【2011年7月15日】
朝、咳が止まらず身体がだるい。
先月あたりからぐずぐずと長引いていた夏風邪がようやく治まりかけたと思っていたら、反対にこじらせちまったようだ。
熱、8度3分。神保町行きは取りやめる。
趣味展の当日にこじらせるとは日頃の鍛錬が足りませんな。
目覚めたまま起き上がりもせずまた少しうとうとして、ふたたび目が覚めると時刻は恰度10時。
ああ、開場の時間だ。
眼前に扶桑書房の棚(の幻影)が浮かび上がり、朦朧と宙をまさぐってみる。
【7月16日】
洟水と、身体もまだ半フラ(半分フラフラ)だが、とにかく厄介な咳は治まったので神保町へ。
東京古書会館、2日目の趣味展。
扶桑書房を皮切りにぐるりと会場を1周。結果は『定食バンザイ!』今柊二(ちくま文庫)300円、1冊だけの静かな収穫だった。
特筆するような大発見に恵まれなくとも、数多ある古本の前を黙々と通り過ぎること、それだけで細胞の一粒一粒に活力が満ちてくるようでもあるのである。メジコン錠15mgはよく効いてくれたようだけれど、いちばんの特効薬は古本なんだろう。
そうは言っても屋外はこの日照り、今日は新橋古本市の最終日でもあるのだが、SL広場の炎暑はさすがに応えそうで新橋行きは見送る。
田村書店の店頭で『アーネスト・ダウスン作品集』(岩波文庫)200円。
ミロンガで小憩のあとは、山陽堂までの店頭棚を簡単に眺めて帰途に就く。
途中、旧巌松堂の空き店舗のガラス戸にカーテンが掛かっていて、その陰に古本の束が見える。するとここはまた古本屋として新生するのか?
【2023年4月追記】風邪と古本
少々の風邪気味くらいなら、家で安静せずに古本のある所へ出かけたほうが健康のためには却ってよい、ということは確かにあるようです。
病は気からの気が恢復してくれます。
即売展の会場で、ごく稀にではありますが、風邪の絶頂というようなお客さんを見かけることがありました。
顔を真っ赤にして、ごほごほ咳き込んで、傍から見ていて心配になるほどですけれど、当人にとってみれば今ここに来ることこそが最善の療養法なのでしょう。
そこまでして古本なのかと思いつつ、そこまでしなければ古本の道を究めることは出来ないのだと、畏敬の念を抱かざるを得ません。
新型コロナウイルスの大流行で状況は一変しました。
会場の入口では検温が行なわれ、7度5分以上の発熱が見られる場合は入場お断りという決まりになります。
実際に入場を断られたお客さんがどれくらいあったのかは判りません。
少なくとも、自分で目撃したことはありません。
外出そのものが用心される日々でしたし、体調不良の際は来場を控えるよう呼びかけもありましたから、そこまでする人はほとんどいなかったのではないかと思われます。
古本に集う豪傑たちを思うと、まったくいなかったわけではないのかもしれませんが……。
ここにきて様々な規制がようやく緩和されるようになり、即売展の会場も以前の光景を取り戻しつつあります。
入場の際の検温も必須ではなくなりました。
何もかもが急に元に戻ることはないでしょうし、この3年間に浸透した行動の仕方が新しい標準になってゆくのかもしれません。
少しでも体調のすぐれないときは、無茶をせず安静第一を選ぶ人が増えるのだと思います。
病軀をおして即売展に邁進する姿というのは、もはや隔世の感ありです。
しかしそういう古本の鬼が、たしかに存在していた時代がありました。
古本を追い求める執念に、古今の違いはないはずです。
10年後が早すぎるのならば、50年後あるいは100年後の即売展会場に、ごほごほ咳き込みながら鬼はよみがえるのかもしれません。