【2010年3月23日】
新橋SL広場の古本まつりに向かうが、途中、小雨がぱらつき始める。
屋外での開催だから、この雨は恨めしい。
気を揉みながら新橋駅を降りると、会場にはテントが設営されており、少々の雨ならば決行するようだった。
通り掛かりのサラリーマンがテントの下で雨宿り。本棚ではなく、空を見上げている。
そのうち薄日が射してきたのでやれやれと安堵したのもつかのま、今度は雨ならぬみぞれが勢いよく降り始めた。
季節外れの到来物に、ツワモノ揃い(?)の古本屋御主人たちも、驚きの声をあげながら雨除けのビニールシートをかぶせてまわる。
広場に面したビル壁面の電光掲示板は「5℃」を表示していた。寒いわけだ。
せめて1冊だけでもと、かろうじて飛鳥書房の棚から『地上楽園』式場隆三郎(山雅房)300円を購入する、こんな日に「楽園」とは……。
蒸気機関車C11の傍らの灰皿で煙草をふかす。これじゃあ出直しだと観念したつもりだったのだが、なお未練がましく棚の前に突っ立っていたら、びゅわッと風が吹いて、天幕の屋根に溜まっていた雨水が滝となって降りかかる。
テントの中からお店番の若い男性と女性が飛び出してきて、ずぶぬれになった私の背中を代わるがわるに拭いてくださる。こんなときにこんなところに立っているほうがどじなのだし、余計な仕事を増やしてしまって申し訳ありません。
たまにはそういう厄日もあるという、今日がその厄日の古本巡礼なんだろう。
鞄の中も水浸しになったが、さっき買った『地上楽園』はビニール袋に入れてもらっていたので、ほとんど濡れずに済んだのは運が良かった。
東京駅に移動して、八重洲地下街の2軒の古本屋、八重洲古書館とR.S.Booksを初探訪。
地下街は乾いていて暖かかった。しかし古本の買物はナシ。
等伯展はまだやっているのだろうかと上野へ行ってみるが、等伯展はもう終わっていた。
上野古書のまちに立ち寄るが、買物ナシ。
中野ブロードウェイに漂着する。
まんだらけにて、背表紙の汚れた新書判に顔を近づけると、書題は判読できないが、著者名に石黒敬七の文字。あまとりあ社の『おいろけ随筆』だった。210円。
このささやかな発見は今日の徒労を慰めた。
『みちのく酒の旅』山本祥一朗(サンデー新書)315円、『催眠歌』福原清詩集(新詩叢書)840円を合わせて購入する。
ささま書店に寄る頃にはすっかり日も暮れて、雨はいつのまにか上がっている。冷たい風の向こうにはくっきりと月が輝く。
店頭105円均一棚から『めんどり歌いなさい』牧羊子(文春文庫)と『画室のひとりごと』中川紀元(生活社日本叢書)。
店内では『本の話』315円と『忘れられた島』210円、岩波写真文庫を2冊。
2010年3月30日 今日の1冊
*まんだらけ/中野ブロードウェイ
『おいろけ随筆』石黒敬七(あまとりあ社/1955)210円
【2022年12月追記】
街頭インタビューでお馴染み、新橋駅前のSL広場で行なわれる「新橋古本市(新橋古本まつり)」は1年に4回。3、5、9、11月に開催されます。
コロナ禍により2020年3月からずっと中止が続いていましたが、2022年3月に再開されました。
テントを設営しますので、荒天にならないかぎりは雨の日も営業します。
しかし屋外会場の古本市は、できるならば晴れた日に訪れたいものです。
八重洲地下街の2軒の古本屋、「八重洲古書館」と「R.S.Books」は、両店とも、目白の「金井書店」が経営していました。
八重洲古書館は種々雑多な古本があふれていて、いわゆる町の古本屋さんの趣き。
R.S.Booksのほうは、洗練されたセレクトショップの雰囲気。
それぞれに特徴を打ち出していましたが、「古書館」は2014年7月に、「R.S.」は翌2015年3月に、相次いで閉店となり、八重洲地下街から古本屋さんは無くなってしまいました。
本店である目白の金井書店は、現在も店舗営業を行なっています。中二階の狭小な店内には、天井まで本がぎっしり詰まっています。
また金井書店は、新宿サブナードの古書市「古本浪漫洲」を主催しています。
石黒敬七【いしぐろけいしち、1897-1974】は、柔道家、随筆作家、またNHKラジオ「とんち教室」に出演して人気を博すなど、さまざまな顔を持っていたようです。
残念ながら私は「とんち教室」の世代ではなく、石黒旦那と呼ばれていた氏の声を聞いたことはありません。柔道家としての石黒敬七についてもまったく知りません。
勉強不足が露呈しますが、この日買った『おいろけ随筆』のほかに『蚤の市』『旦那の遠めがね』『旦那の珍談』『にやり交遊録』など、なんだか面白そうな本を書く人としてのみ認識しています。