【2009年11月7日】
昼頃から高円寺の古書会館。今週は古書愛好会。
即売展の会場をひとまわりすれば2時間くらいはあっというまだ。それはそれで良いとしても、もう少し勘を働かせれば、時間の短縮も可能なのではないだろうか。
実際、会場ではそんなふうに眼光鋭く書物群を見極め、疾風のように書架を吹き抜ける先達を見かけることも稀ではない。
そこで少し眼を鍛えようと思い、つまり棚を一瞥して要不要を素早く判断する練習をしてみたのだが、いつのまにか一冊一冊、背表紙の文字をじっくり黙読し、背文字が消えていればいちいち手にとってたしかめている。これでは疾風には程遠い。やはり能率とは無縁の我が身であったのか、抜き出してはまた挿し入れて、指先は古書の埃でざらつくばかり。
和綴じの『別府百景』は、角書きが「風流狂歌」。著者は寒心齊とある。昭和8年の発行。
別府を題材に、こんな書物もあったんだ。発行所の名は柳蛙亭書院なのだが、表紙の絵には、柳の葉と蛙が描いてある。その蛙、飛びついているというよりは、滑り落ちているように見える。
高円寺ガード下の2軒(球陽、都丸)をまわり、中野ブロードウェイへ行く。4階のまんだらけは廉価品の新着も多く、なかなかの穴場だ。今日は創元文庫版の『ブラリひょうたん』が揃っていた。3冊630円。
ついでだから東西線と半蔵門線を乗り継いで連日の神保町。昨日に続いて愛書会を覗いてみると、多少の補充もあるようだ。
市川潔『駅長紳士録』(朝日新聞社)200円もその1冊だが、ただ単に昨日は見落としただけなのかもしれない。別々の棚に『女の体臭』北里俊夫(あまとりあ社)が並んでいて、ひとつは1500円、もうひとつは525円。1000円の差がある。お金を拾ったような気分がするのは、それはあくまでも気分であって、ページとページのあいだから、誰かのへそくりの1000円札がハラリと舞い落ちたわけでは決してないのだが、気分は大事だ。
最後まで迷ったのは『アメリカ女体特急』だった。浪速書房の翻訳ポルノ小説である。すぐ隣りには同じ著者、同じ訳者、同じ版元の『処女特急』もあり、特急ポルノの連作かとも思われたが、照らし合わせてみると内容は同一で、どうやら改題して刊行されたのらしかった。
それにしても『アメリカ女体特急』……どんな特急だろう。買って帰って一読すれば判明するはずだが、さんざん迷って、迷った挙句に買わなかった。
こうやって、何かというとつまずいているかぎりは、いつになっても勘は眠ったままだ。
2009年11月7日 今日の1冊
*古書愛好会/西部古書会館
『風流狂歌別府百景』寒心齊(柳蛙亭書院/昭和8)500円
【2022年11月追記】
即売展の会場を巡る速さは人それぞれ。
じっくり棚に向き合う人もあり、稲妻のような人もあります。
初日朝一番の常連さんともなると、5分10分で会場を一巡してしまう人もいて、しかも収穫はしっかり得ている様子で、その敏腕ぶりにはもう感嘆するしかありません。
何度かは真似をしようと挑戦したこともありますが……。
早足で10分くらいで会場をまわってみると、何ひとつ見つけられない。見つけられないというよりは、結局は、何も目に入っていなかった。
それで最初からやりなおし、ということになるわけです。一朝一夕で身につくようなものではありません。
何度も通っていれば、自然と速くなるようでもあります。熟練というところまでは行かなくても、少しずつ、身体の感覚が古本に馴染んでくるのでしょう。
ただこれにも限度があって、何か未知の1冊にぶつかるたびに、いちいち立ち止まってしまう。こればっかりは当時も今もまったく変わりません。
無茶はせずに自分の歩調で歩くよりほかはありませんね。
ちなみに『アメリカ女体特急』はグレゴリー・ユルソン著、清水正二郎訳。
その後も何度か見かけていますが、購入には至らないまま現在に至ります。
いったいどのような「特急」なのかは謎のままです。