【2011年2月21日】
一昨日までの1週間ばかり胃炎に見舞われて輾転と過ごす。
胃痛と腹を下したほかに大した症状は出なかったが、お粥やうどんを恐るおそる食べるのが精一杯だったから、身体がふらふらする。
目黒の庭園美術館で〈20世紀のポスター〔タイポグラフィ〕〉展を観る。
ヤン・チヒョルトの余白が美しい。会場に置いてあった図録を見ると、チヒョルトは数多くの著述を残しているようだが、ほとんど邦訳されていないのは残念。雑誌『アイデア』321号はチヒョルトの特集号らしく、発行は2007年だから、これはそのうち見つかるかもしれない。
さて、すっかりほどけた身体をまた結び直すようにして、ざわめく街路へ、古本屋へと、足を踏み出す。
東急電車で武蔵小山。まだ昼前だというのに横丁の一杯呑屋は暖簾を出しているし、今しもそれを掻き分けて顔を覗かせる裏町紳士の上機嫌と、うるわしくただよう焼鳥のケムリ、なのである。
小山3丁目の九曜書房を訪れてみるもオヤスミだった。4丁目のブックマン古本館は最近のマンガが中心で手掛かりがつかめずに退店。6丁目まで遠征して石神古書店に辿り着くと、こちらはすでに夢の跡。看板や内装がまだそのままなので、お店を畳んだのは割合に最近なのかもしれない。店頭の、空っぽのスチール棚には〈100円均一〉の表示が淋しく残っていた。
西小山からふたたび東急に乗って田園調布。
古本屋が無ければ降りる用事の無い駅だ。しかしここには、田園りぶらりあがある。
店内に入り、峡谷のような通路から天を見上げ、あるいは谷底にしゃがんで地を漁る。
書架のほどよい渾沌と、穴蔵みたいな帳場には老主人が磨崖仏のように佇んでいらして、もうそれだけで田園調布に来た甲斐はあるというものだ。
現代カメラ新書の『ローライ物語』北野邦雄、300円と、100円均一の児童書の中に紛れこんでいた『クシー君の発明』鴨沢祐仁(青林堂)を購入する。
続いて自由が丘。古本屋が無ければまず降りる用事の無い駅だ。
西村文生堂で『萬鉄五郎』村上善男(有隣新書)460円。東京書房にて『平民社時代』荒畑寒村(中公文庫)220円。
さらに大井町線で溝の口へと出て、東急沿線古本散歩の締めくくり。
駅前西口商店街の明誠書房にて『南武線物語』五味洋治(多摩川新聞社)750円。南武線の線路端の古本屋ならではの1冊に恵まれ、それから小松屋書店ではカラーブックス『コーヒーの店-大阪-』キダ・タロー、250円。カラーブックスの中で今までなかなか見かけなかった書目とようやく巡り合った。
【2023年3月追記】武蔵小山、田園調布、自由が丘、溝の口
まず「古本屋が無ければ降りる用事の無い駅だ」などと、その町に住みその町を愛する人たちにとってたいへん失礼な言い方をしていますことはお赦しください。田園調布や自由が丘にかぎって言ったわけではなく、近くに古本屋の無い駅は、どうしても用事の無い駅ということになってしまいます。
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田園調布の「田園りぶらりあ」はすでに閉店しています。
店売りのほかに、南部古書会館の五反田遊古会に目録参加を続けていたのですが、2022年3月を最後に参加していません。おそらくその頃が閉店の時期と重なるのではないかと思われます。
もういちど行ってみようと思いながら、ぐずぐずしているうちに機を逸し、結局はこの日が最初で最後の探訪となってしまいました。
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その他、この日訪れた古本屋さんについて簡単に記しておきます。
【武蔵小山】
「九曜書房」現在も営業しています。また、南部古書会館の即売展や三省堂池袋古本まつりにも参加されています。お店の定休日は月・水・土ですが、即売展に参加の際は臨時休業になることがあるようです。
「ブックマン古本館」閉店(時期不詳)。
「石神古書店」閉店(時期不詳)。
その後、武蔵小山駅周辺では再開発が進み、駅前風景は一変したようです。
【自由が丘】
「西村文生堂」現在も営業しています。数年前までは南部古書会館の即売展に参加していましたが、現在は参加していません。
「東京書房」自由が丘の店舗は2019年5月に閉店。川崎市宮崎台に移転し、現在は事務所営業。店舗での販売はありませんが、店頭買取は行なっているようです。
【溝の口】
「明誠書房」2020年、西口商店街から溝口駅前ストアーへ移転。2021年(?)、閉店。
「小松屋書店」閉店(時期不詳)。