【2011年5月22日】
夕方5時に友人と登戸駅で待ち合わせをしている。
少し早めに家を出て登戸駅近くの古本屋を訪れるつもりでいたのだが、地図を広げているうちに、ついでだから小田急沿線の古本屋をどこか歩いてみようと思い立った。
お昼前には家を出て、町田へ足を延ばしてみる。
町田駅北口から、まず成美堂書店。
初めての古本屋にツツッと近づく瞬間のよろこび。
そわそわと店頭の百円均一に取りついて、それから小綺麗にまとまった店内を一巡して、しかし何も見出せずに終わる。
よろこびの空回りのようではあるが、これはこれで古本巡礼の一歩一歩なのだと、自分で自分に言い聞かせる。
つづいてその先の高原書店。
四角い建物が、でんと構えた外観はおよそ古本屋らしくない。
外階段を昇って屋内に入れば、1階から4階まで、10幾つかの部屋に古本がぎっしりと収まっていて、ちょっとした公立図書館の様相だった。
1階の帳場に手荷物を預ける手順は、八王子のまつおか書房3号店と同様だが、売場の面積はこちらのほうが倍以上はあるだろうか。
そして上階はまったく無人というわけではなく、2階と4階にもそれぞれ帳場があって、店員さんが店番をしていた。
すべての部屋を余さずまわって『写真に見る日本の本』庄司浅水、250円。カラーブックス1冊だけというのはどうなんだろう。
このあとの予定があるから、ずいぶん早足に歩いたという憾みもある。腰を据えて取り組めば、半日でも一日でも潜り込めるだろう。
4階では高田保の脚本集『人魂黄表紙』が魅惑だったが価格4000円に跳ね返され、2階の帳場の奥には『高間筆子詩画集』3万円と、見てはいけないものを見てしまった。
高原書店の古本立体迷宮をさまようあいだに、いつのまにか外は雨。肌寒い。私が持っている折畳み傘はいつも「くしゃ」と、逆向きに開いてしまう。
登戸に戻り、ここで一旦時間切れとなる。駅前で友人と落ち合い、さらにその友人の友人と4人で集まってお酒を飲むなどしたあとの帰り道。
行く手に古本屋の灯りが見える。そもそも最初に訪れようと思っていたツヅキ堂書店だ。
最初に頭の中で見当をつけた方角とは全然違う場所にあって、こんなところにあったのかと思う。
帰り道の途中でたまたま行き当たったのは運がよかった。もし最初にこちらの探訪を試みていたら、探しまわった揚句に辿り着けなかったかもしれない。
『早稲田古本屋日録』向井透史(右文書院)300円、購入する。
【2023年3月追記】成美堂書店/高原書店/ツヅキ堂書店登戸店
この日訪れた3軒はいずれも現存しません。
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町田の「成美堂書店」は2013年11月4日に閉店。
「高原書店」は2019年5月8日に閉店しています。
成美堂書店は商店街の小さなの古本屋さん、高原書店は巨大古書店。対照的な2つのお店がわずかな距離をおいて営業しているという、古本名所のひとつでした。
余りにも有名店だった高原書店については、ここでの贅言は無用ですが、1974年に開店して以来、店舗の大型化や定価の半額での販売方式など、様々な案出で古本世界に革新を捲き起こしています。
あの4階建ての建物は、元々は学習塾だったそうです。古本で埋め尽くされていたそれぞれの部屋は古本教室だったのかと思うと、妙に納得がゆきます。
閉店は突然だったようであり、驚きをもって迎えられ、大きな話題となりました。
参照
*町田市地域情報サイト〈変わりゆく町田の街並み〉
*北條一浩「町田の古書店「高原書店」閉店はなぜ話題となったのか」〈毎日新聞「経済プレミア」週刊エコノミスト・トップストーリー〉
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「ツヅキ堂書店登戸店」の閉店時期は不詳です。
小山力也氏のブログ〈古本屋ツアー・イン・ジャパン〉「2016年11月11日」にツヅキ堂書店登戸店の店舗跡を探訪した記事があります。
すでに店内はがらんどうだったとのことですから、閉店の時期はそれ以前だったようです。
梅ヶ丘店、祖師谷大蔵店、登戸店、鶴川店、相模原昭和ビデオ館、座間面白館、中野島店、仙川店と、小田急線沿線を中心に多くの支店を展開していたツヅキ堂書店ですが、すべて閉店となりました。
仙川店のみ「石本書店」と店名を改めて、現在も営業しています。