【2010年12月17日/2023年2月追記】五反田古書展で山名文夫『広告のレイアウト』

【2010年12月17日】
南部古書会館、五反田古書展。
1階。
萩原良彦『出発進行!』(双葉新書)200円。風流車掌こと萩原氏の珍談集もこれで3冊目になった。
上林暁『武蔵野』(現代教養文庫)200円。見つかりそうでなかなか見つからなかった1冊とやっと対面。
初見の雑誌『漫画劇場』昭和38年7月創刊号(普通社)に、やなせたかしの漫画作品を見つける。200円。
会社の社長さんなのだろうか、いかにも仕立ての上等な背広を着こなした御老体が何かの本に手を伸ばす。そうすると、その脇に控えているのは秘書ということになるのだろう。その秘書さんがすかさず「左右田喜一郎は全集を持っています」と忠言していた。自分の持っている本を把握することすら難儀この上ないというのに、他人の蔵書目録を頭に叩き込んであるのだから、仕事とはいえ秘書はすごいや。

上林暁「武蔵野」表紙
『武蔵野』上林暁(現代教養文庫/1962)

2階。
今回の五反田古書展目録で気になっていたのは、遠藤書店が出品した岩佐東一郎『茶烟亭燈逸伝』7000円と、文雅新泉堂出品の『柳瀬正夢画集』8000円。
気楽に買える値段ではないが、場合によっては気張る覚悟で両店の棚にあたってみるが、事前の注文が入ったようで影も形も無し。
その代わり、靖文堂書店の棚に、山名文夫『広告のレイアウト』(ダヴィッド社)5000円を発見してしまい心が揺れる。
一旦は元に戻しておいて、さて、『広告のレイアウト』に的を絞ってスッキリと買ってしまうか、それとも今手に持っている『随筆ひざ小僧』秋山安三郎(雪華社)200円と『泣き笑いスガモ日記』藤木二三男(朝日文化手帖)300円という倹約な路線を選ぶか。
思案しながら棚のあいだを何度も行ったり来たり。
こうやってもやもやしているうちに、誰かが『広告のレイアウト』を持って行ってしまったとしたら、却ってそっちのほうがスッキリするのかもしれない。
しかしこういうときは、いつまでも買い手がつかずにそこにあって、私のもやもやを見透かしている。
『ひざ小僧』と『スガモ日記』に決まりかけて、最後になって『広告のレイアウト』も一緒に抱えた。
買ってしまえば、最初からこうなるように決まっていたのだと、憑き物が落ちたようにきょとんとなるのだが。
それならば、十銭文庫『モダン語辞典』2000円も買ってしまえばよかったじゃないかと思うには思うのだけれど、そこまでは突き抜けられない小心者である。
階段下の段ボール箱の中に、今回の五反田展の余ったポスターが置いてあってご自由にお持ち帰りくださいとのこと。うれしいオマケを頂く。

山名文夫「広告のレイアウト」表紙
『広告のレイアウト』山名文夫(ダヴィッド社/1962)

神保町。
巌松堂図書の店内は、とうとう本も本棚もすべて撤去されて、がらんとした空き部屋だった。
床の上には白くぼんやりと、もう誰も使わない地図のように、本棚を置いていた跡が残っていた。
田村書店の店頭台より『富永太郎展』図録(松濤美術館)500円、購入。
東京古書会館では新興展。
玉石混淆の和本の山を、なるべく石のほうだけ冷やかしてみる。
それにしたって、このうねうねした文字は珍紛漢紛だが、こうして和本の埃に少しずつでも馴染んでおけば、あるいは何かの縁が生まれるかもしれない(?)。
洋装本、つまり普通の本の中では、長崎抜天『絵本明治風物誌』に目が留まる。
2500円は無茶ではないし、豊富な挿絵にも魅力があったが、二重函の頑丈な造りに恐れをなす。もう少し軽くて、もう少し小さければ……。
何も買わず、今回の目録だけもらって退場する。

ミロンガで珈琲を飲んだあとは、湘南堂書店、荒魂書店と、エロ伝いに漂流し、トキヤ書店へと漂着し、『ごっくん』(スポーツアイ)2001年7月号250円、2002年3月号200円、『GAL’Sシャワー』(大陸書房)1997年6月号250円、安雑誌をちんまりと拾い集めて劣情を宥めにかかる。
アムールショップの店頭棚より団鬼六『蛇のみちは』(幻冬舎アウトロー文庫)100円。

家に戻ったところ、トキヤ書店で購入の『ごっくん』2002年3月号は2冊目だった。もう持っているエロ本を持って帰ってきている。

【2023年2月追記】山名文夫の著書
山名文夫【やまな・あやお、1897(明治30)-1980(昭和55)】はイラストレーター、グラフィックデザイナー。広島市に生まれました。
ここで改めて言うまでもなく、デザイン界の巨匠です。
資生堂の広告デザイン、紀ノ国屋のショッピングバッグ、また新潮文庫の葡萄のマークなど、誰もがどこかしらで目にしたことのある作品でしょう。
雑誌の挿絵や、書籍の装幀も数多く手がけています。
古本巡りをしていると、思わぬところで山名文夫装幀の本に出くわすことがあります。

生前に刊行された著書は以下のとおりです。
『女性のカット』山六郎との共著(プラトン社/1928)
『カフェ・バー・喫茶店広告図案集』(誠文堂/1930)
『花の図案集』(衣裳研究所/1948)
『Yamana-Ayao装画集』(美術出版社/1953)
『広告のレイアウト』(ダヴィッド社/1962)
『山名文夫新聞広告作品集』(ダヴィッド社/1963)
『漢字の話』(日本デザイナー学院出版部/1969)
『BAALBEK』(私家版/1970)
『山名文夫イラストレーション作品集』(私家版/1971)
『唐草幻像』(私家版/1973)
『体験的デザイン史』(ダヴィッド社/1976)*新装復刻版(誠文堂新光社/2015)
『PROFILE』(私家版/1977)

このなかでもっとも手に入り易いのは、新装復刻版の『体験的デザイン史』です。
現在、新刊(定価3300円)では在庫切れになっているかもしれませんが、古本では折に触れて見かけます。じっくり探せば、2000円以下でも買えると思います。
次いで『体験的デザイン史』の元版や『広告のレイアウト』が、割合によく見かける書目と言えるでしょう。
どちらも5000円前後の値段ではないかと思います。
しかしその他の著書となると、一気に入手が困難になってきます。
見かける機会が滅多にありませんし、たまに見かけたと思うと、価格は数万円、時には10万円を超えることも。
潤沢な資金があれば話は別になりますけれども、折角発見しても、そこから先はどうすることも出来ず、溜息と共に眺めるだけが精一杯です。
私家版の作品集に至っては、今まで現物を見かけたことすらありません。
気軽に買えない古書価はまったく残念ですが、それだけ稀少であり、なおかつ人気があるということの証しなのでしょう。
時代を経ていよいよ新しく目に映るようなデザインは、今なお多くの人を魅了するはずです。

山名文夫の歿後には、アイデア別冊『山名文夫作品集』(誠文堂新光社/1981)、『山名文夫生誕百年記念作品集』(資生堂/1998)、『山名文夫のグラフィックデザイン』(ピエ・ブックス/2004)、『山名文夫 AYAO YAMANA,1897-1980』(トランスアート/2004)など幾冊かの作品集が刊行されています。
また美術展の図録では、代表的なものとして『山名文夫展』(目黒区美術館/1998)が挙げられるでしょう。