【2010年4月16日】
午後、五反田へ。本の散歩展。
午前中は小雨がぱらついていたが、五反田に着くころには止む。
駅から南部古書会館へ向かう道、私のすぐ前を歩く老紳士も、きっと即売展に行くのだろう。
地味な服装、黒い肩掛け鞄、やや痩身、やや猫背。一目でそれと判る。古書の匂いがする。
あそこの曲がり角を左に曲がって……、やっぱりそうだった。
「おや久しぶり、死んだのかと思ったよ」
「それが、まだ生きているんだ」
棚を整理しているご主人と、そんな掛け合いをしている。
猫背の老紳士は、しばらく病気を患っていたのかもしれない。
どんな感慨で、しばらくぶりの即売展を訪れるのだろう。
1階ガレージ会場で『石になったものの記録』鹿間時夫(角川新書)100円、『新聞裁判』ポール・ホームズ(ハヤカワ・ライブラリ)200円、『おんなの絵日記』寺田竹雄(オリオン社)300円、『3ドルアメリカ旅行』富田英三(現代社)100円。
2階では『好色屋繁盛記』柳橋克三(富士ブック)300円、これがちょっと面白い発見で、それから『愛慾怪盗伝』三谷祥介(あまとりあ社)500円、『友よ』アーノルド・ウェスカー(晶文社)630円。3冊購入する。
会計のとき、釣銭を受け取りながら「有難うございます」と言ったら、「こちらこそ、有難うございます」と返答があって、その「こちらこそ」の口ぶりが何だがひょうきんで、心が和んだ。
何かの写真で見た顔と同じようだったから、たぶん月の輪書林の高橋徹氏だったのだろう。
また小雨が降り出していて、路上の平台にはブルーシートが被せてあった。
2010年4月16日 今日の1冊
*本の散歩展/南部古書会館
『好色屋繁盛記』柳橋克三(富士ブック/昭和44)300円
【2022年12月追記】
『好色屋繁盛記』が、どんなふうに「ちょっと面白い発見」だったのか、確かめたいところではあるのですけれど、『好色屋繁盛記』はどこかに埋もれてしまって確かめようがありません。
上掲の書影は購入当時にスキャンしておいたものです。
題名の「好色」の文字には、ルビというのか「エロ」の文字がかぶせてあります。
柳橋克三氏には『今晩はホン屋です―大日本Yホン物語―』という著書もあり。
「こちらこそ」の声の主は、「月の輪書林」の高橋徹氏だったようです。
月の輪書林は、店舗営業は行なっていませんが、自家発行の『月の輪書林古書目録』は、目録の「名著」として定評があります。
単なる販売目録の域を超えた、何度でも読み返したくなるような古書目録です。
過去に発行されたバックナンバーには結構な古書価がつきます。