【2010年4月21日/2022年12月追記】池袋西口公園古本まつりとサンシャインシティの古本掘出し市

【2010年4月21日】
雨の予報はくつがえって晴れとなる。当たってほしけりゃ外れるし、外れてほしいと当たっちまうし、アタリとハズレが裏目に出るのが天気予報の常だけれど、今日は願いどおりに外れてくれた。

池袋西口公園は古本テントが勢揃いして壮観。
チラシによれば50万冊大集合とのことだ。
しかしたくさんあればたくさん見つかるかというとそう単純でもなくて、最初の1冊がなかなか見つからない。
焦っても仕方ないのでのんびりテントを周遊するつもりが、いつのまにか早足になっている。
半分ほどまわったあたりで『うまいもの歳時記』大久保恒次(朝日新聞社)300円を購入、ようやくひと息つく。
気温はどんどん上昇して上着を脱いでもまだ暑い。白い背表紙に反射する日光が眩しい。
『カツドウヤ水路』山本嘉次郎(筑摩書房)300円、『歴史と文芸の間』植村清二(中公文庫)150円と進み、陽気と日差しと、頭もおおよそくらくらで、白昼夢を遊ぶように漂っていると『ないものはなにもない』という半ばヤケッパチな題名が誘う。著者、カール・スティッツァーとはいかなる人物だろうと、巻末の訳者あとがきを読んでみる。スティッツァーについて「私の知るところは、なにもない」などと、書名に引っ掛けてあっさり投げ出している。ほんとうに知らないのかただの洒落なのか余計に混乱する。何だか判らないが買う。500円。

西口公園をあとにして、今度は駅をくぐって東口。
サンシャインシティ地下広場、アルパ広小路の古本掘出し市へ。
4月1日から5月9日までの1か月余という、古本市には珍しく長期間の開催だ。

『銀座百話』篠田鉱造(角川選書)525円、『ビアドのローマの女たち』アントニイ・バージェス(サンリオSF文庫)210円、『人国記・新人国記』(岩波文庫)150円、『嘘つき』ヘンリー・ジェイムズ(福武文庫)105円、『334』トマス・M・ディッシュ(サンリオSF文庫)525円、『詩壇人国記』渋谷栄一(交蘭社)525円、『五ツの海』徳川夢声(興亞書局)840円。今日は西口よりも東口のほうが軽快だった。

場所柄ということがあるのか、会場には妙齢の乙女の姿もちらほら。
同じ本に同時に伸ばした指先が軽く触れてそこからロマンスが……、そんな夢を、淋しい古本バガボンドはいちどならず思い描くのかどうか、描いたとしても夢はあくまで夢である。現代のほとんどすべての乙女は、徳川夢声の本に手を伸ばそうとはしないだろう。
渋谷栄一という名前はどこかで見かえたような覚えがある。どこだったか。

2010年4月21日 今日の1冊
*古本掘出し市/サンシャインシティ・アルパ広小路
『五ツの海』徳川夢声(興亞書局/昭和17)840円

徳川夢声「五ツの海」表紙

【2022年12月追記】
「池袋西口公園古本まつり」は毎年春と秋、1年に2回の開催でした。
2019年は公園改修のため休催。
2020年4月、久しぶりの開催予定で日程も発表されましたが、新型コロナウイルスの影響により中止。
以降、行なわれていません。
今のところ、2018年9月が最後の開催となっています。
大きな古本まつりですので、ぜひとも再開してほしいものです。

アルパ広小路の「古本掘出し市」は、現在は行なわれていません。
当時の記録が曖昧で、この年かぎりの催し物だったのか、その他の年も開催があったのか、詳細不明です。

日記のなかで「現代のほとんどすべての乙女は、徳川夢声の本に手を伸ばそうとはしないだろう」と記していますが、現代の乙女は徳川夢声の本を読まないと、どうして言い切れるのでしょう。これは、現代の乙女に対しても、また徳川夢声翁に対しても、たいへん失礼な独断です。ここでお詫びします。
夢声翁の文章は面白いです。読みやすく、洒脱で、気取りがなく、忘れ去られてしまうのは、ほんとうに勿体ない文章家です。岩波文庫はどうして緑帯の『徳川夢声随筆集』を刊行しないのかと、いつも思います。
ついでに、「渋谷栄一」と「渋沢栄一」を当時の私は混線していたようです。