリオSF文庫/昭和55)300円。
その他、古書英二の棚から『推理と暗号』辛島驍(講談社=ミリオン・ブックス/昭和37)500円。
購入は以上3冊。
入口脇のショーケースには、目録で注目した『家庭ビール速製法』(昭和24)が陳列してあった。目録価格3000円が半値の1500円に値下げしてあったのだが、鑑賞にとどめる。

岩佐東一郎随筆集「風船蟲」外函
『風船蟲』岩佐東一郎
(青潮社/昭和25/青園荘特頒本)外函

古書店街。小宮山書店のガレージセールを訪れると、路上の机の上に『PLAY BOY』や『スコラ』など、グラビア雑誌が山積みになっている。
大いに気になるところだが、黒い帽子に黒い服、全身黒ずくめの御婦人が、1冊1冊、悠々とページを全開にして、入念に閲覧しておられる。
その出で立ち、その振舞い、蝙蝠の女王様とでも言いたいような風格である。横から手出しをするのは憚られるので、もういちど出直すことにする。
先へ進んで古書センター店頭にて新書判、『しねま抄』高橋晋(笑の泉社/昭和31)210円。
日本特価書籍で折り返して、それからアムールショップを巡回して、ふたたびの小宮山書店ガレージ。
炎天をものともせず、蝙蝠女王様は『写楽』に取り組んでおられる。
このあとは渋谷に行く予定なので仕方ない。邪魔をせぬようなるべく身を縮め、脇のほうから雑誌の束を覗きこみ、『世界のメンズ・マガジン・カタログ〈アメリカ編〉』(辰巳出版/昭和56/改訂版)100円、そっと引き抜いて、お譲り頂く。

東急東横店の渋谷大古本市へ。今日は2日目。
ここの催物場はかなり広大なので、早足を心掛けて巡り始める。巡り始めてすぐ、天理教に関する書物を見つけたらしい婆様と目が遭ってしまい、すると婆様はこちらをじっと見据えたまま天理教を批判する演説を開始するのでうろたえる。愛想笑いで切り抜ける。
ほん吉の棚に、やなせ・たかし『無口なボオ氏』(サンリオ/昭和51)2100円。いつだったか弥生美術館のやなせ・たかし展で、この本の表紙の原画を見て感銘を受けたことを思い出す。美術館の帰り道は神保町に寄道して源喜堂で『長谷川利行全文集』を発見したことも思い出す。思い出はすべて古本につながっている。
藤井書店の棚では、あまとりあ新書の1冊、平林啓子『男のしらない女の話』がぐっと迫るのだったが、カバーの題字の一部分が破れて欠損しており、惜しくも見送る。
揚羽堂にて〈恋びとたち〉シリーズ第8集『透視カメラ術』北城蒼司(二見書房=サラブレッド・ブックス/昭和57)300円。
早足のつもりが結局は鈍足となって、3時間弱の滞在。朝からたんまり古本に浸かって効能よろしく、身も心もとろける。
それでは高円寺へと移動して、ガード下の四文屋で『風船蟲』のページをめくる。
限定500部のうちの青園荘特頒本(150冊)で、本書はその第拾番。
句入りの署名も豪華だが――風花や木屋町四條高瀬川――、自筆の葉書まで挟まっていたのはびっくりのオマケだ。葉書の宛名は加藤山椒魚。本の扉には山椒魚蔵書の印が捺してある。山椒魚氏もまた、岩佐東一郎の書友の一人だったのだろうか。内藤政勝の装幀造本、カットは川上澄生。貼付けの書店票を見ると、銀座の奥村書店から川越の古本ねこやという来歴を辿ることができる。
特装本の世界というのはまったく対岸の出来事ではあるけれども、実際に掌で撫でさすれば、陶然と異国に遊ぶような夢心地だ。1杯200円の焼酎が極上の美酒になる。

【2024年5月追記】
東京古書会館の「城北展」は年2回の開催です。
4月末(もしくは5月上旬)と8月。
2012年当時は目録がありましたが、現在は発行されていません。
参加店もだいぶん入れ替わっているようで、『風船蟲』を出品してくださった「古本ねこや」はその後退会しています。
詩人・風流人・書痴……岩佐東一郎につきましては下記ご参照ください。

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東急東横店は2020年3月31日で営業終了。
その直前の2月に特別開催された「さよなら東急東横店渋谷大古本市」をもって東横店の古本市は終了となりました。
翌2021年の9月には、渋谷大古本市のポスターのデザインをそのまま引き継いで、場所を渋谷からたまプラーザへと移し、「東急百貨店たまプラーザ大古本市」が開催されました。
古本市が田園都市線に乗って新天地に引越したという恰好でしたが、残念ながら2022年以降は開催の知らせを聞きません。