【2011年9月24日/2023年5月追記】『酒通』『青春日記』『落第読本』など

【2011年9月24日】
西部古書会館、中央線古書展。
9時半には会場に到着。こうして開場待ちの列の尻っぽに取りつけば、私も一丁前の書痴のように見えるのだろうか。
まずガレージが開門、なんとなく今日はいつにも増してハリキリの心構えでもあったのだが1冊も拾えず、この半書痴あるいは偽書痴はあっさり馬脚をあらわし、道端で煙草をプカー。
室内では、地質学者の石の随筆集『みちのく石の旅』宮城一男(津軽書房/昭和50)200円と、通叢書『酒通』鈴木氏亨(四六書院/昭和5)2000円の2冊。こう書くとまるで短時間の出来事のようだが、この2冊に2時間掛かっている。

鈴木氏亨「酒通」表紙
『酒通』鈴木氏亨

今日は空気が爽やかだ、秋の青空。中野まで歩く。
まんだらけ。官能小説に〈書物〉に関する作品がありはしないかと探してみる。なかった。
書物とエロは直結しないのか、いや、読書という行為は……そっとひらく、ときには押しひらく、めくる、夢中になる、われを忘れる……なかなか官能的な行為ではないだろうか。
そう言えば富士見ロマン文庫に『女編集長』という1冊があったようにも覚えているが、まんだらけの官能小説の棚はライトノベルにかぎられているようだ。もちろんこられが全てではないはずだから、エロライトノベルにしても、あちこち探すうちには図書委員長の秘密なんていう本と出くわすかもしれない。
4階のまんだらけ。野川浩『恋愛免許証』はまだ売れ残っていて、そろそろ購入の潮時かと、そう思いかけたところへ玉川一郎の短篇小説集『青春日記』(福地書店/昭和21)が出現する。装幀は長沢節で価格は1575円。この価格に押し出されるようにして、また『恋愛免許証』は先延ばしとなる。その代わりブルーノ・ムナーリ『太陽をかこう』(至光社/2005)315円を合わせて購入する。
2階の古書うつつにて宇井無愁『ケチのすすめ』(角川文庫/昭和52)300円。

玉川一郎「青春日記」表紙
『青春日記』玉川一郎

順路に則ればこのあとは高円寺に戻ってネルケンからガード下四文屋。
しかし四文屋へは昨日行ったばかりだし、今日は吉祥寺のいせやで仕上げることに決めて、まず荻窪へ。
ささま書店、店頭105円均一棚から『落第読本』辰野隆編(鱒書房/昭和30)と『児童文学入門』坪田譲治(朝日文化手帖/昭和29)。
店内で『強盗時代』徳川夢声(真光社/昭和23)840円。
吉祥寺。古本センターの蜃気楼めく書棚から『マダムXインモラル』(風林館/平成15)500円。
いせやにて瓶ビール、トリカワ、ネギ。隣りに座った御仁は今日の中央線古書展の目録を眺めていた。そうすると脇に置かれたその紙袋の中にはきっと今日の収穫の古本が入っているのだろう。どんな古本が入っているのか、他人の買った古本はとても気になる。

辰野隆編「落第読本」表紙
『落第読本』辰野隆編

【2023年5月追記】書痴
「書痴」すなわち書物に憑りつかれた人々。
『広辞苑』(第三版/岩波書店)では「本ばかり読んでいる者をののしっていう語」と定義されています。
「ののしって」というのはずいぶん辛辣ですが、傍の者からすればそう言いたくなるのも無理はないのかもしれません。
同類語に「書狂」「書淫」。また「書物蒐集狂」や「蔵書癖」といった意味合いもありますから、必ずしも読むだけにかぎったことではないようです。英語では「ビブリオマニア」です。
本好き、読書好きが嵩じて愛書家となり、さらに度が過ぎると書痴に行き着く、という図式でしょうか。
頭の中には本のことしかなく、世事にはまるで疎い。決して褒め言葉ではないのですが、もちろん、一朝一夕で為るような境地ではなく、一人前の書痴となるためには、それなりの知識と鍛錬が必要です。博識な読書家が、敢えて自らをへりくだって書痴と名乗ることもあるようです。
同好の士から書痴の称号を与えられたとしたら、それは一目置かれるという証しになりましょう。
語源や由来については詳らかにしませんが、日本での書痴の第一人者としては齋藤昌三の名が挙げられるでしょう。古本世界に分け入るようになると、必ずどこかでぶつかるはずの人物です。
書痴をそのまま題名に採り入れた本としては、その齋藤昌三『書痴の散歩』(書物展望社/1932)や、あるいは岩佐東一郎『書痴半代記』(東京文献センター/1968、のちウェッジ文庫/2009)が著名です。
最近では、2022年に山田英生編『書痴まんが』が、ちくま文庫より刊行されました。水木しげる、辰巳ヨシヒロ、永島慎二、つげ義春など、本を題材にした漫画作品のアンソロジーです。
一般的には使われる場面がほとんどない言葉ではありますが、死語となったわけではなく、今なおしぶとく生き延びている書物用語と言えるでしょう。
さて、初日朝一番の古書即売展には、いずれ劣らぬ書痴の先鋭が集まります。
誤解があるといけませんので書き添えておきますが、ここで言う書痴はもちろん尊称です。罵るわけなどありません。
開場を待つ行列の末端に取りつけば、早く自分も一人前の書痴に昇格したいと願いますけれど、経験と知識の不足は如何ともしがたく、いつまで経っても、半書痴あるいは偽書痴のあたりで低迷します。