【2010年2月19日/2022年12月追記】書窓展の『屁』と、@ワンダーの新書判

【2010年2月19日】
お昼前に神保町。東京古書会館の書窓展へ。
200円の生田春月を手にとり(『新らしき詩の作り方』新潮社)、それからしばらくは傍観がつづいた後で、中盤、奥野他見男『春の悶え』(日本書院)800円を見つける。
さらに『屁』を見つける。著者は福富織部ふくとみおりべ。いつだったかの即売展で見かけたときは、綴じ糸がほどけて本体はばらばらで、表紙も欠損していたので、手が出せなかった。
このあいだ藤井書店で買った『おなら考』をざっと読んでみたところ、この珍書『屁』のことが詳しく紹介されていて、それで改めて『屁』に魅力を覚え、ばらばらでも表紙がなくてもよいから買っておけばよかったと残念だった。
けれども、今日ふたたび出遭った『屁』は、函付で、本体もしっかりしている。1500円で、うれしく購入する。
終盤に『日本島美女系図』佐藤垢石(朋文社)300円を付け足して、計4冊。

古書会館の荷捌場脇に置かれた灰皿を借りて一服する。
首から店名の記された入館証を提げた人が2、3人、建物の中から現われてしばし休憩。
「寒さとオリンピックでお客さんが一人も来ません!」
女性の店主さんが自店の苦境を報告しているのだが、なぜだかその声はつやつやとして張りがある。
お客さんが来なければ困るのだろうけれど、誰も訪れない午後のお店番は、それはそれで心寛ぐものなのかもしれないと、古書店の閑寂を空想してみる。

神田古書センター、ブンケン・ロック・サイド、山陽堂書店など、神保町交差点から西側の店頭を覗き、西端に近い@ワンダーでは久しぶりに店内へ。
店内いずれも、きちんとした値付けであることは判っているので、最近は入店を遠慮していたのだが、2階へ上がってみると、粋筆など昔の新書判がたくさん入荷されている。売価はどうだろう、かえって目の毒かな?
試しに矢野目源一を手にとってみると、315円。福田蘭童は420円。おや、これは。その他をあたってみても、いずれも315円か420円じゃないか。
『お気に召した話』矢野目源一(美和書院)315円
『随筆検診台』小谷剛(鱒書房)420円
『蝸牛道中記』福田蘭童(創藝社)420円
『はだか夜話』仲沢清太郎(近代社)315円
『秘密の文学』丸木砂土(住吉書店)420円
『女の名店街』美川徳之助(第一書房ナイトブックス)420円
『風流膝栗毛』高橋晋(あまとりあ社)315円
『おとこ放談』南部僑一郎(あまとりあ社)315円
『鶏小屋の花嫁』丸木砂土(駿河台選書)420円
『不老長寿』酒井谷平(日本温泉協会)315円
昂奮のうちに購入する。

2010年2月19日 今日の1冊
*書窓展/東京古書会館
『屁』福富織部(成光館出版部/昭和2)1500円

福富織部「屁」表紙

今日の新書判の1冊
*@ワンダー/神保町
『お気に召した話』矢野目源一(美和書院/1956)315円

矢野目源一「お気に召した話」表紙

【2022年12月追記】
東京古書会館の荷捌場の隅には喫煙所があって、即売展を見終わったあとに一服ふかすのは、ささやかな愉しみでありました。
古本屋の店主さんたちが灰皿のまわりに集まって来て、煙草を吸いながら、古本の話や、古本とは関係のない話を交わし合っています。
その雑談を、聞くとはなしに聞くということもまた「ちょっといっぷく」の愉しいオマケでした。
この日耳にしたのは、寒さとオリンピックに対する、店主さんの苦情(?)です。2010年2月はバンクーバーオリンピックが行なわれていました。
2020年頃だったでしょうか、荷捌場の灰皿は撤去されて、今は禁煙です。

室町時代に成立した御伽草子『福富草紙』に、放屁の芸で出世したという「福富織部(ふくとみのおりべ)」が登場します。
『屁』の著者名、福富織部は、どうやらそこから拝借しているらしいのですが、いったいどのような人物だったのかは判りません。
福富織部は『屁』のほかに『ふんどし』『へそ』の著書があり、それらを合わせて三部作となっているようです。奇特な著述家だったのでしょうか。
『屁』『褌』『臍』、いずれも即売展では時折見かける本です。
しかし私は『屁』だけで満足してしまったのか、残りの2冊は購入しないまま今に至ります。
せっかく手を出したのだから、最後まで貫き通して、もっと深く追究するべきなのだ、と思うことは思うのですが。

昭和30年代から40年代頃にかけての新書判は何とも魅力的です。
粋筆漫筆と呼ばれる、肩の凝らない随筆集が数多く出版されていて、それらのタイトルを見るだけでも、どんどん全身の力が抜けてゆきますね。
この日のように、10冊まとめて買ったとなると、温泉に入ったような効能があるのでは(?)。
当時の「@ワンダー」は1階と2階での営業でしたが、その後、2階を改装してカフェが併設されたり、さらに最近は3階にも売り場を拡張。
さらにさらに、2023年2月頃には神保町の別の場所に新店舗を開店する予定もあるそうで、とどまるところを知らない盛業ぶりです。
しかし@ワンダーと言えば、何と言っても路地に沿った外棚が名物でしょう。
店舗の外壁に設えた棚に、均一価格というわけではないのですが、廉価本がずらりと並んで壮観です。