【2011年12月23日・24日/2023年7月追記】『淵上毛錢全集』

【2011年12月23日】
東京古書会館、ぐろりや会。
『私鉄の機関車』加増和彦/池田光雅(カラーブックス/昭和58)300円。1冊のみ購入。『私鉄の機関車』は今まで500円以下で見かけることがなかったので300円ならまあまあだ。
ミロンガで熱い珈琲を喫すれば、心は昨日見た板橋の『淵上毛錢全集』へと飛ぶ。
田村書店店頭、神保町古書モール、神田古書センターなどさまようて、落穂は拾えず。

【2011年12月24日】
西部古書会館、好書会。
『美しい装い』から始まって、廉価なところを9冊ほど拾い集める。

購入メモ
『美しい装い』木村弓子(現代教養文庫/昭和36)210円
『路傍の草花』松田修(現代教養文庫/昭和36)105円
『日本女地図』殿山泰司(カッパブックス/昭和44)315円
『濡れた仇花』武野藤介(あまとりあ社/昭和33)210円
『カツドウヤ紳士録』山本嘉次郎(大日本雄弁会講談社/昭和26)315円
『鉛筆がきいろいろ』秋山安三郎(小山書店/昭和24)350円
『土手の見物人』伊馬春部(毎日新聞社/昭和50)750円
『風流點々記』福田蘭童(要書房/昭和28)500円
『小熊秀雄研究』小田切秀雄・木島始編(創樹社/昭和55)500円

木村弓子「美しい装い」表紙
『美しい装い』木村弓子(現代教養文庫/昭和36)

以上のうち『カツドウヤ紳士録』は既に持っていたらしく2冊目の購入だった。3冊目に注意。
古書会館をあとにして、昼前には板橋へ。
急くようにT字路を曲がると、木本書店は左半分だけ戸が開いている。
店内は明かりもつかず真っ暗で人の気配もない。
まあしかし半分開いているということは、まだ半分は見込みがありそうで、もし休業だとしたらあの棚のあの場所から毛錢全集が売れてしまうおそれもないし、そのときは明日明後日と日参すればよいのだろう。
ひとまず旧中山道を西に進み、国道17号線を横切ると、宿場町の面影を残す商店街がつづく。
冬晴れの青空に寄り掛かるようにして風呂屋の煙突がまどろんでいる。やがて坪井書店。
各所の古本まつりでは御馴染みのお店だ。価格を記した帯紙を1冊1冊巻きつけて並べていたのが、たしか坪井書店ではなかったろうか。
店舗の棚は割合に最近の本が多いようで、古本まつり会場の棚とはまた印象が異なる。
美術展の図録に思わぬ出物がありそうな雰囲気もあったのだが、見つけられず、全体的にすべすべとした背表紙の上をすべるように、そのままツルリと退店する。
さらに商店街をぶらぶら歩いて、区名の由来でもある〈板橋〉を初めて渡る。もちろん今は板ではなくコンクリートの橋である。渡ってすぐ引き返す。
通り掛けに見かけたブックワールドという古本屋を一巡。購入なし。
歳末の賑わいをよそに、鰻屋の店先で、今度は鰻の蒲焼がまどろんでいた。

来た道を戻り、さて、木本書店。
お婆様が店頭の均一台に本を並べている。
「開いていますか?」
「ハイどうぞ」それから、「さっきまで老人会の手伝いに行っていたものでねえ、もう80近いのに、まだ老人会の世話役なんですアハハ」
そう言いながら手は休まず、置き物のように帳場に佇んでおられた一昨日とは別人のように、矍鑠と本の束を運びだす。
「ゆっくりしていってくださいね」
心は逸りに逸っているのだが、言われたとおり、なるべくゆっくり、棚に手を伸ばす。『淵上毛錢全集』(国文社/昭和47)8000円。この店で毛錢を見つけたことを、古本の神様に感謝……。

すぐに帰宅してしまうのは惜しいようでもあり、何となく高円寺へと戻り、ネルケンで珈琲と毛錢全集。ガード下の四文屋で煮込みと焼酎と毛錢全集。

「淵上毛錢全集」表紙
『淵上毛錢全集』(国文社/昭和47)

【2023年7月追記】『淵上毛錢全集』後日談
こうして入手に至った『淵上ふちがみ毛錢もうせん全集』ですが、それからしばらく経って、また別のお店で見かけました。売価はたしか6000円だったか。
購入した後に同じ本を見つけると、そちらのほうが安い値段であるということはよくあります。
いくらかはがっかりせざるを得ませんけれど、まあそれを言っても始まりません。
さらにそれからしばらくの後、高田馬場の古書感謝市で見かけるのですが、手にとってみたところ1500円! さすがに腰が砕けそうになりました。今でもはっきり覚えています。
1500円でとにかく買ってしまえば、以前の8000円と合わせて、2冊で9500円。1冊あたり4750円ならまだ納得できるのじゃないか、と咄嗟に有耶無耶な計算をしたような記憶もあり、よほど動揺していたのでしょう。
いや、同じ本は2冊要らなかったと、そこは我に返って(?)、古書感謝市の毛錢全集は買わずに帰りました。
購入した本、あるいはいちど見かけた本は、大きさや厚さや背表紙の意匠など外観のおおよそが頭の中に入りますから、その次もまた眼につきやすくなります。
今までどこにも見当たらない本だったのが、いちど見かけたとなると立て続けに発見したりするのは、そういう仕組が与っているのだとも思います。
しかし、値段は……。どうして高いほうから先に見つかってしまうのか、なぜ最初に1500円の本が出現してはくれないのか、この仕組は凡人がいくら頭をひねっても理解できません。
古本の神様からの激励なのでしょう。
古本は、買えば買うほど、勉強です。
高田馬場の1500円を最後に、ふたたび『淵上毛錢全集』は見かけなくなりました。もしも100円均一の棚で見つけてしまったとしたら、そのときこそ、その場で失神するのかもしれませんが、古本の神様もそこまで無慈悲ではないようです。
金額の話ばかりになっていますが、旧中山道沿いの木本書店はその後お店を閉じました。少し離れた場所に支店があり、現在はそちらの店舗のみで営業を続けています。
踏切近くのあのお店の、あのお婆様から『淵上毛錢全集』を買ってよかったと、今では思います。
何を買ったかということに加え――、どこで買ったか、誰から買ったか、古本屋を歩く魅力には、そういうところにも大切な要素があるようです。

当日記は2011年12月22日の続篇です。
よろしかったら前日の日記もご参照ください。
【2011年12月22日/2023年7月追記】板橋駅周辺の古本屋を歩く