【2011年8月27日/2023年4月追記 】好書会、あいおい古本まつり

【2011年8月27日】
西部古書会館、好書会。
ぶっくす丈の棚にて『中野実集』現代ユーモア文学全集第2巻(駿河台書房)と、『随筆北海道』山下秀之助編(青磁社)、どちらも500円。
『随筆北海道』は北海道にまつわる随筆を集めたアンソロジーで、隣りには『続随筆北海道』も一緒に並んでいたのだが、正篇に収録されている坂本直行と木田金次郎の文章が読みたかったので続篇はパス。
折角なんだからあれこれ言わずに正続揃えて買えばよさそうなものだが、こういうちょっとした所作で、その人物の古本に対する器が測られるのだろう。つまり私の器は半分だ。
啓明書店が『リヴァイアサン』ホッブズ(岩波文庫)全4冊を100円で放出していて思わず腰砕けになる。値札の元値1500円が二重線で消してあるからこの価格で間違いはないと思うのだが、一応、会計の際に4冊100円でよいのか確認してみた。そう書いてあるからそうなんでしょう、との返答だった。

ホッブズ「リヴァイアサン」第1巻表紙
『リヴァイアサン』第1巻 ホッブズ/水田洋訳
(岩波文庫/1992)

高円寺の町は午後3時からの阿波踊りを控えて沸々とたぎり始めている。
この日この場所に赴きながら、古本だけを眺めてさっさと居なくなるのは、それこそ正真正銘の阿呆というものだろう。似たようなことを去年の日記にも書きつけたはずだな。

中央線、南北線、有楽町線と乗り継いで月島へ。
高齢者介護施設「相生の里」にて、あいおい古本まつり。今日と明日の開催。
まつやまふみお『柳瀬正夢』カバー付きの出現に胸ときめいて、売価7000円に悄気る。
購入は新書判の楠本憲吉『昭和元禄どうらく帖』(徳間書店ベッドサイドブックス)500円、1冊。
この施設の建物は晴海運河に隣接していて、裏口から外へ出ると、曇り空の下、運河の水が眠たそうにたゆたっている。潮の匂いがする。
清澄通りを歩いて、出久根達郎氏が店員を務めていたこともあるという文雅堂書店を訪れてみるが、月島3丁目30番地、すでに古本屋の痕跡は消えていた。
2000年版『全国古本屋地図』を未だに携えて実用しようとするほうがおかしいのだろう。
……もう無くなった文雅堂に行ったつもりになって、それからあそこの酒店の角打ちで一杯やったつもりになって、行ったつもりの文雅堂から買ったつもりの古本をひろげ、カップ酒をおかわりして、いつしか、酔ったつもりになって……。
さっき、運河風景にどことなく焦点が合わせられずに茫洋としていたのは、大きな工場の大きな煙突が見当たらなかったからかもしれない、と的外れの考察を試みる。
来た道を戻り、荻窪のささま書店に寄道して永瀬清子『短章集』(思潮社詩の森文庫)315円を買う。

楠本憲吉「昭和元禄どうらく帖」表紙
『昭和元禄どうらく帖』楠本憲吉
(徳間書店=ベッドサイドブックス/1969)

【2023年4月追記】あいおい古本まつり/文雅堂書店
相生の里「あいおい古本まつり」は2011年3月に初開催。
この8月は第2回です。
介護施設での古本まつりと聞くと、一般の人たちが出品するバザーのような雰囲気がまず思い浮かぶのかもしれませんが、あいおい古本まつりは古書組合加盟店が10店近く参加、合わせてトークショーも行なうなど、本格的な古本まつりでした。
2013年8月の第5回が最後の開催だったのではないかと思うのですが、正確なところは分かりません。
月島近辺での古本まつりは珍しく、今まで行ったことのない土地へ、折角探訪の機会を与えられたというのに、もんじゃを食べるでもなく、お土産に佃煮を買うでもなく、ただ古本ばかりに執着して、まったく不粋な振舞いです。
地下鉄月島駅から歩いて行くと、会場の手前にレバーフライのお店があったことだけは何故だかよく覚えています。
  ◇
月島3-30-4に「文雅堂書店」を尋ね歩いていますが、その後入手した『古本屋名簿―古通手帖2011』(日本古書通信社/2010)を紐解きますと、同店の所在地は月島1-4-5となっています。
閉店したのではなく、町内の別の場所へ移転していたということだったのですが、そうとも知らず、どこにも無い店舗を探していたわけです。
10年前の『全国古本屋地図』をたよりにして探し歩くと、こういう結果を招きます。
ちなみに文雅堂書店については以下の記述が見られます。

《高円寺の芳雅堂出久根氏はこの店の出身で、店員時代を題材にした作品がいくつかある》
―『全国古本屋地図2000年版』(日本古書通信社/1999)

その後、文雅堂書店は江東区新大橋2-6-3へと、さらに移転します。
店舗販売の他にも、東京古書会館の「下町書友会」「我楽多市」「城南展」と、3つの即売展に参加されていました。
しかし、下町書友会は2022年4月、我楽多市は2022年7月、城南展は2022年10月、以上がそれぞれ最後の参加となっています。なお我楽多市は2022年7月をもって休会、城南展も2023年1月をもって休会となっています。
2022年に即売展への参加をすべて取りやめた文雅堂書店ですが、現在、「日本の古本屋」で店舗を検索してみますと、該当がありません。
即売展の退会と共に店舗も閉店となってしまったようです。
2018年8月、月島から新大橋へ移った店舗の探訪に出かけたのですが、残念ながら休業でした。
訪れたのはそれが最初で最後。
文雅堂書店はとうとう店内に入ることなく終わってしまいました。