【2011年5月23日/2023年3月追記】新橋古本市『誰が一番馬鹿か?』

【2011年5月23日】
早稲田青空市と新橋古本市の初日。
雨催いではあるが、とにかく出掛けることにする。
10時、早稲田駅着。学生さんたちに混じって、ぞろぞろと早稲田大学へ。
構内の特設会場にて青空古本掘出し市。1時間ほどで一巡し、小沼丹『小さな手袋』(講談社文芸文庫)250円と、辰野隆『閑人独語』(洛陽書院)300円、2冊購入。

地下鉄を乗り継いで新橋。
SL広場の隅の灰皿でまずは一服ふかしていると、広場の主役、蒸気機関車C11号機が正午の汽笛を鳴らす。それでは出発。
うろうろ、もさもさ。とても快走とは言えぬ私の汽車ポッポだが、あちらこちらと見どころがあり、なかなか愉快な古本道中となった。
中川書房が元の値札に関わらず文庫本を百円均一で放出していて、講談社学術文庫もちくま学芸文庫もすべて百円というのだから汽笛をポーと鳴らしたい。
土浦から参加の、れんが堂書店のテントでは、岡田三郎『誰が一番馬鹿か?』にポー。
題名も奇抜だが、かんさびた銀色クロース装の表紙が何とも言われぬ味わいだ。モダン派傑作選集No.2、昭和5年の刊行と来れば、価格3000円もナンダ坂コンナ坂、ひとつ気張って石炭をくべるしかないのである。

購入メモ
*新橋古本市/SL広場
『生きものの建築学』長谷川堯(講談社学術文庫)100円
『人魚の嘆き・魔術師』谷崎潤一郎(中公文庫)100円
『血の三角形』牧逸馬(教養文庫)100円
『遠山物語』後藤総一郎(ちくま学芸文庫)100円
『絵本の100年展』図録(朝日新聞)1500円
『夜なき夜、昼なき昼』ミシェル・レリス(現代思潮社)1000円
『戦争のグラフィズム』多川精一(平凡社ライブラリー)400円
『九州文学散歩』野田宇太郎(角川文庫)150円
『明治日本美術紀行』フリーダ・フィッシャー(講談社学術文庫)300円
『誰が一番馬鹿か?』岡田三郎(博文堂出版部モダン派傑作選集)3000円
《吾妻橋》絵葉書/『主婦之友』昭和7年9月号附録 210円

岡田三郎「誰が一番馬鹿か?」表紙
『誰が一番馬鹿か?』岡田三郎
(博文堂出版部=モダン派傑作選集昭和5)

時折雨がぱらつきもしたが、降るというほどではなく、反対に薄日が射す瞬間もあった。
テントからはみ出した平台に、ブルーシートを被せたりまた外したり、お店番の人たちは空と睨めっこ。なかにはシートを被せっぱなしの、商売気のない放置台もあったりして、そのこんもりとふくらんだ内部には物凄い珍書が隠されているように思えてならないのだ。
ひとつ困ったことは、このSL広場には公衆トイレが見当たらない。隣接するニュー新橋ビルへ入ってみると館内のトイレはチップ制ということで恐れをなし、場外車券場へ行くとそこは会員制で門前払い、ヤマダ電器に飛び込んでようやくすっきりする。
ガード下の小さな洋菓子店で珈琲を飲む。
大村書店のテントで買った吾妻橋の絵葉書を取り出して、友人へ久しぶりにハガキを書く。
三越の紙袋を提げた御婦人が「ああ暑い暑い」と訴えながら入ってきて、どちらかと言えば今日は肌寒いはずなのだが、匙に山盛りの砂糖を2杯どぼんと珈琲碗に投げ込みながら「暑い暑い」と念を押し、ついに御婦人の圧力には敵わず店内の冷房装置が動き始めた。

【2023年3月追記】赤爐閣書房
赤爐閣書房の「モダン派傑作選集」については以下の3冊が確認できています。
第1巻=『ビルディングと小便』浅原六朗
第2巻=『誰が一番馬鹿か?』岡田三郎
第3巻=『バンガロオの秘密』舟橋聖一
刊年はいずれも昭和5年です。

国会図書館の蔵書で「モダン派傑作選集」を検索すると、第2巻と3巻しか表示されませんが、叢書名の記載はないものの『ビルディングと小便』も収蔵されています。
『誰が一番馬鹿か?』の巻末に、「モダン派傑作選集第一巻」として『ビルディングと小便』の案内が載っていました(それにしてもこの題名)。
第4巻以降の続刊があったのかどうかは摑めておりません。

『誰が一番馬鹿か?』の表紙には「東京 赤爐閣書房」の文字が見えますが、奥付では発行所名が異なっており、
発行所=博文堂出版部
発売所=赤爐閣書房
となっています。
国会図書館の書誌情報で同書の出版社が博文堂出版部となっているのは、奥付の表記に従ったものと思われます。
ただし、博文堂も赤爐閣も、所在地は同じ「東京市神田区三崎町二丁目一番地」です。
同じ場所にありながらどうして名称が違うのか、何が違うのか、そのあたりの事情は見当がつきません。
大橋佐平の「博文館」とは関係ないようです。
なお、現在の神田三崎町二丁目一番地は白山通りに面した一帯で、神保町古書店街にも含まれています。

赤爐閣(赤炉閣)書房は、たぶん「せきろかく」と読むのだと思いますが、どのような出版社であったのかはよく分かりません。
ふたたび国会図書館の蔵書を見ますと、上記のモダン派傑作選集のほかに、新興芸術倶楽部編『芸術派ヴァラエテー第1輯』、竜胆寺雄『街のエロテシズム』、島洋之助『童貞の機関車』、荒木千秋『銀座で恋の鬼ごつこ』など書き写しているだけで気分が盛り上がってくるようないかにも昭和モダン炸裂の書目があるかと思うと、杉村勇次郎『青年訓練所教練指導要領』、海野幸徳『社会政策概論』といった硬そうな書目も発行しています。
博文堂出版部としての刊行物はどうなのかというと、池田超爾『國民常識吾等が普選』、青山雪雄『ハリーウッド映画王国の解剖』、千葉鼓堂『奇問奇答頓智滑稽大学』、清沢洌『自由日本を漁る』、島洋之助『貞操の洗濯場』など、こちらも硬軟織り交ぜです。