【2010年12月19日/2023年3月追記】新宿展で『髙良眞木画集』

【2010年12月19日】
東京古書会館、新宿展。
今回の目録に『内藤ルネ展』図録が7000円で出品されていた。手の出せる値段ではないが、それよりも、このあいだの早稲田青空古本祭では2500円で見かけていたのにどうして買っておかなかったのかと、7000という数字を見てあわてて悔やんだのだとしても、もう遅い。
入場早々、畑耕一『戯場壁談義』(奎運社)1000円を何となく手にとる。
伊藤文学の分厚いコラム集、鈴木翁二の『A遠』、このあたりはあれこれ言わずに買っておきたいところだが、あれこれ言わざるを得ない事情というものもある。
北尾鐐之助『風景を切る』が500円か……(昨年、1000円で購入)。
最近、あまとりあ社の新書判は影をひそめているなあ。粋筆の新書判がごっそり並ぶ絶景を夢想しながら傍観がつづき、最後の棚に『髙良眞木画集』(求龍堂)2000円。洲之内徹『気まぐれ美術館』で見覚えのある画家、と、僅かその程度にしか手掛かりはないのだが、こうして何かが反応してくれたのだから、手掛かりはそれだけで充分なのだろう。奥付を見ると、つい3か月前の発行だった。
『戯場壁談義』と共に新宿展の購入は2冊。

日曜日の神保町はササッと通り過ぎて、次は中野に移るつもりで九段下へと向かう。
矢口書店まで来ると気が変わった。なんとなく身体がだるく、ブロードウェイのあの人いきれはいくらか億劫だ。
ミロンガに引き返して珈琲。古書会館でもらった京王歳末古書市の目録をめくる。
さっき買ったばかりの『戯場壁談義』が載っていて、裸本で2000円(さっきは函付で1000円だった)。
中村正常『隕石の寝床』3500円、ユウモア全集『漫談レヴィウ』は2店舗が出品していて8000円と2500円。
古書価は難しい。
各店による評価の差、あるいは状態の良し悪しなど、簡単に値段が上下する要素がありながら、それでもやっぱり相場というものが、ないようできちんとあるのだろう。
素人が古書相場に戸惑い始めると、古本を買えなくなってしまう。
5000円くらいは、ちょっとした誤差なのだ。そのときその値段でそれを買うかどうか、それを決めるのは私ではなく、財布ではなく(ないとは言い切れぬが)、すべて決めるのは古本の天神様なのだ。
……と、そう割り切ろうとして割り切れないのが凡人の泣き所、損した得したの煩悩からは永遠に逃れられそうにないのだが。
ミロンガの茶色い部屋でぼんやりしていると、どうしてもまた古本を買いたくなる。
吉祥寺へ行くことにする。古本センターで、前々から気になっていた『哄笑極楽』吉岡鳥平(現代ユウモア全集刊行会)2500円を買ってしまう。
藤井書店の店頭絵本棚から酒井駒子『金曜日の砂糖ちゃん』(偕成社)100円。

吉岡鳥平「哄笑極楽」表紙
『哄笑極楽』吉岡鳥平/現代ユウモア全集第20巻
(現代ユウモア全集刊行会/昭和5)

【2023年3月追記】髙良眞木
髙良眞木【こうら・まき、1930(昭和5)-2011(平成23)】
画家の髙良眞木は、東京府豊多摩郡落合町(現在の新宿区下落合)に生まれました。
妹は詩人の高良留美子【1932(昭和7)-2021(令和3)】です。
1971年、銀座の現代画廊で初めての個展を開きました。
絵画作品のほか、妹である高良留美子の詩集『生徒と鳥』(書肆ユリイカ/1958)、生活を共にした浜田糸衛の童話『野に帰ったバラ』(理論社/1960)、渡辺茂男『ふしぎなおはなし』(古今社/2003)など、表紙画や挿絵を数多く手がけています。中公文庫の大原富枝の著作でもカバー画を担当しました。
洲之内徹の著書では、『絵のなかの散歩』(新潮社/1973)、『気まぐれ美術館』(新潮社/1978)、『芸術随想おいてけぼり』(世界文化社/2004)、以上の3冊に髙良眞木についての文章が載っています。『絵のなかの散歩』と『気まぐれ美術館』は新潮文庫にも収録されています。
現代画廊などの個展に合わせてカタログが発行されていますが、出版社からの作品集は求龍堂の『髙良眞木画集』が唯一となります。
画集の巻頭に、画家自身の言葉があります。
若いころは「文章かき」になるつもりだったという髙良眞木ですが、すらすらと嘘ばかり書いてしまう自分に嫌気がさして、絵のほうへと転じたようです。

《一つ線を引くと、ウソの線になる。やり直さなければならない。ごまかして描き進むことができない。線も色も思うようにはならない。私が文章を書くときの器用さを、絵を描く上で持っていない、ということは、私にとって、たいへん大事なことだった》
(髙良眞木「絵について」、初出『美術ジャーナル』1973年1月号。画集では抜粋して再録)

画集刊行の翌年、髙良眞木は80歳で永眠されました。
2020年には、画家の(まだ画家になる前の)日記『戦争期少女日記』が教育史料出版会より刊行されています(高良留美子編)。