【2011年9月2日/2023年4月追記】『東京都古書籍商業協同組合機関誌』とかライトノベルとか

【2011年9月2日】
東京古書会館、愛書会。
雑誌を集めた棚に『東京都古書籍商業協同組合機関誌』という小冊子が十数冊並んでいる。
舌を嚙みそうな誌名が示すとおり一般向けの内容ではないようだが、即売展でお世話になっている東京古書組合の機関誌であるし、折角の機会だから3冊ほど見繕ってみる。
「No.10/組合創立一周年記念特集号/昭和23年5月」「No.20/税問題特集号/昭和24年7月」「No.25/新年特大号/昭和25年1月」、各冊300円。
その他、『漱石の印税帖』松岡譲(朝日文化手帖)200円、『セックス博士風流譚』小池創之介(あまとりあ社)210円、『おんなイソップ物語』丸尾長顕(双葉新書)210円、廉価品でまとめる。

「東京都古書籍商業協同組合機関誌」No.10表紙
『東京都古書籍商業協同組合機関誌』No.10
/組合創立一周年記念特集号/昭和23年5月

古書店街の店頭棚を順々に辿り、神田古書センターに差し掛かると通り雨。ザッと降ってすぐ上がる。
九段下から東西線で高田馬場。BIGBOX古書感謝市で『財部鳥子詩集』(思潮社現代詩文庫)300円。
西武線で新宿へ出てサブナードの古本浪漫洲、こちらは買物ナシ。
このあとは高円寺のガード下四文屋へ行くつもりなのだが、まだ少し時間が早いので中野に寄道。
ふと思い立って、まんだらけのライトノベルの棚を観察する。
昭和初期のユーモア文学や明朗小説と、現代のライトノベルとは、案外と似通うところがあるのかもしれない。読者の年齢層あるいは個々の内容を較べれば相違点は多いとしても、物凄く大まかに見れば、ユーモアとかコメディとか、共通の要素をもった娯楽作品。文壇からは等閑視されるのかもしれないが、どちらも主流ではないにせよ、ひとつの確たる流れではある。勢いよく湧き出し、やがて伏流する小説群。気がついたら書店の店先から消えていて、後々、いざ古本で探そうとすると思いのほかに苦労する……。今はこれほど溢れ返っているライトノベルも、ひょっとしたらそのうち、どこにも見当たらなくなるのではないか? 
それが何か、と問い返されれば、それはそれだけのことであり、そうなってみなければ判らないことでもあるとはいえ、さてライトノベル。買えるときに買っておいたほうが賢明なのかもしれないけれど、だからと言って手当たり次第に買い込むわけにはゆかない。
そこで〈書物〉を題材にした作品はないかと探してみたら、何冊かあった。
『官能小説を書く女の子はキライですか?』辰川光彦(電撃文庫)367円、『少女と移動図書館』竹雀綾人(スーパーダッシュ文庫)262円、『”文学少女”と死にたがりの道化』野村美月(ファミ通文庫)210円、3冊ほど購入する。”文学少女”はあったけれども、さすがに”古本少女”の物語は見当たらなかった。
しかし、ああだこうだと御託を並べながら、その実は表紙のイラストに時めいただけなのかもしれない。

高円寺、ガード下四文屋。蒸し暑い日の夕暮れに、瓶ビール。古書会館でもらった愛書会の目録をめくりながら、鉄板の上ではホルモンの脂がはじける。
仕上げは都丸支店で蒼井雄『瀬戸内海の惨劇』(国書刊行会探偵クラブ)800円。

【2023年4月追記】東京古書組合の機関誌
東京古書組合の機関誌は、創刊が大正11年1月なのだそうです。
『古書籍商組合会報』の誌名で始まり、その後『東京古書籍商組合月報』、戦時中は『全国古書籍業統制組合報』、戦後になって『東京都古書籍商業協同組合機関誌』と、組合の変遷と共に幾度かの改題を経たのち『古書月報』に定着しました。
現在も隔月での刊行が続いており、通巻500号を超えるというそうですから、たいへん長い歴史をもちます。
誌名の移り変わりがややこしいのですけれど、『東京古書組合五十年史』の資料篇に「『古書月報』総目次」として、大正11年1月(第1号)からの総目次が掲載されています。
時代によって多少の違いはありますが、すべてひとまとめに『古書月報』と呼ばれているようです。
ただし号数の通し番号は戦前と戦後とで区別されていて、現在の通巻番号は、昭和22年5月の新創刊号を第1号として数えています。
総目次を辿ってゆきますと、組合員(古書店主)の書いた随筆が各号とも目白押しで興味は募ります。
2021年8月に刊行された『東京古書組合百年史』には「見よ、古本屋の豊穣なる世界―『古書月報』寄稿傑作選寸評集」と題した一章が設けられています。
中山信行(信如)氏が、2020年から過去50年分295冊の『古書月報』をさかのぼり、傑作記事を選び出しています。
誌面の都合上、記事の原文は載っていませんが、中山氏によるひねりの効いた寸評は、これまた傑作です。
執筆者と題名の紹介だけではやはり惜しかったと見えて、『百年史』刊行の3か月後には、それらの記事を収載した『古本屋的!東京古本屋大全』が、本の雑誌社より刊行となりました。
編著者は同じく中山信如氏です。定価2970円。
『百年史』の姉妹篇もしくは別冊とも言える同書は、当然併せ持ってしかるべきなのですが、そのうちに古本で(安く)見つけようと思いながら、未だに巡り合えていません。
新刊書店での立読みだけにとどまっているのは不徳の致すところです。
『古書月報』は組合員のための機関誌ですから、書店での販売はありません。
一般読者が手に触れる機会を得られないのは仕方ありませんけれど、たまに、即売展に出品されることがあります。手にとってぱらりとめくれば、古書の世界の奥のほうを垣間見ることができるのです。
組合の資料室には全巻が揃っているものと思われます。
そのままにしておくのは勿体ないような、名文、珍文(?)が、ぞろぞろと埋もれているのでしょう。

参考
*『東京古書組合五十年史』(東京都古書籍商業協同組合/1974)
*『東京古書組合百年史』(東京都古書籍商業協同組合/2021)

『百年史』は市販しています。
組合での予約販売は終了していますが、一部の古書店では残部の取り扱いがあるようです。
古書組合公式サイト「日本の古本屋」から購入可能な書店を探すことができます。定価8000円。