【2012年10月12日/2024年11月追記】即売展の浅見書店の棚

【2012年10月12日】
東京古書会館、ぐろりや会
まずは浅見書店の棚から――
1 伊波南哲『南島珍談あな・おかし』(美和書院/昭和31)がありましたよ!
カバーがぼろぼろに破れていて今にも千切れそうなのだが、ようやく出くわした。状態にとやかくは言っていられない。
2 『携帯全国時刻表』1966年10月号(弘済出版社)。新幹線はまだ新大阪まで。
3 『近代建築』坂倉準三監修(岩波写真文庫/昭和32)。
4 『埴輪』(角川写真文庫/昭和31)。
5 『ピポ王子』ピエール・グリパリ(ハヤカワ文庫/昭和55/2刷)。
6 『鉄道』昭和5年4月号(模型鉄道社)。棚の下をごそごそやって引っ張り出す。
以上ここまでの6冊はみんな100円。ああ愉快。
芸林荘の棚にて坂本一敏『蒐書散書』(書肆季節社/昭和55/定本)、目玉が100円に慣れてしまうと1500円という値段にやや混乱。この新装定本には巻頭に数点の書影が収めてあり、旧版との大きな違いのようである。
品川工『モビール』(美術出版社/昭和43)300円はどこのお店だったか、何となく棚から引き抜くとカラフルなモビールの表紙が好ましいのだが、そういえば品川工という名前はどこかで見覚えがあって、たしか本郷のペリカン書房店主、品川力氏の弟さんではなかったろうか。
今回の目録では、なぎさ書房が伊東忠太『阿修羅帖』を出品しておりたいへん心を奪われたのだが、全5冊6万8000円では奪われたからと云ってどうにもならない。せめて一目だけでもと思ったが、会場では見かけなかった。

「鉄道」昭和5年4月号表紙
『鉄道』昭和5年4月号(模型鉄道社)

ミロンガで珈琲。今日の古書店街は、神田古書センターで『あおい目のこねこ』エゴン・マチーセン(福音館書店/2008/64刷)210円、山陽堂書店で『吾輩は蚤である』作者不詳(ロマン文庫/昭和59)100円。長島書店は店内の500円均一がなくなって普通の古本屋に戻っていた。
折り返してボヘミアンズ・ギルド、『パタシュ星をとる』トリスタン・ドレーム(牧神社/昭和51)500円は未知の児童文学だが、本文の青い活字に誘われる。もう一冊『ふるさとの味―東北―』伊能孝(カラーブックス/昭和47)200円と合わせて購入。伊能孝氏は『旅の穴場めぐり』の著者だ。

午後3時、高円寺ガード下の四文屋。焼酎の梅割りを飲みながら古書会館で貰ったヨコハマ古書まつりの目録を眺めていると、隣の席の御老人から話しかけられる。
御年77歳になられるそうだが、昔はよく神保町を歩いたのだとか。
それで、さっきまで神保町にいました、と言うと、おお! こちらをびっくりさせるほどに感激して泪まで流す。
高円寺から神保町(御茶ノ水)までは中央線で15分の距離なんだけれど、そういうことではなくて、77歳の大先輩の、これまでの人生の距離を窺わせるような感涙のようであった。
新居浜のご出身で、林芙美子を愛読すると仰有おっしゃるあたり、ちらりと『放浪記』が重なる。
曰く、読み書きが大事です。
また曰く、あなたは坂本龍馬に似ている。ぷふッ。
さらに曰く、正岡子規に似ている。太宰治にも似ている。ううん……。
だいぶん聞こし召している。先生はホッピーに氷は入れない。
77歳の感涙先生、一足先に席を立つと、最後まで目尻に泪を浮かべたまま、おぼろな足取りで路地を進み、丸い背中はその先の十字路を左に曲がって見えなくなる。
帰りがけ、ガード下の都丸書店の店頭で『広告の考え方・作り方』宮山峻(誠文堂新光社/昭和26)300円を買う。

【2024年11月追記】浅見書店
東京古書会館や西部古書会館の即売展に、浅見書店が精力的に参加をしていた一時期がありました。
初参加がいつ頃だったのかは定かにしませんが、たしか栃木県からの参加ではなかったかと記憶しています。
毎回、昔の雑本をどっさりと、仕分けなどには頓着せずに、倉庫をそのまま持ってきたと言うような偉観を見せてくれました。
くたびれていたり破れていたり、なるほど状態の良好ではない本が多かったのですが、何より、棚全面の廉価放出が魅惑でした。
なかにはあっと驚くような稀覯本も混ざっていたのかもしれません。
残念ながら世紀の珍書を掘り出す腕前を私は持ち合わせませんでしたが、そこそこの本には、そこそこならではの愉快があります。
いつも何かが潜んでいそうな気配に充ちている棚。たとえ何も見つからなかったとしても、そこに近づく瞬間のよろこびは、何か見つかった時と負けず劣らずのよろこびです。
即売展の会場に入ると、まずは浅見書店の棚を目指すという日々が続きました。
そう言えばこのところ浅見書店を見掛けなくなったと気づいたのは、2014年の年明けでした。
御主人は御高齢のようにお見受けしましたから、お店を畳んで引退されたのかもしれません。
いつのまにかやって来て、在庫の山を気前よく片付けて、これという知らせもなくまたいつのまにか、去ってゆく。
振り返ればわずか数年の短い期間でしたが、即売展に参加する数多くの古本屋さんのなかでも、浅見書店の名は今なお忘れ難いです。