【2011年5月28日】
雨。西部古書会館、中央線古書展。
ガレージ会場。このところ外出用にロラン・トポル『カフェ・パニック』を持ち歩いていて、もうすぐ読み終わるのだが、そのトポル式に《それ俺の》と命名したくなるような《それ俺の》氏は、氏が確保して積み上げた本に私の手が触れると「それ俺の!」と叱りつけるが如くに所有権を宣言するのでびっくりするのであった。
別段、横取りをしようとしたわけではなくて、積み上げた本の下に隠れている本を確認したいだけで、つまり「これをどけてください」と私は願うのだが、《それ俺の》氏は相手にしてくれない。
以後、何人かが同じように「それ俺の!」の一撃を喰らっていたのだが、いくら所有権を脅かされようともついに自ら持ち運ぶという自衛手段は用いず、それらの本はそこに置きっぱなしなのである。
遙か彼方から「それ俺の!」は矢の如く飛んでくるのである。
室内では、品川力『吃々亭雑記』、高橋邦太郎『書痴銘々伝』、日本古書通信社のこつう豆本を2冊。各200円。
牧逸馬『町を陰る死翼』(教養文庫)100円。
廣田尚敬/関崇博『日本の特急列車』(カラーブックス)300円。
バラ売りの絵葉書の中から、高尾山と朝熊岳と比叡山のケーブルカーの絵葉書3枚、各100円。このごろ、ケーブルカー風景の古い絵葉書を探すのが癖になりかかっている。
中野に移動してブロードウェイのまんだらけ。
豊原路子の体当たりを2冊、『体当たりマンハント旅行記』と『体当たり男性論』(いずれも第二書房)、315円と525円。
『ポルノ仕掛人―大人のおもちゃ考』南由季夫(現代ジュゲム・プロ)315円。
さらに『恋愛免許証』(著者名失念)が琴線に触れるが1575円という微妙な値段に今日のところは先送り。
古書うつつをざっと眺めて、雨の中を回遊魚みたいに高円寺へと戻る。
ネルケンにて『カフェ・パニック』読み終わる。
都丸支店の店頭壁棚から、早川良一郎のエッセイ集『散歩が仕事』(文藝春秋)200円と、平山蘆江のイロイロ話『新いせ物語』(住吉書店)300円。
時間も頃合となり、それでは私のカフェ・パニック、ガード下の四文屋へ。……と言っても、私はここで奇想天外な面々と交流するでもなし、ただぼんやりと焼酎梅割りを呑むだけだが。
ホロヨイのささま書店。
滝田ゆう『昭和ベエゴマ奇譚』(旺文社文庫)525円。
背表紙がだいぶ痛んでいるけれど、5月の読書は『昭和夢草紙』『昭和ながれ唄』『寺島町奇譚』『しずく』『銃後の花ちゃん』『下駄の向くまま』と、何だか〈滝田ゆう月間〉みたいな展開であったし、すぐにも読みたい1冊だからあれこれ言わず買っておこう。
宮脇俊三/松尾定行『中央線各駅停車』(カラーブックス)210円、本間國雄『東京の印象』(現代教養文庫)420円、『赤羽末吉遺作展』図録(いわさきちひろ絵本美術館)105円と軽快に進んで、その先の棚にさりげなく『ナンセンスの機械』が並んでいた。
さりげなく、とは適当な形容ではないのかもしれないが、以前この店内で見かけた1冊は、ビニール封入の特別扱いで、書棚ではなく帳場の前面に、12600円の値札も凛々しく展示してあったのだ。
やや呆気にとられて裏表紙をめくると5250円。あのときの半値以下である。
表紙に少々の汚れがあって、帯も備わっていないからこの値段なのかもしれない。
ふとよぎるのはいよいよ復刊を間近に控えての放出なのでは、という疑問で、曰くありげである。
いや、たとえ明日復刊されるのだとしてもそれは構わない。
ただそれにしても、5250円……。
昨年夏の京王百貨店の古書市で見つけたとき、それは8000円で、もう一声、と古本の神様に願を掛けたのではなかったか?
たしかにこれは神様からのもう一声だ。
さらにもう一声とはいくら何でもおこがましい。これを見送るようでは罰当たりというものだ。
ブルーノ・ムナーリ『ナンセンスの機械』(筑摩書房)5250円、購入する。
【2023年3月追記】
ロラン・トポル『カフェ・パニック』(創元推理文庫/1988年)は奇妙愉快な小説だったことをぼんやり憶えていて、それがどう奇妙だったのか、改めて見返したいのですが、どこかに埋もれていてどうしようもありません。
◇
『ナンセンスの機械』はこのときすでに復刊されていました。
題名が『ムナーリの機械』と改題され、発行所も筑摩書房から河出書房新社へと変わっての復刊でした。
そんな事とは露知らず、見当はずれの憶測をしています。
傍から見ればマヌケの一言に尽きるようではありますが、探し続けてやっと手に入れたこの本、そのマヌケぶりもひっくるめて、今なお忘れ難い1冊となっています。
『ナンセンスの機械』につきましては下記合わせてご参照ください。
→【2010年12月27日/2023年3月追記】西荻窪のナカマ模型で古本を買う