【2011年10月21日】
五反田9時10分着。南部古書会館、本の散歩展。
今日明日の神田の東京古書会館は洋書まつりなので、日頃の常連客のほとんどは五反田に集結しそうだ。
必死の早業を競い合うのは柄ではないのだが、それならなぜ朝一番に参上するのかというと、一刻も早く新鮮な古本に接したいという気持もあるのだが、もしや隙をついて1冊くらいは出し抜けるのでは……助平心があるんだな。そもそも争奪戦と言っても、私と誰かとの狙い目が、争うほどに一致するのかどうか、しかしなぜだか即売展の会場では、私と誰かとの探求書はぴたりと合致しているように思われてならず、そんな厄介な心理にあわてふためきながら、いざ路上の平台に並んだ廉価本を眺めてみれば、すでに先陣が見限った本のなかに『べんとう物語』大塚力(雄山閣/昭和46)なんていう1冊が取り残されている。
ほどなくガレージ内の棚も開放されて、待ちかねた皆さんは右に左に電光石火。さて『べんとう物語』を片手に持った男はどうかと言うと、彼なりに奮迅しているつもりらしいのだが、いかにも動作が緩慢だ。戯れせんとや!
背表紙の破れた薄い冊子を引っぱり出す。大智浩『ポスターのデザイン』(美術出版社/昭和30)、ぱらぱらめくるとモノクロながら図版が豊富で、サヴィニャックのポスターも何点か紹介されている。著者の大智氏は自身でもポスター制作を手掛けるデザイナーのようだ。いつもながら、その存在をまったく知らなかったが、1938年に東京美術学校を卒業しているそうなので、あるいはもう御存命ではないのかもしれない。
『にっぽん人物画』近藤日出造(オリオン社/昭和39)、『シャイロックのごとく』桶谷繁雄(読売新書/昭和28)を追加して、計4冊、すべて200円。ここまでが1階。
今回、事前に入手した散歩展目録で注目したのは、黒沢書店が出品した『ポルの王子さま』6000円。注文が入ったようで会場の棚には並んでいなかった。この珍書は一度だけ中野のまんだらけで現物を見たことがあり、価格はたしか12600円だった。
月の輪書林出品の『せ・し・ぼん』は著者が薩摩治郎八で、同じく注目の1冊だったが、こちらも棚には見当たらず。その代わり、北村小松『小市民街』(天人社/昭和5)という本を見つける。序文を読むと、北村小松の最初の小説集であるらしい。1500円。
もうひとつ北村小松、先進社『肥料と花』裸本で2000円もあったのだが今回は見送る。
アンデス書房の棚から秦豊吉の随筆集『菜の花漬』(要書房/昭和28)500円を拾い、その他、昔の漫画雑誌をまとめて出している棚があり、小野佐世男表紙『風流好色漫画帖』1500円、やなせたかし表紙『漫画劇場』1963年11月号、1000円、あるいはそれ以外の雑誌も、いちいち中を見てみると、平井房人があったり横井福次郎があったり、もう四の五の言わずにまとめて買ってしまえば爽快なのだがそうも参らず、漫画雑誌は全部見送る。
最後の最後まで矢鱈に迷った揚句、『カット図案集』内藤良治(創作図案刊行会・大里太陽社/昭和7)2000円。2階は3冊。
午後1時半、続いて池袋。西口公園古本まつり。
夕方からは雨の予報で、雨が降り出せば中止になってしまうので、やや早足に棚から棚へ。
ようやくと言うのか、やっぱりと言うべきなのか、会場50万冊の中から武野藤介1冊。『はだかコント百話』(日本文芸社/昭和39)200円。
次の1冊に辿り着くための、これもまた古本遍路の道のりであると……。
【2023年5月追記】南部古書会館の初日の朝
五反田の南部古書会館では「五反田遊古会」「本の散歩展」「五反田古書展」、3つの即売展が開かれます。
本の散歩展は毎年4月と10月の2回。
2011年当時はもうひとつ、「五反田アートブックバザール」という美術書中心の即売展もありましたが、2016年に終了となりました。
会場は1階ガレージと2階と、2つに分かれていますが、いずれの会も、初日の金曜日のみ1階は9時半開場です(2階は10時)。
初日の9時過ぎに南部会館を訪れますと、ガレージ手前には紐が渡してあってまだ中には入れませんけれど、路上にはみ出した平台はすでにオープンです。早くも人の輪ができていて、まずは朝一番の古本に目を通します。
それから身を乗り出すようにガレージの棚を凝視して、いち早く狙いを定めたりもします。
9時半になると紐が切られ、皆さん、どッとガレージ内になだれこむ、という次第です。
先鋭隊はわずか数分で駈けめぐり、次は2階へと上がって、10時の開場を待ち構えます。
1階は200円を中心とした廉価本が多数。いつも人気があります。
どんどん捌けてゆきますから、なるべく早く訪れるのが、古本心得の王道となりましょう。
しかし錯綜する人込みのなかでは、気ばかりが焦って、思わぬ見落としを招きがちです。
帰りがけに改めて1階を見て歩くと、さっきは気づかなかった本を見つけることはよくあります。
初日の午後や2日目、のんびりした時間帯に、のんびりと、特に薄い冊子などは、周りを気にせずにじっくり見分したほうが、結局は収穫に結び付くということもあるようです。
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毎年2回、春と秋に行なわれていた「池袋西口公園古本まつり」は、公園の改修工事や、その後のコロナ禍により、今のところ2018年9月の第28回が最後の開催となっています。
2023年の春は、再開の機運が高まったようにも思えたのですが、開催の知らせは届かず。
秋はどうなるのか、今後の展開が気になる催事です。