【2011年10月14日】
東京古書会館、ぐろりや会。
藝林荘が一昔前の新書判を大量に出品していて壮観。それも、岩波新書のなかに『はだか随筆』1冊というような月並み(?)ではなく、ほとんどが粋筆艶筆の類いでまとまっておりじつに軟らかな絶景だ。
平台を端から辿ると、あっというまに10冊ばかりが手許に集まる。興奮を抑えつつ棚のほうに眼をやれば、やはり風俗関連の単行本が数多く並び、これら書群は、誰か市井の好事家が蔵書をまとめて手放したのかもしれない。
集まってはまた散らばり、私が運び集めた幾冊かも、やがてはこうして古本屋の棚へと流れ出て、生々流転、それをまた、静かに興奮などしながら、別の私が買い漁るのだろう。
序盤の収穫に、気分も寛いで会場を一巡り。
今日は何もない、と見知らぬ先輩の嘆き声が聞こえてくれば、何を探し求めていられるのか存ぜぬとはいえ、しっかり抱え込んでうきうきしている我が身がちょっと恥ずかしい。しかし人は人だ、私は私の雑本万歳なんだ。
山猫屋の棚でも詩人臼井喜之介の粋筆新書を発見。もういちど藝林荘に戻ると、園田てる子の新書判が3冊あって、これらはさっきは見なかったはずだから、誰かが返却したのかもしれない。3冊のうち、2冊は210円で、『深夜の鍵穴』だけ840円と飛び抜けているのは、どういう価値があるのかよく判らないけれど、あれこれ考える前にまとめて購入する。
計14冊で4470円、13冊が藝林荘。ところで藝林荘と言えば鎌倉の老舗古書店だが、値札には〈鎌倉店〉の下に〈神保町店〉の表記がある。後ほど、今回のぐろりや会目録で所在地を確かめると、神田古書センターの6階に支店が進出したようだ。いつのまに?
購入メモ
*ぐろりや会/東京古書会館
『艶筆いろごと指南帖』武野藤介(あまとりあ社/昭和32)310円
『笑いの処方箋』岸篤(芸文新書/昭和40)310円
『悦びの触角』白石かずこ(青春出版社プレイブックス/昭和42)210円
『女の診断』大和田斉眼(美和書院/昭和31)210円
『パパの好きな赤帽子』峰岸義一(住吉書店/昭和31)520円
『この目で見た赤い国の恋』福田蘭童(一水社かもめ新書/昭和40)210円
『好色風土記』狭山温(あまとりあ社/昭和32)210円
『妻のゐない寝床』丸木砂土(いとう書房/昭和23)210円
『女国・道しるべ』南部三郎(あまとりあ社/昭和39)210円
『思案のほか』武野藤介(あまとりあ社/昭和31)310円
『紳士心得帖』臼井喜之介(光和堂/昭和31)500円
『鍵穴をのぞく本』園田てる子(日本文芸社三時間文庫/昭和46)210円
『深夜の鍵穴』園田てる子(日本文芸社三時間文庫/昭和47)840円
『女心おしえます』園田てる子(あまとりあ社/昭和46)210円
古書店街。田村書店の百円段ボール箱より『だれでも詩人になれる本』やなせたかし(かまくら春秋社/2009)と、『新井豊美詩集』(思潮社現代詩文庫/1994)。
『だれでも詩人に…』は、講談社刊『詩とメルヘンの世界』(1997)の改訂再編版で、その元版のほうはもう20年ほど昔、友人たちとの新潟キャンプ旅行の途中、たしか弥彦線の吉田駅だったか、電車の待ち時間のあいだに駅前の古本屋で買った。
今日はミロンガには寄らず、そのまま靖国通りの店頭棚を一直線に進む。九段下から東西線に乗って、次は高田馬場の古書感謝市。
『岡山の路面電車』楢原雄一編著(岡山文庫/1999)300円、『新聞講座』千葉亀雄(金星堂/大正14)1000円、『ウイスキー奇譚集』ジャン・レイ(白水社/1989)650円。
躍りあがるほどではないにせよ、そこそこの発見がつづく。もし古本占いがあるならば、今日の私の古本運勢は上昇しているのだろうか。しかし次から次へと拾い集めながら、古本のほうへと動いているのはたしかに私自身なのだが、私のほうへと古本が勝手に近寄ってくるような、つまり私が見つけているのではなく、私が見つけられているような、どうにも奇妙な感覚だ。
ここまで19冊。鞄はだいぶん重たくなった。それでは高円寺ガード下へと参じまして、まずは都丸支店の店頭棚を眺めまして、それから四文屋の小さな丸椅子に腰かけまする。テーブルに広げた古書目録に、コップの底から焼酎のしずくがポタ、と垂れる。
最後は荻窪、ささま書店。店頭均一棚から鈴木義司のマンガ『ケロリ子ちゃん』(講談社/昭和41)105円。店内で『絵本・物語るよろこび』松居直(福武文庫/1990)315円と、料理書の棚に坂口謹一郎の『歌集醱酵』(白玉書房/昭和33)840円。坂口謹一郎は岩波新書や講談社文芸文庫などに酒についての著作が幾冊かあるが、歌集の存在は知らなかった。発行所の白玉書房は寺山修司歌集『田園に死す』の版元だったかな。
【2023年5月追記】藝林荘(鎌倉)
「藝林荘」は、元々は鎌倉にあった古書店です。
鎌倉駅と鶴岡八幡宮を結ぶ小町通りの途中を、横に曲がったすぐ先に店舗がありました。
神田古書センター6階の支店「神保町店」がいつ頃の開店だったのかは不明なのですが、値札や目録に神保町店の表記を見たのはこの日が初めてだったはずですから、おそらく2011年になってからの進出だったのではないかと思われます。
その神保町店は翌2012年の12月に閉店してしまいます。短い期間の営業でした。
さらにその後、2019年(何月かは不詳)には鎌倉の店舗も閉店となりました。
藝林荘は、ぐろりや会のほかにも、愛書会・新興展(東京古書会館)、青札古本市・歳末赤札古本市(西部古書会館)、あるいは銀座古書の市(松屋銀座)、三省堂書店池袋本店古本まつりなど、即売展や古書市に精力的に参加されていましたが、のちにすべての催事から退会しています。
退会の時期は2018年末から2019年春にかけてに相次いでいて、どうやら鎌倉の店舗を畳んだ時期と重なっているようです。
以上は、手許に控えておいたノートで確認できた範囲での消息を記してありますが、実際とは間違っているところもあると思います。ご容赦ください。
催事への参加は見られなくなりましたが、お店そのものが閉業となったわけではなく、藝林荘は現在も「日本の古本屋」通信販売に出品されています。
所在地は鎌倉から渋谷区神宮前へと移り、店舗販売は行なわずに事務所のみの営業ということのようです(ホームページやツイッターもあるのですが、ここ数年は更新されていないようです)。
『全国古本屋地図』21世紀版(日本古書通信社/2001)では、
《前経営者から、神保町鳥海書房出身の今の御主人が、屋号ともどもひきついだ》
と、鎌倉の藝林荘を紹介しています。
先代の御主人、村尾栄一郎氏には『古書のほそみち』(藝林荘/1985)という著書があります。
藝林荘が即売展に参加していたころは、毎回、この『古書のほそみち』が棚に並んでいました。
薄い本ですから目立つわけではありませんけれど、控え目ながら、藝林荘の「看板役」を担っていたのではないかと、当時のことを思い出します。
『古書のほそみち』は割合に見かける機会の多い本です。だいたい1000円前後だと思います。
なお、京都にも同名の古書店「藝林荘」がありますが、全く別箇のお店です。