【2011年7月23日】
西部古書会館、中央線古書展。
車庫の廉価本から久野久『火山及び火山岩』(岩波全書)。いくら150円だからと言って、あるいは著者の名が上から読んでも下から読んでも山本山みたいで珍しいからと言って、なぜ火山が必要なのか、自分でも判らない。
もう1冊、竹田敏彦『女性の旗』(春陽堂文庫)100円。
室内では2冊の東成社ユーモア文庫が発見だった。南達彦『禁酒先生』300円と川原久仁於『青春サーカス』800円。両方とも表紙には同じ蔵書印が捺してある。『禁酒先生』のほうは表紙に描かれた禁酒先生の顔の部分に捺してしまっている。
なぜそこに? と言いたくなるような蔵書印の位置が販売価格に反映されているのかもしれない。
それは単なる憶測だが、作家の名で言うと、南達彦はぽつりぽつりと見かけることはあるが、川原久仁於はほとんど見かけない。そのあたりにも500円の差があるのかしらん。
その他、『ダダ・シュルレアリスムの時代』塚原史(ちくま学芸文庫)500円、『松岡譲三篇』(EDI叢書)150円、『画家のことば』香月泰男(新潮社)300円、合わせて購入する。
今日も案外と涼しい気候で、軽快に徒歩で中野。ブロードウェイを巡回する。
高円寺に戻り、ネルケンで珈琲。
都丸支店の店頭棚より『アロイス・カリジェ展』図録(NHKサービスセンター)300円。
ガード下四文屋で3杯目の焼酎を呑みながら、先日、みちくさ書店で見かけた『雑文集古本と古本屋』の消息を想う。
4500円。もし売れ残っていたら、思い切って買ってしまおうかと、ホロヨイになれば紐もゆるむ。
一路、国立へ。
『古本と古本屋』売れていた。今回は縁がなかった。
【2023年4月追記】東成社版ユーモア文庫
東成社の「ユーモア文庫」はどのような本だったかと、しばらく探してみましたが『禁酒先生』も『青春サーカス』も見当たりません。
どこかに埋もれています(上掲の表紙図版は購入当時に記録しておいたものです)。
その代わりに同じく東成社ユーモア文庫の1冊、『星座と花』北町一郎(昭和19年2月再版)が出てきました。
同書奥付によりますと発行所である東成社の所在地は「東京市小石川区大塚仲町41」、発行者は「北原智惠」となっています。大塚仲町は現在の文京区大塚3丁目・4丁目です。
奥付ページから後ろの巻末にはユーモア文庫の書目と作者名が列記してあります。
『喧嘩三代記』佐々木邦から始まって『宛名のない手紙』宇井無愁まで、3ページにわたって、じつに71冊が載っています。定価は各1円50銭。
近江帆三、海老原鯛人、松浦泉三郎など、この巻末目録で初めて名前を知った作家も見受けられます。
国会図書館の蔵書を調べてみると、このユーモア文庫は昭和15年から昭和19年にかけての刊行だったことが分かります。
ただし、同館の書目数は48冊しかなく、20冊以上の収蔵漏れがありますので、刊行期間は前後するかもしれません。正確な総冊数も判然としません。
なお、「文庫」の名称ではありますが、その判型は文庫本の大きさではなく、それより大きい四六判です。
また、東成社には「ユーモア小説全集」という別のシリーズもあります。
こちらは戦後、昭和27年から28年にかけての刊行。
『顎髭物語』源氏鷄太、『この年初恋あり』中野実など、国会図書館の蔵書で24巻までは確認できますが、これで全てなのかどうかはやはり不明です。
ユーモア小説全集の手持ちの1冊、『恋のヤブ医者』日吉早苗(第23巻)の奥付では、発行所が「東京都千代田区神田神保町3」に、発行者が「北原義雄」に、それぞれ変わっています。
同名異社というわけではなく、東成社そのものは同じ会社だと推測されますが、そう断言できる資料は見出せていません。
ユーモア小説のような娯楽の読み物は、大切に保管されることは少なく、読み終わったらすみやかに処分されてしまう宿命を背負っているようです。
しばらく時が経つと、あらかたは散逸してしまって、その存在すら記録されないという書物も多くあるでしょう。
しかし地上から完全に消え失せてしまうというわけではなさそうです。
古本屋の店先に、即売展の会場に、どこからともなく現われることがあります。
全貌を捉え難い東成社のユーモアシリーズですが、戦後のユーモア小説全集は割合に見かけます。
帯が備わっている本は珍しいようですが、即売展では1000円以下で並んでいることも多くあるようです。
戦前のユーモア文庫のほうはなかなか見かけません。