【2009年10月3日/2022年11月追記】西部古書会館初探訪

【2009年10月3日】
昨日からの雨も一段落したようなので、午後から高円寺の西部古書会館へ。
神保町の古書会館でもらった〈即売展開催予定一覧〉を見ると、神保町、高円寺、五反田の3か所いずれかで、ほとんどの週末に即売展が開かれている。
先週の紙魚之会はほんとうに痛快だったし、その他にもまだまだたくさんの古書展が目白押しで、この開催一覧は、見ているだけでうっとりするような、世界でいちばん甘美なカレンダーだ。今日は西部展の2日目。

西部古書会館も初探訪ではあるけれど、その建物は、いつだったか竹岡書店を探してうろうろしたときにたまたま見かけている。
それがどの辺りだったのか、地図に描けるほどはっきり覚えているわけではないが、身中の古本感覚にはきちんと保存されているのか、駅からは道に迷うこともなく、むしろ通い慣れた足取りさえ見せながら軽やかに到着。すると、道路に面したガレージにも仮置きの平台や棚が設けられていて、いきなりのように古書は誘惑する。
はやる心をなだめつつ、まずは観察。建物の中へは、縁側のような入口から、靴を脱いで入るらしい。踏み台のまわりにはたくさんの靴が散らばっている。ほとんどが黒い紳士靴だ。手荷物はどうするのかと見ていると、屋内に上がってから預ける仕組みのようだ。
仕切りらしい仕切りもなく、外部と内部の空気はつながっていて、開放的というのか庶民的というのか、神保町の東京古書会館とはだいぶ趣きが異なる。

さて、並べられた本に目を移せば、例によって面白そうな新書判の発見によろこびつつ、それから靴を脱いで、スリッパに履き替えて、お邪魔します。
帳場の中には10人ほど、参加するの古本屋の御主人たちなのだろうか、それぞれ分担する会計や梱包を手早くこなしながら、和気藹々と雑談の花が咲く。奥の机の上には、お菓子やお茶や、大きなやかん。
本棚をたどる目をときどき休ませて、向こうから聞こえる雑談に耳を傾ける。
「どこかで長谷川利行の画集が3万7千円で売れたと聞いたけれど、3万円で出品しても売れ残った」という裏話とか、「このあいだの怪獣の本、覚えている?」と出題されて、その方面には疎いらしいひとりの御主人が、ついに「チビラ!」と正解した瞬間の周囲の歓声とか。

のんき、場違ひ、土龍、ひょうたん、阿蘭陀まんざい……。
2時間余、右から左、左から右、立ったりしゃがんだり、本を抱えて動きまわったあとのこころよい疲労。中央線ガード下の都丸書店と球陽書房の分店にも立ち寄って、しめくくりはネルケンの珈琲。

*西部展/西部古書会館
『大人の動物園』園江稔(鱒書房)300円
『した三寸』小林啓善(住吉書房)300円
『はまぐり物語』小林啓善(自由国民社)500円
『のんき哲学』石田一松(大元社)420円
『場違ひ随筆』出隆(霞ヶ関書房)210円
『土龍の日光浴』菅原通濟(日本出版協同)315円
『煙草礼讃』下田将美(市民文庫)200円
『阿蘭陀まんざい』鈴木信太郎(東峰書房)1050円
『風流月旦うわき随筆』武野藤介(あまとりあ社)210円
『ベッド礼讃』ハンス・オール(人文書院)300円
『ブラリひょうたん日記』高田保(要書房)420円
『異国膝栗毛』近藤浩一路(現代ユウモア全集刊行会)420円

石田一松「のんき哲学」表紙
『のんき哲学』石田一松(大元社/昭和21)

【2022年11月追記】
西部古書会館、初探訪です。
当時の西部会館は、靴を脱いで会場へ入るようになっていました。現在は靴のまま入ります。
即売展の帳場から聞こえてくる雑談は、時には古本屋さんの消息だったり、あるいは即売展の運営についてだったり、興味深い話が多くて、つい聞き入ってしまうときもあります。
漫才みたいな掛け合いが演じられることもあり、なかなかの傑作なのです。
この日の西部展で買った本をすべて列記してみました。
『阿蘭陀まんざい』を除いては、いずれも500円以下。200円、300円が中心です。
購入の基準は「何となく面白そう」というただそれだけなのですが、即売展の会場には「面白そう」が次から次へと現われて眼がまわりそうでした。
その後立ち寄った都丸書店、球陽書房分店、どちらも閉店して今はありません。