【2011年6月3日】
東京古書会館の1階受付には当日の即売展の目録のほかに、次週以降の目録が置いてあることがあって、それをオマケでもらうとちょっと得した気分になる。
今日は再来週に開催のぐろりや会の目録を入手。
今まで、もらった目録を利用して注文したことは一度もなく、ただ眺めるだけで終わってしまうのだが、何にしてもオマケはうれしい(ただしオマケの目録はいつも少部数の配布なのですぐ品切れになってしまう)。
城南展。
「前回は大変でした」
と、どこかのお店のご主人が棚を整理しながら顔見知りらしいお客さんに話しかけている。
前回の城南展……、ああそうだった、3月11日の地震の日だった。
闇雲に、古本の明け暮れ。
それでよいのかと、ふっと我に返って自問することもないではないのだが、今こうして此処には古本があって、やっぱりもうそれはそうするしかないというような、抗いきれない力が働いて、いつしかまた古本の只中へと没入して我を忘れる。
ぶっくす丈の棚にて、松川二郎『南国の民話と民謡』の奥付を見ると、著者略歴が載っていた。
明治20年福井県生まれ、読売新聞記者、雑誌旅行時代社社長を経て、著述業に専念。
松川二郎の経歴がようやく少しだけ判明した。
その箇所を必死に暗記し、覚えたところで本は返却する。
価格2000円は決して高くはないはずだから買っておけばよさそうなものだが、買わずに済ます。
むしろ迷ったのは中野五郎『アメリカ女性展望』(七星書院)300円で、以前、高円寺で買った『アメリカ雑記帳』の姉妹篇であるということだから、本来は迷わず購入すべき1冊なのだが、さてこれを揃えてどうするかと、そこだけ妙な具合に正気に戻ってしまう。困った身上だ。しかし買う。
その他、『第二著者と出版社』山崎安雄(学風書院)105円、雑誌『日本ユーモア』昭和23年11月号(日本ユーモア社)300円、『造船』(岩波写真文庫)100円、『スイスの鉄道』長真弓(平凡社カラー新書)200円、購入。
ミロンガで一休みのあと、店頭棚に沿ってそのまま九段下まで歩き、東西線で高田馬場へ。
BIGBOX古書感謝市、今回は購入なしに終わる。
つんのめるように吉祥寺へと辿り着き、いせや公園店で瓶ビールと鳥皮、カシラ、ネギ。品川力『吃々亭雑記』読み終わる。
【2023年3月追記】城南展/松川二郎
東京古書会館の「城南展」は2023年1月の開催をもって終了となっています。
毎年、2月6月10月の3回、20店舗近くが参加していました。
目録も発行されていましたが、2022年10月発行号で休刊。
明けて2023年、例年より少し早く、1月27・28日の両日に会場販売のみを行ない城南展は閉幕となりました。
目録休刊号に掲載された「ごあいさつ」によりますと、同人の高齢化およびコロナ禍の影響により、目録発行の維持が困難になったとのことでした。
おそらくそれと同じ理由で開催そのものが難しくなったのだと思われます。
最終開催では参加を取りやめたお店もありましたが、その代わりに今まで同人ではなかったお店が何店か、最初で最後の参加をしています。
締めくくりを盛り立てようという飛び入りの応援参加だったのかもしれません。
会期当日、古書会館玄関先の立看板に貼り出された城南展のポスターには、片面に「ザ・ファイナル」、もう片面には「これが最後!!」と書き加えられ最終回であることを知らせていましたが、地階の会場にはこれという飾りつけがあるわけでもなく、至っていつもどおりの場内風景でした。
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松川二郎については、奥須磨子氏の論文「資料・松川二郎」に詳細な著作目録と経歴が掲載されています(*)。
日本における旅行作家の先駆けとも呼べるような人物で、『一泊旅行土曜から日曜』(東文堂/大正8)、『名所回遊四五日の旅』(裳文閣/大正11)、『趣味の旅名物をたづねて』(博文館/大正15)『名勝温泉案内』(誠文堂/昭和2)等々、多くの著書があります。
これら旅行案内書の数々は、即売展会場でも折に触れて見かけます。
あるいは古本世界では、『歓楽郷めぐり』(三徳社/大正11)や『全国花街めぐり』(誠文堂/昭和4)といった入手困難の書物の著者として、松川二郎の名は知られているかもしれません。
『名勝温泉案内』などは1000円から2000円くらいで出品されることもあるのですが、『歓楽郷めぐり』『全国花街めぐり』は1万円から数万円と、かなりの古書価が付くようです。
この日、城南展の会場で暗記した略歴「明治20年福井県生まれ、読売新聞記者、雑誌旅行時代社を経て著述業」、これは間違っていなかったようなのですが、所載の本は『南国の民話と民謡』ではなく『南の民話と民謡』(白揚社/昭和18)と、肝心の題名を微妙に誤って覚えていました。
戦後、昭和22年から24年にかけては『新日本歴史』(新日本歴史学会)全8巻の編集を務めていますが、没年は不詳のようです。
参考
*奥須磨子「資料・松川二郎」/『東西南北』和光大学総合文化研究所年鑑2005/〈和光大学リポジトリ〉