【2010年9月24日】
五反田9時到着。
南部古書会館、五反田遊古会。
9時半の開場時間にはまだ少し間があるが、すでに開放されている路上の平台には先鋭隊が15、6名。
誰かに横取りされると思ったのか「それは私の古本だ!」と野太い声を張り上げるお客あり。
恰幅豊かなところを見ると、会社の役員か何か、きっと偉い身分の大狸いや紳士だと見受けられたが、とはいえその身分を古書即売展にまで持ち込んでふんぞり返るのはどうかと思う。
しかし「私の本だ」とは言わず、きちんと「私の古本だ」と言うあたりに、愛嬌が無いこともない。
1階ではマダム・マサコ『おしゃれ案内』から始まって200円ばかりを6冊。
2階のサンリオ文庫『一九八五年』が400円、最後は200円に戻って『ひとりぼっちの愛情』。おおよそ200円均一の計8冊。
購入メモ
*五反田遊古会/南部古書会館
『おしゃれ案内』マダム・マサコ(カッパ・ブックス)200円
『蛙の寝言』秋月正夫(自家版)200円
『情艶おんな絵草紙』神田越山(あまとりあ講談文庫)200円
『近世毒婦伝』西尾富岳(あまとりあ講談文庫)200円
『日本の流行歌』上山敬三(ハヤカワ・ライブラリ)200円
『ねこ横丁の仲間たち』的場章(二見書房)200円
『一九八五年』A・バージェス(サンリオ文庫)400円
『ひとりぼっちの愛情』秋山正美(第二書房)200円
続いて神保町へ移動。
古書店街に雨ぱらり。店頭中止。
東京古書会館に直行して、紙魚の会。
即売展の初探訪から、丸一年が経った。
あの感激から一年、月日は流れ、私の部屋に古書は溜まる。
なお月日は流れ、やがて古書だけが残るだろう。
ひとつの節目を迎えるにあたって、そんな感慨に浸りながら、しかしいちど踏み入ったからには、節目も区切りもあるものか、ずぶずぶと、のめり込むのみの古本世界である。
そしてこの一年の行脚でどれほどの成長を遂げたかといえば、拾い集めるのは相変わらず200円や500円の安物が中心だ。雑本癖は治らない。
手塚正夫『臍下たんでん』から始まって、1050円の大和田建樹文集『雪月花』、通叢書『園芸通』、久しぶりの現代ユウモア全集『晴れ後曇り』細木原青起、などそこそこにまとめて、会計の順番待ちのあいだにショーケースの陳列品を眺めてみる。
中村正常『隕石の寝床』がある。改造社、新鋭文学叢書の1冊。文学事典や、八木福次郎氏の著書でその存在だけは知っていたけれど、そう易々と出くわす類いの本ではないし、もし出くわしたとしたところで、我が身には高嶺の花だろうと思っていた。
それが今、4000円。どうにか手の届く金額で、目の前にある。目をこすっても、夢じゃない、いやこれをこそ夢というのか。
しかしその前に『文芸記者三十年』と『人生リポート』と『随筆そばの味』と3冊、約1000円分を会場の棚に返却する。なけなしの努力である。
係の人にお願いしてショーケースの鍵を開けてもらい、『隕石の寝床』を手渡されるまでの、ふるえるような甘美な寸刻……。感傷的、ひとりよがり、大袈裟、何と言われようとも、これは古本の神様からの恩寵なのだろう。
*紙魚之会/東京古書会館
『臍下たんでん』手塚正夫(光源社)500円
『酒のふるさとの旅』山本祥一郎(サンデー新書)200円
『雪月花』大和田建樹(博文館)1050円
『特急列車』高田隆雄(新潮文庫)200円
『園芸通』烏丸光大(通叢書)500円
『男の匂い・女の匂い』大場正史(第二書房)500円
『晴れ後曇り』細木原青起(現代ユウモア全集刊行会)525円
『隕石の寝床』中村正常(改造社新鋭文学叢書)4000円
小宮山書店のガレージセール(3冊500円)では、野口冨士男『いま道のべに』を見つけたので、あと2冊、『パパはのっぽでボクはちび』平塚武二(岩波少年文庫)、『口伝亜砒焼き谷』川原一之(岩波新書)をくっつけて購入。
ミロンガで珈琲。本降りになりそうだった雨は降らず、田村書店の店頭販売は営業していた。『アレクサンダー・カルダー展』の図録(交際芸術文化振興会)を買う。800円。
【2023年1月追記】
東京古書会館地下1階の即売展会場の入口手前には大きなショーケースがあり、参加店の特選品が陳列されます。
通常は鍵が掛かっていますが、係の人に頼めば、ケース内の本も会場と同じように手にとって見ることができます。
目当ての本を取り出してもらうのを待っているあいだは、じつにわくわくします。
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改造社の「新鋭文学叢書」は約30冊ほどのシリーズ。すべて昭和5年の刊行です。
『放浪記』林芙美子、『なつかしき現実』井伏鱒二、『不器用な天使』堀辰雄、『放浪時代』龍胆寺雄、『ボール紙の皇帝万歳』久野豊彦、『夜明け前のさよなら』中野重治、『東倶知安行』小林多喜二、などの作品が収録されています。
『隕石の寝床』はその第7編として刊行されました。
装幀のデザインは共通していますので、表紙を見れば一目でそれと分かります。
『浮動する地価』黒島伝治や『正子とその職業』岡田禎子などは、即売展でも割合によく見かける書目です。
とろけるような瞬間を味わいながら手に入れた『隕石の寝床』ですが、後々、300円で放出されているのを目撃して腰が砕けそうになりました。
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南部古書会館の「五反田遊古会」は年6回。奇数月に開催されます。
目録発行あり。
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東京古書会館の「紙魚之会」は年2回。3月と8月の開催です。
以前は目録がありましたが、現在は発行されていません。