【2012年10月13日】
西部古書会館、ちいさな古本博覧会。
ガレージで中村立行『ヌードを写す』(現代カメラ新書/昭和51)200円、股旅堂の出品で、そういえば春の古本博覧会では、股旅堂はあまとりあ新書をどっさり放出してくれたのだった。
今日もまずは股旅堂から取り掛かってみよう。室内に入ってすぐの棚。
あまとりあ新書はそれほどでもなかったが、その代わりに第二書房のナイトブックスが10数冊。秋山正美『ベッドのいじわる』(ナイトブックス/昭和45)を選ぶ、500円。
もう1冊、野川浩『未完成恋愛論』も500円のつもりで手にとったのだが、あとで確認したら1000円だったので、返却した。
さて、部屋の奥、盛林堂書房の棚は例の如くモーレツで、棚を丸ごと買い占めるんじゃないかという勢いで、片っ端から積み上げてゆく豪傑も。
この人気ぶり、あきつ書店と扶桑書房が東の両雄ならば、盛林堂書房は西の若大将かしらん?
東の両雄はいずれも、状態云々や棚作りにはこだわらず、種々雑多とにかく大放出の廉売で客をうっとり、もしくは逆上させるが、対して西の若大将はミステリを中心に、精選された粒ぞろいの棚を仕立て上げて客をうっとり、もしくは逆上させるようだ。
もはや隙間の目立つ書架に、ふと『ルヴェル傑作集』(創土社/昭和45)が目に入る。
先日読んだ牧眞司『ブックハンターの冒険』に紹介されていた本の中で、かなり気になった1冊、さっそく現われた。先陣の肩と肩とのあいだから、ひねるように腕を伸ばして手にとる。3500円。ふむ。
試みに、その隣りに並んでいた同じく創土社の『シュトローブル短篇集』を確かめてみると1500円。
このあたりの相場についてはまったく蒙昧だが、どちらも正当な評価か、或いは即売展ということで、相場よりは割安なのかもしれない。
新装版の有無や、他の出版社から手頃な価格で読める作品集が刊行されているのかどうか、あらかじめ調べておけばあたふたしないで済むものを、しかし調べる前に現われちまったものは仕方ない。勉強だ。
はらぶち商店の棚では、やなせ・たかし『まんが入門』(華書房/昭和40)発見。持っている本だけれど、100円ならば何冊でも買いたくなってしまう。帯付は初めてで、表に杉浦幸雄、裏に手塚治虫の短評が載る。
荻窪、ささま書店の105円均一棚。
腰の曲がったお爺様が棚脇の植込みの囲いに腰掛け、首をうずめるようにしてコーンフォード『ソクラテス以前以後』を熟読している。肉体の衰えに較べ、眼つきばかりが逸脱して鋭く、何やら鬼気迫る読書だ。
実際、お爺様は人間よりはもう、鬼か神様かに近づいているのかもしれなかった。
その妖気に当てられるように『14歳からの哲学』池田晶子(トランスビュー/2006/16刷)を手にとる。池田晶子氏の入門書と言えるようなロングセラーだが、いつでも買えるような気がして、いつも見送ってきた。もちろん今後も、あちらこちらの古本屋で見つかるはずだと思うのだが、此処で買え、と鬼が言った。
店内、児童文学の棚に『パタシュ』の3冊組(函付)があった。重複は承知で、この際だから買ってしまおうか、しかし3冊揃で6300円……。そうするとこのあいだの『パタシュ星をとる』の500円は、一寸した発見だったのかもしれんなあ。そしてここから新たに『…風になる』と『…夢であれ』を求めて、パタシュの彷徨が与えられる。
ミステリーの棚に『シュトローブル短篇集』4200円。そうか。博覧会では好機を逸したのか。勉強だ。
金城哲夫『ノンマルトの使者』5200円にため息をつき、今井田勲『私の稀覯本』(丸ノ内出版/昭和51)525円、購入する。
吉祥寺。いせやでチューを啜りつつ、『ルヴェル傑作集』の「ペルゴレーズ街の殺人事件」を読む。
イヤーな結末に身震い。買ってよかった。但し、物を喰いながら、特にお肉を喰いながら読む作品ではないようだ。
藤井書店を訪れて『ブダペストの古本屋』徳永康元(ちくま文庫/2009)300円と『図書館司書・麻里』斎藤晃司(二見文庫/2008)250円。
ふたたび南口に戻って古本センター、買物ナシ。そのまま並びの酒場に吸い寄せられて、ウーロンハイ。ルヴェル、読む。
「犬舎」「麦畑」「老嬢と猫」どれもこれも、物を喰いながら読んじゃいけない。だが読んでしまう。
【2024年11月追記】
西部古書会館の「ちいさな古本博覧会」は既に終了している催事です。
2008年から2012年にかけての毎年春と秋、計10回の開催でした。
つまり上述の日記の日が最後の開催だったということになりますが、そうと知ったのは翌年になってからのことでした。
いつも人気を集めていた盛林堂書房は現在、同じく西部会館の「Vintage Book Lab(ヴィンテージ・ブック・ラボ)」の他、同展から派生した均一展「高円寺均一古本フェスタ」に出品、また「神田古本まつり」にも参加されており、今も変わらぬ逸品ぞろいの棚で、古本好き、特にミステリー・ファンを虜にしています。
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荻窪の「ささま書店」は2020年4月に閉店。
店舗跡は同年7月に「古書ワルツ荻窪店」として新生し、店頭均一棚も受け継がれました。
吉祥寺の「藤井書店」は現在も盛業中です。即売展や古本まつりにも数多く参加しています。
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さて、『ルヴェル傑作集』はどうして物を喰いながら読んではいけないのか、今いちど読み返してみたいのですが、いったい本の山のどこに幽閉されているのか見当もつきません。
本を積み上げてはいけないのだと思います。
机の端に5、6冊なら一寸したインテリアにもなりましょうし、どうしても床に積み上げるつもりなら50冊くらいまでを上限にするべきです。
それ以上になると本は勝手に伸び上がって、持ち主の手には負えなくなります。
しかし長方形で適度な厚みと硬さがあり、そうするために誕生したのではないかと思えるほど、横積みを行なうにあたっては非常に適した形態です。
どうしても積み上げたくなる。誘惑を抑えきれない。
書物という物体を発明した恩人には、いくら感謝をしても足りないほどに感謝しておりますが、罪作りな発明です。