【2010年1月15日】
神保町。巌松堂図書の店頭で『私の時計博物誌』をぱらりとめくり、さてどうしよう。序文を見ると、著者・納よしを氏の叔父は石黒敬七なんていうことが書いてある。じゃあ買ってみよう。
田村書店の店頭では『エマソン論文集』上下(岩波文庫)2冊400円と、百円段ボール箱から『みみずのたはごと』上下/徳富健次郎(岩波文庫)。
東京古書会館の愛書会。
まず『お色気まんが帖』杉浦幸雄(報知新聞社)315円を手にとり、それから、茶ばんだ外函の背表紙に眼を凝らすと、書題の文字はすっかり消え果てているが、その下部に「辰野九紫著」と読み取れる。辰野九紫の名は岡崎武志氏のエッセイで見かけた憶えあり。手にとると函の表には『丸の内五人女・予約千万長者』とあって、アトリヱ社「現代ユーモア小説全集」の第2巻として刊行されている。初見の全集だ。これで「現代ユウモア全集」と「現代ユーモア文学全集」と、合わせて3種のユーモア全集と遭遇した。全集名がいくらか錯綜しているようではあるけれど、他にもまだあるのだろうか。
それから『しゃぼてん夫人』戸塚文子(駿河台書房)300円、『蟹の爪』吉田貫三郎(地平社)300円、『社会戯評1』横山泰三(新潮社一時間文庫)200円、『接吻年代記』椿文哉(近代文庫社)200円、『社会戯評2』横山泰三(新潮社一時間文庫)525円、『もだん浮世風呂』福田えーいち(あまとりあ社)525円、と進む。
『蟹の爪』の吉田貫三郎は未知の人物だが、挿絵画家の随筆集ということなので買ってみた。『社会戯評』の1と2は、別々の出品店の棚から、うまい具合に続けて見つかった。
買わなかった(財布と相談して買えなかった)本は服部亮英の漫画漫文『もぐらもち』4000円。
愛書会を出て、ふたたび古書店街へ。
三省堂書店すずらん通り側入口の小広場にある灰皿で、まずいっぷく。小宮山書店ガレージセールで山川方夫『親しい友人たちへ』(講談社文庫)100円を買ったあとは、アムールショップへ赴くのだが、今日は店内の桃色ではなく店頭の2冊100円棚より『香水のすすめ』堅田道久(ポケット文春)と『ぼくの世界』A・モラヴィア(角川文庫)。
続いてトキヤ書店。トキヤ書店は昨年の秋ごろから全品半額に値下げしている。最新版の「神保町古書店地図」には載らなくなり、いよいよ店仕舞いなのかと惜しんだけれども、それにしても閉店謝恩セールにしては期間が長い。閉店というわけではないのだろうか。
別冊新評『三流劇画の世界』を購入する。唐沢俊一氏の『古本マニア雑学ノート』に、貴重な資料として紹介されていた1冊だ。まあ、資料としては私には猫に小判(猫に失礼か?)ではあるけれど、「三流劇画」というのは、何か郷愁を誘いさえするようなひびきがある。昔々、ひそかな憧憬を寄せていたあの自動販売機の悩ましげな白光が、ちらちらしたりもするのである。
しかしこの『三流劇画の世界』、もともとは3000円の値がついていたはずで、それで購入は見送ってきたわけなのだが、その値札がいつのまにか1000円に貼り替えられていて、しかも今はさらに半額の500円なのだから、ずいぶん太っ腹だ。
神保町交差点から神田古書センターなど、西寄りの店頭棚をいましばらくうろうろ。最後に山陽堂書店の店頭で『東京新誌』、副題「山手線いまとむかし」を買おうと思ったら、財布の中の100円玉が切れている。店頭の100円均一本をお札で支払うのは申し訳ないから、本の表紙が見えないように箱の底のほうにそっと戻し(隠し)、大急ぎで煙草を買いに行ってお札をくずし、舞い戻り、100円玉を帳場に差し出し、無事に入手する。
2010年1月15日 今日の1冊
*愛書会/東京古書会館
『丸の内五人女・予約千万長者』辰野九紫/現代ユーモア小説全集第2巻
(アトリヱ社/昭和10)1500円
今日のもう1冊
*トキヤ書店/神保町
『三流劇画の世界』別冊新評(新評社/1979)500円
【2022年11月追記】
「アムールショップ」の店内は桃一色のエロの園です。しかし店頭に設けられた書棚には一般の文庫本と新書がびっしりと並び、2冊100円。さすがは神保町というような、この均一棚はいつも人気があります。
絶版や品切れの文庫本が平然と並ぶことも珍しくはなく、結構な穴場と言えそうです。
即売展の帰りに必ずこの均一棚を巡回する人もいるのではないでしょうか。
会計は店内で行ないますから、何も知らずにお店の中へ入ると、その濃厚な空間にびっくりするかもしれません。
しかし同じ白山通り沿いにあって、官能を専門に扱っていた「神田書房」と「東西堂書店」が次々と閉店してゆくなかで、今現在も営業を続けるアムールショップは、エロホンの牙城というような存在になってきました。
「トキヤ書店」は、すずらん通りに店舗を構えていた一時期もありましたが、2008年の年末頃に靖国通り北側の一角へと移転。アイドル写真集と共に、こちらもエロホンの品揃えが豊富でした。
マンガや写真誌のほかに、風俗関連の文献も揃えてあり、『三流劇画の世界』もそのなかの1冊です。
いつ頃のことだったのかはっきりしないのですが、すでに閉店して久しいです。全品半額はおそらく最後の日まで続いていたのではないかと思います。
追記を書いているうちに急に思い出したのですけれど、トキヤ書店には黒猫がいて、時折、帳場の上で寝そべっていたり、店内をパトロールしていたりしました。
御主人が何と呼んでいたのか、黒猫の名前は判りません。