【2013年1月18日/2026年6月追記】第100回五反田遊古会で『明朗九州娘』

【2013年1月18日】
南部古書会館、五反田遊古会
1階の雑本より『ミステリー美食紀行』菊池道子(グラフ社=ふくろうブックス/昭和61)200円。新書判。推理小説に登場する料理を味わい尽くそうというエッセイ。
『ギリシア悲劇』呉茂一(現代教養文庫/昭和55/27刷)200円。これもう持っているか? 持っていたとしてもどこにあるのか把握していないのだから、持っていないと見做してよいでしょう。
『ポスターデザイン』大智浩(美術出版社/昭和49/12版)200円。同じ著者の『ポスターのデザイン』は、ここ南部会館で以前に買っている。似たような題名だが、『ポスターのデザイン』はもっと薄くてパンフレットのような体裁だった。

遊古会は今回が節目の第100回。
階段の上がり口には大きな花束が届けられている。2階の本会場が開く折には、あるいは何か入口で挨拶があったのかもしれない。列の後方(会館の外にはみ出している)からは様子が窺えなかった。
改まった口上はなくても、そこに陳列された古本が、何よりの挨拶だ。
目録掲載品の『童貞の機関車』や『街頭のさゝやき』をうっとり眺め、キヌタ文庫店主長島冨士雄氏の著書『私の武蔵野』を見つけたのだが価格3000円に躊躇。注文した『明朗九州娘』がハズレだったらこれを買おうか……。
結局、場内では1冊も手にとらないまま帳場へ。『明朗九州娘』鶴丸九州児(ユーモア文芸社/昭和36)当たっていた。2000円。
文庫本と同じ大きさの、雑誌の附録のような冊子だが、茶目な娘さんを配した表紙は味わいがある。
支払いをしていると、出品元の黒沢書店の店主さんから声を掛けられ、「それ、名刺も入っていました」と言って手を伸ばし、本を包んだビニール袋をひっくり返すと、ほんとうだ、名刺だ。
会計の対応をしてくれた別のお店の店主さんも名刺に顔を近づけて「面白い名前だね」と一言。
鶴丸九州児。くすお、と読むことが判明する。
「変わった経歴みたいですよ、巻末に書いてあります」とも教えてくださった。

『明朗九州娘』鶴丸九州児
(ユーモア文芸社/昭和36)

神保町。
田村書店の100円段ボール箱に、岩波文庫がどっさり。右や左の旦那様がどんどん抱え込んでいる。
隙間から手を差し入れてアリストパネース『女の議会』(岩波文庫/2002/15刷)購入。
東京古書会館、がらくた市
ぶっくす丈の棚に、佐藤藝古堂が出品した『孑孑ぼうふら漫画』が紛れ込んでいた。誰かがここで見切ったのだろう。山田みのる、服部亮英の共著。いちどは確保したものの、状態の悪さが気になって、元の棚に――ぶっくす丈ではなく佐藤藝古堂の棚に、返却しておいた。
嶋木文庫の棚から『鯛のタイ』大西彬(草思社/1991)400円。鯛の中に鯛の形をした小骨がありそれを〈鯛の鯛〉と呼ぶことは、たしか内房の民宿で教わったのだった。
終盤、古本ねこや・・・にて、徳川夢声『爆雷社長』(錦城出版社/昭和17/再版)発見。函付、2000円。
ねこやさんは、以前、岩佐東一郎『風船蟲』を買ったお店。またしてもうれしい買物ができた。
それにしても『孑孑漫画』、背表紙欠の裸本ながら2000円は特価ではなかったか、やっぱり買っておくべきだった、と、もやもやする。

ふたたび古書店街。店頭棚をまっすぐ伝ってA1口から都営新宿線に乗る。
新宿サブナードの古本浪漫洲が今週から始まった。
今日は何も買えなかったけれど、1か月の開催中に、1冊でも買えればそれでよいだろう。
高円寺、ガード下の四文屋にて『明朗九州娘』を取り出す。
教えてもらった「変わった経歴」が気になって、まずは巻末から。発行者の岡田誠一が刊行の弁を記している。
岡田誠一と鶴丸九州児は、九州児が台湾日日新報夕刊に『人生明朗曲』――同社の小説懸賞の一等入選作――を連載していた昭和7年からの珍友(と書いてある)だそうだ。
しばらく音信は不通になるが、社用で出掛けた博多で20年振りに奇遇を果たし、戦後、台湾を引き揚げて以来ずっと筆を断っているという九州児に、何か書いてみないかと強請(と書いてある)、そうしてこの『明朗九州娘』が完成したようだ。
新聞連載の『人生明朗曲』が1冊にまとまったのかは不明だが、筆歴には、昭和17年『台湾楽しや』と、昭和18年『子供忠臣蔵』の2冊が刊行されたと記載がある。
鶴丸九州児はもちろんだが、ユーモア文芸社と、その社主岡田誠一も、興味深い存在だ。

【2026年6月追記】
ユーモア文芸社に興味を抱いたことに偽りはないはずですが……。
その興味を置きっぱなしにしたまま今日まで来てしまいました。
鶴丸九州児、岡田誠一、ユーモア文芸社。
今……、今更ながら調べてみても、急場しのぎでは何も判明せず。
かろうじて、国会図書館の書誌情報(他の図書館の蔵書も含む)に、ユーモア文芸社の刊行物として9冊が記載されていました。
書目の重複を整理すると6冊になります。
1『痛快九州男児』(1965)
2『全国懸賞入選キャッチフレーズ・標語・CM・スローガン・モットー全集』(1967)
3『博多の女』(1971)
4『九州男児はつらいよ』(1972)
5『遅かれ早かれ』(1978)
6『新・博多の女』(1979)
書名を辿ると愉快。
本は、読んでいるさなかや読み終わったあとよりも、まだ見ぬ一冊を夢想したり探したりしているときのほうが、愉しいことがありますね。
ユーモア文芸社刊の6冊すべて、著者(2は編著)は同じです。
その名は笑顔九州児。一瞬、脱力します。
えがお・くすお、と読むらしいです。
ほとんどの題名に九州が関わっています。
裏付けは得られておりませんので、(希望的)推測の域にとどまりますが、笑顔九州児=鶴丸九州児、この線は濃厚なのではないかと考えられます。
鶴丸名義の『明朗九州娘』の刊行は昭和36年(1961)。
もし同一人だとすると、その後、何か弾けるような心境の変化があって、『痛快九州男児』(1965)の際に筆名を「笑顔」に変えたのかもしれません。
『明朗九州娘』および、同書巻末の筆歴に記してあった『台湾楽しや』と『子供忠臣蔵』、これらの検索結果は該当なし。
他にも散逸している本がまだありそうです。
そうして肝心の、自分で買い求めた『明朗九州娘』は自室のどこかに埋もれています。
ちいさな、薄い本。どんな隙間にでも埋もれる能力を秘めた本だったと記憶します。
巻末の「刊行の弁」の概略を日記に書きつけていたのがせめてもの光明だったのかどうか、これ以上は何を記しても言い逃れの上塗りになりましょう。
  ◇
『明朗九州娘』を出品した黒沢書店はその後、五反田遊古会を退会されました。
雑本や紙モノを物惜しみせず廉価で放出してくださって、いつ訪れても胸の躍る棚でした。
なお五反田遊古会は2026年5月の開催が第174回。次回は9月25・26日になります。