【2010年3月5日】
見つかっても見つからなくても、これから即売展に行くという日の朝は、とても美しい。
高円寺、10時着。西部古書会館の西部展。
ちょんと肩をつつかれて「あの本を取ってくれませんか」と頼まれる。棚のいちばん上にある本に手が届かないようなので、指差された『稲と鉄』を取って差しあげる。即売展の会場で誰かに話しかけられるのは初めてだった。
『花の文化史』春山行夫(中央公論社)210円、『住生活』今和次郎(乾元叢書)300円、『スタイル画教室』長沢節(美術出版社)525円、3冊を買う。
都丸支店を覗き、まだ昼前なので、このあとは中央線で御茶ノ水まで直行する予定を新宿で折り曲げて、高田馬場BIGBOXの古書感謝市へ。
『千零夜』峰岸義一(粋古堂)350円と『放送ばなし』和田信賢(青山商店出版部)300円。
画家の峰岸義一、アナウンサーの和田信賢、どちらも斯界では著名人だと思われるが私は知らなかった。しかしこの2冊は軽快な寄道だった。
東西線と半蔵門線を乗り継いで神保町。
田村書店の段ボールを覗いてから、東京古書会館の紙魚之会。
昨秋、初めて古書会館を訪れた日がこの紙魚之会だったから、やっぱり験を担いでしまうのか、壁面の棚から左回りに、初めての日と同じ順番で歩く。
会場の棚を見て歩く歩き方は人それぞれだから、右から見る人もいるし、左からの人もいる。向こうからと、こちらからと、棚の途中でぶつかったときには、あまり頑張らずに、身をかわして相手を先に通してあげるほうが穏便だ。
そうやって通路をゆずると、手刀を切るようにして会釈を返してくれる御仁がある。そういう先輩の仕草は見習いたいと思う。
何が何でも棚の前から動かない不動様には近付かないほうが賢明なのだろう。ずんずんと除雪車のように人を掻き分けて我が道を猛進する先輩はその勢いで早く家にお帰り頂きたい。
ささま書店でいつも気になっていた東郷青児『明るい女』(コバルト叢書)を見つけた。315円、ささま書店の半値以下なのでうれしい発見。背表紙が少し破れているが、もちろんそれは構わない。
『三百六十五日毎日のお惣菜』桜井ちか子(忠誠堂)200円は、大正時代の料理書。一世紀前の毎日の食卓はいったいどんな献立だったのかしらん。
古書会館の階段の踊り場には、都内各所の古本市のポスターが貼り出してあって重宝。今月は池袋、来月は新橋、手帖にメモする。
外はぽかぽかで半袖姿の人もいる。陽気にのぼせて、春情のエロホンになびいてもおかしくなかったはずだが、先月から粋筆新書判を買い続けている@ワンダーへ行き、『わいだん読本』武野藤介(第二書房ナイトブックス)315円、『二人の夜のために』草田一夫(あまとりあ社)420円を慎ましく(?)買う。
2010年3月5日 今日の1冊
*@ワンダー/神保町
『二人の夜のために』草田一夫(あまとりあ社/1962)420円
【2022年12月追記】
「あの本を取ってくれませんか」
話しかけられた、というのは大げさなようでありますが、誰ひとり知人のいない会場で声をかけられると、やっぱりびっくりします。
そうして、まったく興味がなかったはずの『稲と鉄』が、なんだか気になってくるのは不思議です。
西部古書会館の「西部展」は1年5回の開催。目録発行あり。
東京古書会館「紙魚之会」は3月と8月の年2回。以前は目録がありましたが現在は発行していません。
高田馬場「BIGBOX古書感謝市」はすでに終了して現在の開催はありません。BIGBOX玄関先の小規模な会場ながら、見どころの多い古書市でした。