【2010年2月6日/2022年12月追記】東京古書会館の和洋会と北風神保町

【2010年2月6日】
昼から神保町。北風が冷たい。
田村書店の100円段ボール箱より『英国の近代文学』吉田健一(岩波文庫)。小宮山書店ガレージセールでは現代歌人文庫の『清原日出夫歌集』『浜田康敬歌集』、現代詩文庫『衣更着信詩集』、3冊500円。

東京古書会館の和洋会を初探訪。
名称からして和書と洋書が半々くらいかと思ったら、案外と洋書は少なく、むしろ和綴じの典籍が目立った。表紙に巻いた出品店の帯紙には「天保」や「寛政」などという表記も見られ、日本の本ではあるけれど、私にとっては洋書のような、別の世界の存在だ。

雑誌『漫筆年鑑』を手にしたきり、なかなか後が続かない。冷静になって財布の現状を慮るに、これは却って好都合なのではないだろうか。何もないということを確かめればそれでよい。いくらか倒錯した気分で棚をめぐる。
まわりを見れば、山のように本を抱えているお客さんはほどんど見られず、まだ手ぶらの人も多い。
2日目の午後ということもあって、わずかな隙をうかがうような殺気もなく、会場はすっかり凪いでいる。

即売展で雑誌を1冊だけというのもたまには愉快だろうと決まりかかっていたのだが、ふと心変わりがして、先程いちどは戻した『浅草横丁』野一色幹夫(潮流社)500円と、『真珠と鉛筆』安西均(学風書院)500円を買うことにする。
それで『漫筆年鑑』は元の棚に返しにゆく。300円なんだから一緒に買えばよかろうと、そのときも、今も、思うのだが、何となくそうしてしまった。
そうこうしていると『人間大百科』が目の端にとまり、著者は清水正二郎。いつぞやの『アメリカ女体特急』の訳者だ。『人間大百科』は、清水氏の世界漁色記なのだとか。100円だったので購入する。

外へ出ると北風は一段と強まっており、路地の隅々にまで吹き荒れている。店頭に積んだ雑誌の折りたたみページが、風にばたばたとはだけている。
アムールショップの店頭棚からバルザック『谷間の百合』ほか文庫本6冊で200円。神田古書センターの店頭では『酒のさかなになる話』小田のぶよし(学風書院)105円。たとえどんなに寒くても、そこに古本さえあれば路上をさまようだろう、でもやっぱり寒いから、最後はビルの中の神保町古書モールと三省堂古書館をぬくぬくと歩く。

2010年2月6日 今日の1冊
*神田古書センター店頭販売/神保町
『酒のさかなになる話』小田のぶよし(学風書院/1959)105円

小田のぶよし「酒のさかなになる話」表紙

【2022年12月追記】
「田村書店」は近代文学と洋書が中心の古本屋さん。
言わずと知れた名店ですが、今年2月頃からは金土日のみの営業となり、平日はオヤスミです。
また営業日でも、13時から14時までは休憩時間ということで一時休業となります。
店先の廉価台と100円均一段ボール箱は、良書がどんどん放出されるという感じで、神保町名物と言えるような、毎日でも通いたくなるほどの店頭です(実際、毎日通う人はいると思います)。
ただ、営業日の縮小にともない、以前に比べると放出される本の量は減ったようです。

田村書店の隣りが「小宮山書店」。美術書が豊富です。
店舗脇の横丁から裏手にまわるとガレージセールの会場があります。
自動車が2、3台は入りそうなガレージですから、結構な広さがあり、ここだけで、独立した1軒の古本屋とも言えるでしょう。
ほとんどの本は3冊まで500円。1冊でも3冊でも500円です。
当然、3冊買いたいわけですが、2冊までは手にとって、あと1冊がどうしても見つからないこともあり、2冊500円で妥協するかどうか、悩ましいところであります。
たしかガレージセールは、週末の金土日の開催だったと思うのですが、きちんと確かめてはおらず、正確な営業日を把握していません。すみません。
通りかかったらガレージセールをやっている、それでは寄って行こう、と、いつもそんな按配です。

東京古書会館の「和洋会古書展」は年6回、奇数月に開催される即売展です。
「和書」は日本の本。「洋書」は外国の本。
「和本」と言えば、和綴じの本。「洋本」は洋式の製本(現在見られる本の形)。
少々ややこしいのですが、会場などに貼り出される和洋会のポスターには「和本・洋本・稀書・珍籍……」と記されていますから、どうやら、「和書」と「洋書」ではなく、「和本」と「洋本」の会、という意味合いのようです。
なお『人間大百科』や『アメリカ女体特急』の清水正二郎は、直木賞作家「胡桃沢耕史(くるみざわこうし)」氏の本名であるということを後々になって知りました。

冬の店頭巡回は、快適とは対極の一歩一歩であります。
北風の吹く日はなおさらに、散歩というよりは苦行の観さえ呈します。
寒空の下で何も見つからないまま、いったい私は何をやっているのだろうと、思わずにはいられません。
しかしそこに古本があるのだから、歩かないわけにはゆかないのです。
ごく稀に、100円均一棚から何か掘出し物を収穫すれば、寒さなどは感じなくなります。

この日、暖房を求めて訪れた「神保町古書モール」と「三省堂古書館」は、両店ともすでに閉店してしまって現在はありません。