【2011年8月28日/2023年4月追記】『古本年鑑』を買い逃す

【2011年8月28日】
朝、別冊太陽『古書遊覧』をめくっていたら、巻末の読物記事のなかで山下武氏が古典社の『古本年鑑』を紹介している。
1933年から35年にかけて3冊が刊行されたらしいのだが、そのうちの2冊までを昨日の好書会で見かけた。たしか1934年版と1935年版だったと思う。
見かけておきながら、しかし『年鑑』と名乗っているくらいだから、毎年毎年、もっと何年にもわたって巻数を重ねたのだろう。そのうちの2冊だけ持っていても仕方がないか、と速断しつつ、値段も確かめずにあっさり見切りをつけてしまった。
そうではなかったのだ。
山下氏は《業者と一般の古書愛好家向けに編まれた『古本年鑑』が役に立つ》と記し、また記事に添えられた同書の図版には《現代も知っておいて損はない項目が満載》とコメントが付いている。
ああ、満載! その満載の3冊のうちの2冊となれば、結構な出物ではなかったのか。無知というのは罪なものなのである。無知を補う勘もないのである。
一縷の望み。一路、高円寺。連日の好書会。
『古本年鑑』……無かった。買い逃す。
大屋おおや幸世ゆきよ『蒐書日誌』第3巻(皓星社)1000円を買うことにして、その場でちょっと立ち読みすると藤沢桓夫たけお『大阪手帖』についての記述があり、その『大阪手帖』ならこの会場で見かけた覚えがある。
改めてうろうろすると、ぶっくす丈の棚に『大阪手帖』はあった。三島書房刊、300円。
『古本年鑑』には敢無く見放されたが、そんな個人の状況などにはお構いなしに、古本と古本は、どんどんつながってゆく。
その他、『サムライ記者』入江徳郎(鱒書房)100円、『ひとつの文壇史』和田芳恵(講談社文芸文庫)350円を合わせて買い求め、『古本年鑑』の隙間を埋める。

大屋幸世「蒐書日誌三」表紙
『蒐書日誌三』大屋幸世(皓星社/2002)
藤沢桓夫「大阪手帖」表紙
『大阪手帖』藤沢桓夫(三島書房/昭和21)

久しぶりに西荻窪で降りて、盛林堂書房の店頭100円均一から『ヨーロッパ鉄道旅行(Ⅰ)イギリス』植田健嗣(カラーブックス)。店内のショーウィンドウ、というよりは宝物殿と呼びたくなるようなその一隅に神々しいばかりに安置されたあまとりあ社の新書判、『不思議な巷』、『白昼艶夢』、うっとり拝む。
続いて、にわとり文庫。池袋の古本まつりではずいぶんお世話になっているのだが、なかなか店舗では買えませぬ。
なずな屋で『お臍の効用』高野六郎(北光書房)500円。著者曰く《お臍は人生の史跡名勝である》と、そんなふうに言われると買わないわけにはゆかなくなる。
古書花鳥風月は初めて訪れる店。中公文庫版『徳川夢声戦争日記』全7冊で4500円、ほとんど購入の決意だったのだが寸前で回避して、『フクちゃん随筆』横山隆一(講談社)880円に落ち着く。

高野六郎「お臍の効用」表紙
『お臍の効用』高野六郎(北光書房/昭和22)

【2023年4月追記】古典社『古本年鑑』
別冊太陽『古書遊覧』(平凡社)の巻末で『古本年鑑』を紹介している記事は、山下武「古書に関する本」。
山下氏は『古書礼讃』『古書縦横』『古書発掘』(いずれも青弓社)など多くの古書随筆を著わしています。書物にまつわる該博な知識と、歯に衣着せぬ物言いは、古本界の御意見番といったところでしょうか。
さて『古本年鑑』、「古書に関する本」の文中では「1933~5年刊」となっていますが、もう1冊『1936・37年版』があり、計4冊が刊行されています。
この日の好書会では見事に買い逃しましたが、その後、33年版から35年版の3冊までは入手することができました。
『1933年版』の目次をひろげてみますと、「古本界年譜」「書誌雑誌年表」「現行書誌雑誌目録」「本邦書誌関係図書目録」…「全国古本商名簿」「世界古本商名簿」…「最新古本時価表」「和本漢籍時価表」などなど、まさに満載です。
巻末には全国各地の古本屋の広告が20ページほど載っていて、これも結構面白い。
表紙には「おゝ役に立つ」と、愉快な謳い文句が銘打ってあります。
刊行から90年が経った今、一般読者にとって実際どこまで役に立つのかは何とも言えませんけれど、とにかく情報量が厖大ですから、見ていて見飽きることはありません。
版元は古典社。静岡県沼津の出版社です。
『古本年鑑』の他に、古書売買や古書店開業についての実務的な本や、書物雑誌『図書週報』を刊行しています。
活動期間は昭和初期からの十数年間と、ほとんどが戦前に集中しています。
中央から離れた地で、渡辺太郎という人物が個人で経営していたこの小さな出版社については、社主ともども全体像が容易につかめません。
もはや大方から忘れ去られているのはやむを得ないのでありますが、古本史のみならず書物史を語るうえでは欠かすことのできない出版社と言えるでしょう。
なお『古本年鑑』全4冊は、1994年に大空社から復刻版が刊行されています。
古典社版の各冊の古書価はおおよそ3000円前後だと思います。

参考
*小林昌樹「『図書週報』復刻の意義と経緯」/〈日本の古本屋メールマガジン2015年2月19日〉
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西荻窪の「なずな屋」と「古書花鳥風月」はすでに閉店となりました。