【2011年2月27日】
午後から西荻窪。
森田書店は相変わらず建物と看板はそのままに鎧戸を鎖し、その向かいにあった夢幻書房はいつのまにか消滅していた。
音羽館では、記憶に真新しい黄緑色の表紙が鮮やかに目に映える。
一昨日、小宮山書店で見かけたばかり、価格5000円に手が出なかった『真鍋博展』図録(朝日新聞社)だ。
背表紙に折れ目が入っているなどちょっとくたびれているが、今日の価格は2500円。うれしく購入する。
中央線の高架をくぐってブックスーパーいとうを訪れると、こちらもいつのまにか消滅していた。
盛林堂書房、購入なし。
荻窪へ移動して、ささま書店、購入なし。
北口アーケードの喫茶店、邪宗門に初めて入店。扉を開けると狭い階段があって、2階が客席になっていた。老マダムがこの急階段を往ったり来たりして、お盆に載せた珈琲を運んでくださる。壁に掛かった古時計、今と昔が(ついでに未来も)柔らかに溶けてゆく。
【2023年3月追記】いちど見た本は次も目につく
当たり前と言えば当たり前ですけれど、いちど見かけた本というのは、この次もまた目につきやすくなります。
今まで探し続けていた本をようやく見つける。そうすると、今まで何年も見つからなかったはずであるのに、間を置かずここでもあそこでも続けざまに出現することがあります。
古本七不思議のひとつと言えるかもしれませんが、これなども、実物の装いを把握することによって、視覚が反応しやすくなったからだと考えられます。
その筋道でゆくと、探求書を古本屋で探す場合、あらかじめ図書館で閲覧するなどして、その本全体の造りを知っておくのはたいへん有効ということになります。
大きさ、厚さ、色。これらを知ることは、発見への早道となるでしょう。と、これまた至極尤もな話です。
折角探求書を見つけても、値段と折合いがつかずに諦めざるを得ないことはよくあります。
残念ではありますが、ここでめげずに、しっかりとその本の佇まいを頭に入れておきたいところです。必ずや未来の収穫へと近づくはずです。
文庫本の背表紙では作家別に色分けがしてあることがあります。色は、文字よりも早く、真っ先に視界に飛び込んできますから、好きな作家の本を探すときは、この背表紙の色が大きな目印になってくれます。
旺文社文庫の内田百閒なら薄い緑色、講談社の江戸川乱歩推理文庫なら黒と黄色、というような塩梅です。
もちろん、事前に調べたくても図書館には置いていなかったり、またいくら古本屋を歩きまわってもまったく見かける機会のない本はたくさんあります。
判るのは題名と著者名だけで、その本の形も色も判らない。
こうなると、丹念に書棚を辿るよりほか手立てはなさそうです。
未見の本の探求は骨が折れますが、そもそも古本屋めぐりは、能率とは無縁の世界なのでありましょう。
1冊1冊、1歩1歩。どこまでも続く古書の細道です。
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西荻窪の「森田書店」は、当時すでに閉店していたようです。この後も幾度か通り掛かりましたが、建物も看板もまったく昔のままで、今にもシャッターが開きそうな気配です。2022年の夏頃もまだそのままでした。
「夢幻書房」は店舗を閉じて事務所営業に移行したということだったようなのですが、その後の消息については不明です。
中央線の高架下にあった「ブックスーパーいとう西荻窪店」は、この日の1か月前、2011年1月31日に閉店していました。