【2011年7月22日】
南部古書会館、五反田遊古会。
1階、階段口の隅の平台に『こどものとも』や『キンダーブック』に混じって『詩とメルヘン』が何冊か並んでいた。
いつ頃の号だろうと見てみると、おや、創刊号が出てくる。
10年前なら小躍りする場面なのだが、あろうことか他人事のように、いくらかは狐につままれたように、きょとんとしてしまう。なるほどねえ。
折角の創刊号との初対面に、なるほどねえ、とは、引き合わせた甲斐がないと古本の神様は嘆くだろう。流れる月日に流されながら、しかしこれはこれで、発掘の快感とは別種の、物静かな感慨につつまれる。時代の埋れ木のような『詩とメルヘン』であるのかもしれないのだが、階段の隅っこに1冊200円で放出されているのだとしても、まだまだ現役の商品として健気に活躍しているのである。
創刊号のほかに、創刊年(1973年)に発行された、3、4、5号を合わせて購入。きちんと揃わずに第2号だけ欠けているあたりが古本世界の妙なのだろう。
1階ではもう1冊、自由国民別冊『酒のみとタバコ党のバイブル』を追加。小野佐世男、石黒敬七、徳川夢声などなど、にぎやかな執筆陣だ。
2階に上がって、鉄道郵便印の入門書『わかり易い鉄道郵便印の話』。車体の側面に〈〒〉マークが付いた郵便列車はすでに全廃になったはずだが、それはいつ頃のことだったのだろう。門司発福知山行きの鈍行列車に乗った折、その列車は郵便車を連結していたから、途中の駅でしばらく停車したときにそこへ出向いて、官製はがきに〈門司福知山間〉の消印を捺しもらった。と、昔々の鉄道旅行のことを思い出した。
そのほか、東郷青児。2階は2冊。
購入メモ
*五反田遊古会/南部古書会館
『詩とメルヘン』創刊号/1973年4月(サンリオ出版)200円
『詩とメルヘン』第3号/1973年10月(サンリオ出版)200円
『詩とメルヘン』第4号/1973年12月(サンリオ出版)200円
『詩とメルヘン』第5号臨時増刊号/1973年12月(サンリオ出版)200円
『酒のみとタバコ党のバイブル』自由国民別冊/昭和25年9月(自由国民社)200円
『わかり易い鉄道郵便印の話』植野良一(萬趣会)200円
『新男女百景』東郷青児(東西文明社)500円
神保町へ移動して、旧巌松堂図書に差し掛かると、新しい古本屋が開店している。澤口書店になったようだ。移転なのか支店なのかは不明だが、あとでゆっくり訪れよう。
まずは東京古書会館の和洋会。
ううむ、1冊も見つけられなかった。先週今週と東京古書会館は不発が続く。
小宮山書店ガレージセール、田村書店百円均一段ボール箱、ミロンガで一休み。
それでは改めて澤口書店へ。店先には開店祝いの花環が並び、店員さんは店頭棚の整理に忙しい。店内の棚はまだ隙間が目立つ。しかしこれは巌松堂の閉店謝恩セールのときのように、どんどん古本が減ってゆく寂しい隙間とは反対に、これからどんどん継ぎ足されてゆく未来への隙間だから、むしろ頼もしい。
新店の魅力に加え、巌松堂図書の跡地ということが懐旧派を呼び込むのか、次から次と千客万来。ちくま文庫など充実しており、滝田ゆう『泥鰌庵閑話』の在庫はうれしかったが上下2冊で4000円ということで引き下がり、結局、御祝儀をはずむでもなく手ぶらで出てきてしまったのはいかにも野暮だった。
山陽堂書店まで店頭伝いに歩き、それからアムールショップ、荒魂書店、湘南堂書店、ブックダッシュ、さらに神保町古書モール、古書かんたんむと粘ったものの、いずれの店も買物ナシ。
古書会館から始まって、神保町で購入零冊とは、よほどの玄人かただのもぐりか、やけに涼しい空気の中を、私はただのもぐりとなって地下鉄の駅へ。
【2023年4月追記】『詩とメルヘン』/澤口書店巌松堂ビル店
やなせたかし責任編集の雑誌『詩とメルヘン』は、1973年4月に季刊誌として創刊。
翌1974年に月刊となり、2003年8月号で休刊となるまで、約30年間に通算385号が刊行されました。すべてサンリオ(当初の表記はサンリオ出版)からの刊行です。
読者が投稿した詩やメルヘンの作品にイラストレーターが絵をつけるという誌面構成が、最大の特徴です。
私も幾度か投稿を続けては没を重ねましたから、たまに掲載に至ったときには天にも舞い上がるような気分でした。
見開きページにどーんと、自身の拙い作を読み返せば身悶えしますが、流麗なイラストが大いに助けてくれて、うっかり一人前を気取ったものです。
しかも稿料まで頂けました(たしか詩一篇8000円だったでしょうか)。
しかしそのことよりも、誌面を通じて、やなせ先生を敬慕する多くの方々と知り合う機会を得られたことが、何にも替え難い賜物でした。
先生、と言っても直接の教えを受けたわけではなく、ただ遠くからお慕い申し上げるばかりでしたが、秘かに恩師と呼んで私淑しておりました。当時も、2013年にお亡くなりになったあとも、これは変わりません。
一時期は『詩とメルヘン』の全巻を揃えるという大望を抱きました。神保町のみわ書房で大量のバックナンバーを発見し、何回かに分けて、せっせと持ち帰ったこともあります。
志は長続きせず、全385冊のうちの半分集まったかどうかというところでついえてしまいましたが、それから数年後、ようやくのように創刊号と巡り合いました。
いくら探しても見つからなかった古本は、探すのをやめて、探していたことさえ忘れたころにぽこりと現われる。こんな古本格言があるのかどうかはさておき、そういうことは確かにあるようです。
◇
巌松堂図書(2010年11月21日閉店)の店舗跡を受け継いで開店した澤口書店は、移転ではなく新しい支店でした。正しくは「澤口書店巌松堂ビル店」です。
当時の澤口書店は神保町のひとつ隣りの小川町駅近くに「本店」を構え、また神保町交差点の西側に支店「神保町店」がありました。
巌松堂ビル店は2つ目の支店になります。
さらにその後、2014年11月には、巌松堂ビル店のすぐ近くに3つ目の支店となる「東京古書店」が開店し、澤口書店は盛大な躍進を続けます。
2017年に古書店街からは少し離れた小川町本店は閉店となりましたが、靖国通り沿いの3店舗は現在も営業しており、そのほか南部古書会館の即売展や各種の古本まつりにも積極的に参加するなど、神保町でもっとも勢いのある古書店のひとつです。
巌松堂図書の閉店については下記ご参照ください。
→【2010年11月19日/2023年2月追記】巌松堂図書の閉店謝恩セール